第41話「ミスター人畜無害」
二時間後――。
「……ぷしゅうぅううっぅうううぅ……」
魂の執筆を終えて、俺は口から空気を吐き出す。
書いた。推敲もした。
「さて、アップするか」
ちょいちょいちょいっと。
テキストエディタに書いた文章を投稿画面にコピペして、投稿ボタンを押す。
「よし。投稿した。……はぁ、疲れた。紅茶でも飲むか」
とりあえず温かいものでも飲んでひと息つこう。
俺は一階に降りて湯を沸かし、ティーパックの紅茶を淹れた。
「……ふぅ。さて、西亜口さんからどんな感想が来るか」
デートの部分は一気に書いてアップした。
まあ、ギャルゲーで言えば誰のルートにも行かないような書き方だけど。
「未海に読まれないだけマシかな。あと里桜にも」
今、顔見知りで俺の作品を読んでいるのは西亜口さんだけ。
「いや、でも、もし未海や里桜がネット小説投稿サイト読んでたらこの作品を見つける可能性もあるんだよな」
名前は変えていても小江戸川越散策という特徴的な要素を入れていれば気がつかれるかもしれない。まぁ、ランキング載っても下のほうだから大丈夫かな。
そんなことを思いながら、二杯目の紅茶を飲む。
「さて、感想来てるかな……」
トイレに寄って、再び二階へ。
「ん……?」
スマホにメールが来ていた。
確認すると西亜口さんからだ。
『浮気者』
「え、ちょっ、浮気というか、そもそも、俺、西亜口さんとつきあっていないというか、なんというか……」
――ブィイイン!
『やはりシベリアのわたしの屋敷に監禁するべきかしら』
今回の更新は西亜口さんを変に刺激してしまったらしい。
しかし、ありのままを書くしかできなかったのだ。
だって、みんな、かわいいのだ。
かわいいものをかわいくないとは書けない。
『あなたの主人がわたしであることは忘れないでほしいわね。毎日、朝、昼、晩の三回『わたしは西亜口ナーニャさまの下僕です』と口に出して十回唱えなさい』」
おそロシア……。
というか、今さらながらだけど、俺、下僕になった覚えはないんだけどな……。
「お。サイトのほうにも感想ついてるな」
こちらは読者からだ。ありがたいな、反応があることは。
モチベーションが上がる。
「ともかく、今年はラブコメを書き続けるか」
ラブコメを書くのがこんなに楽しいとは思わなかった。
西亜口さんの転校をネタに適当に書き出したものが、こんなことになるとは。
「人生わからない、人生わからなーい!」
我ながらテンションおかしい。まぁ、二時間ぶっ通しで執筆したからな……。
多少は許してほしい。
「今さらながら、なんで俺の周りにこんな美少女が……」
もしかして事故に遭って頭でも打って夢でも見続けているのか?
そう思うくらいには、人生激変しすぎである。
それとも前世で善行でもしまくったのか、俺は。
「……まあ、なんでもいいや。梅香さんが言ってたように、俺、女子からかわれやすいんだろうな……」
ミスター人畜無害。
それが役に立っているのだろうか……?
微妙に複雑な心境になる俺であった。
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