第28話「デート勝負は小江戸川越で!?」

「ともかく、わたしは脳筋の勝負にはつきあえないわ」

「脳筋勝負以外じゃあたしが勝てないじゃん! あっ! あたし料理もできるんだった! 料理で勝負!」

「料理勝負も却下よ。わたしが圧倒的に不利じゃない。将棋なら勝負してあげるわ。わたしはアマ初段の腕前だから」

「将棋ぃ!? あたしメチャクチャ苦手だから! ネット将棋で3級だもん!」


 さすが西亜口さん。日露ハーフなのに将棋が強いとは。

 俺ですらネット将棋で1級止まりなのに。


「うーん、それじゃお互いにアドバンテージがない戦いとなると、ほかになにで勝負すればいいんだろー」

「そうね……ここは……。…………じょ、女子力かしら?」


 西亜口さんの言葉から女子力という言葉が出るとは……。


「女子力なら料理ができるあたしがナンバーワン!」

「いいえ。料理ならカップラーメンやレトルトカレーが発達している現代においては重要な要素ではないわ! 一緒にいて楽しいか。それが大事なのよ。すなわち――」


 そこで西亜口さんは言葉を切り……なぜか顔を赤くする。


「え~、続きは?」


 里桜に促されて、西亜口さんはなぜか俺のほうをチラ見してから口を開く。


「ででで、デートよ! デート勝負!」

「えぇえっ!? デートぉ!?」


 な、なんだってーーーーっ!?

 デートだと!? なんてことを言っているんだ、西亜口さんは!


「で、ででで、デートは人間としての総合力が問われるわ! これなら体育系だろうと文化系だろうと関係ないでしょう?」


 そんなことを言っているものの西亜口さんの顔は赤くなってきている。

 これは勢いで言ってしまって、引っこみがつかなくなっている状態だろうか。


 ここは俺が阻止せねば。

 だが――。


「うぐぐ! ここで引けるかぁー! その勝負! 乗ったぁーー!」


 里桜が思いっきり乗せられてしまった!


「うっ……」


 たじろぐ西亜口さん。

 しかし、それも一瞬。


「い、いいわ! あなたよりもわたしが優秀であることを証明してあげる! こてんぱんにしてあげるわ!」


 ヒートアップする西亜口さん。

 このままだと俺がふたりとデートすることになるのか? 

 なんというハイパー棚から牡丹餅(ぼたもち)状態。

 

「そういうわけで祥平ー! あたしと勝負! じゃなかった! 勝負するのは西亜口さんとだった!」

「というわけで身柄を拘束させてもらうわ。あなたに拒否権はないわよ」


 なんでこんなことに! でも、まぁ……俺としては得してるだけなのか?

 しかし、西亜口さんとデートだなんてメンタル的に超絶ハードイベントすぎる。


 里桜とは子どもの頃に自転車でどっかに出かけたりしたりしてるので、これまでに女子と出かけた経験はないわけではないが……。


 でも、里桜だからなぁ……。男友達と変わらない。

 ……って、これまで俺に男友達と呼べる存在はいなかったかもしれない。

 いつも里桜がまとわりついてたからな……。昔から犬みたいなキャラなのだ。


「わーい! 祥平と出かけるの久しぶりー!」

「せっかくだから、ふだん行かない場所がいいわね……クラスの愚民たちと会うのも面倒だし」


 クラスメイトを愚民扱いか……。

 というか本当に俺の意思はガン無視なんだな……。


「うーん、ショッピングモールとかじゃつまらないしなー!」

「そうね。どうせなら観光地に行きたいわね」


 とは言うものの、埼玉北部のここから行ける観光地かつ俺たちの財力となると行ける場所は限られる……。


「あ、そうだ! あたし小江戸川越に行ってみたかったんだよねー!」

「あら、奇遇ね。わたしも行ってみたいと思ってたのよ。ロシアにいた頃からネットで見て蔵造りの街並みを散策したいと思っていたわ」


 さすが日本文化好きのふたりだ。川越をチョイスするとは。

 ちなみに俺はイトコが川越に住んでいたので幼い頃に何度か行っている。

 なので、そこそこ詳しい。


「……まあ、そこならクラスメイトとかもいなくていいかもな。昔イトコが川越に住んでたから俺もそこそこわかるぞ」


 多少店は変わってるだろうが、里桜や西亜口さんが好きそうな歴史的な建築物の場所はわかっている。


「えーっ!? そんなの初耳ー! 幼なじみのあたしになんで秘密にしてたのさー!?」

「いや、別に秘密にしてたわけでもないが……」


 イトコの話がそれまで出なかっただけだ。


 そもそもイトコ……南野未海(みなみのみう)はその後、さいたま市へ引っ越してしまったのだ。


 ちなみに年齢は一歳下なのだが、妙に懐かれていた。

 妹みたいな存在だった。元気でやってるかな……。


「なによ? ここではないどこかに思いを馳せている目ね?」 

「い、いや……」


 今思い返せば、未海は危険人物だった。

 俺の妹になることを目指して謎の妹活動をしていた。

 当時の俺は適当にいなしていたが、今思えば度を越していたと思う。


 もしかすると、その危険性を察知したからこそ東埼川家と南野家は俺と未海を遠ざけたのかもしれない。あるときを境に、パッタリと行き来がなくなったのだ。


「ともかく異存はないわね?」

「わーい! 小江戸川越行ってみたいー!」


 もうふたりは行く気マンマンである。


「まあ、久しぶりに川越行ってみるのもいいか……じゃ、今度の日曜かな?」


 蔵造りの街並みは見ているだけで落ち着く。

 西亜口さんや里桜ほどではないが、俺も日本文化が好きなのだ。


「おっけーい! それじゃ、けってーい!」

「わたしもオーケーよ。ふふ、楽しみね。ぜひ行きたいと思ってたのよ」


 満面の笑みで喜ぶ里桜と静かに微笑む西亜口さん。

 対照的だが、趣味が合うふたりだよな。


 まあデートというか遠足みたいなもんだし!

 気負わずに楽しめばいいか!


 こうして俺たちはひょんなことから川越へ行くことになったのであった――。

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