第30話「天真爛漫デンジャラス擬妹登場」
「ふぇ……!? お兄ちゃん!? もしかして、お兄ちゃんなの!?」
本丸御殿の奥のほうから出てきた小柄な制服少女が、俺を見て驚きの声を上げたのだ。
パッチリした瞳。口うるさそうな唇。天真爛漫さを絵に描いたような美少女。
この姿は、忘れようがない。
「み、未海……」
「やっぱり! お兄ちゃんだ! お兄ちゃあーーーーーーーーん!」
未海が駆け寄ってきて、すごい勢いで俺に抱きついてきた。
「おぉっと!?」
「わー! お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあーーーーーーん!」
狂ったように俺に体をこすりつけてくる未海。
……マジか。マジで未海なのか!
「……本当に、未海なのか?」
「そうだよぅ! 未海だよぉ♪」
なんということだ。ここで未海と会うなんて。
10年ぶりくらいになるか……。
「会いたかったよぅ! お父さんもお母さんも頑(かたく)なにお兄ちゃんの住所教えてくれなかったんだもん! でも、本丸御殿に行き続けてればいつか会えると思ってたぁ!」
幼い頃の俺が川越に行くことはあっても、逆パターンはなかった。
なので、未海は俺が住んでる場所は知らなかったのだ。
「えっ……つまり、そんなに何度も本丸御殿に来てたのか?」
「うん! 家は大宮だけど中学になってから毎週のように川越に行ってたんだぁ! それで進学先は川越市内の高校を選んだの!」
おおう……。俺のためだけに進路を決めたとは。
俺が再び川越へ来るかどうかなんてわからないっていうのに。
「えへへ~♪ まさか高校に入ってすぐお兄ちゃんに会えるなんてぇ! ラッキー♪ やっぱり未海とお兄ちゃんは運命の兄妹の糸で結ばれてるんだよぅ~♪」
未海は俺にますます激しく体をこすりつけてくる。
十年間のブランクを感じさせない擬似ブラコンっぷりだ。
しかし、そんな俺たちに対して強烈な視線が向けられる。
もちろん、発生源は西亜口さんである。
「あら、もしかしてこのメスガキが祥平のイトコなのかしら?」
西亜口さん、いきなり未海をメスガキ呼ばわりである。
「ひゃっ!? なんなのこの恐ろしいロシアっぽい女の人!?」
「わたしはロシアっぽい女の人ではなく日露ハーフの西亜口ナーニャ。祥平の主人よ」
「主人!? いつの間にお兄ちゃんが奴隷にぃ!?」
「奴隷というよりも下僕ね。餌づけは完璧。すでに祥平はわたしなしでは生きられない体になっているのよ」
「ふえぇ!? お兄ちゃんがいつの間に骨抜きにぃ!?」
このままでは未海が信じこんでしまう!
しかし、カップラーメンで餌づけされているのは事実なのが情けない。
そして、さらに面倒な人物……里桜が会話に参加してきた(迫真の忠臣蔵ごっこをひとりで続行していたのだが飽きたようだ)。
「ちょっと待ったぁーー! 祥平は西亜口さんの下僕じゃなくて、あたしの幼なじみだってばーー!」
「えぇえ!? お兄ちゃんに幼なじみぃ!? どういうこと、お兄ちゃん!? 未海という魂の妹がいながら、なんでこんな美人に囲まれているの!? おかしい、おかしいよ! こんなの、おかしいぃ! おかしいおかしい! …………おかしいおかしい……」
未海は「おかしいおかしいおかしい」とブツブツ呟きながら、徐々に瞳の色を暗くしていく。
……っ!? 思い出した!
未海は負の感情が高まると凶悪なヤンデレになるんだった!
「……そうだよ……お兄ちゃんと未海の仲を引き裂く女は……ヒヒッ……この世から永遠にオサラバだよぅ!」
さっきまでの天真爛漫な雰囲気から一変。ヤバいオーラを放って口調まで変わる。
そして、制服のポケットから巨大な針(!?)を二本取り出して両手で構えた。
「あら。どうやら、ただのニセ妹キャラではないようね」
「わーーっ!? さっきまでかわいかったのに怖いキャラになってるーー!?」
だが、西亜口さんはドスを抜かない。
……まぁ、ここで刃物を抜いたら、それこそ忠臣蔵みたいになってしまうからな。
ここは殿中なのだ。
「と、とにかく落ち着いてくれ、未海!」
「……お兄ちゃん。これどういうこと? 未海がお兄ちゃんのことを何年も必死に捜し続けていた間になんでほかの女と仲よくなってるの? どうして? なんで?」
「う……」
暗い瞳を向けられ、二本の針を喉元に突きつけられる。
怖い。西亜口さんとは違った恐ろしさだ。
「い、いや……俺は、その……」
「どういうことなの? 未海に説明してほしいなぁ?」
どんどん目が据わってきている。
このままでは殺される!?
「待ちなさい。あなたの相手はわたしよ」
「だから、ここは殿中でござるーーー!」
そこで西亜口さんと里桜が割って入った。
「……なぁに? お兄ちゃんにまとわりつく害虫ども」
「口の利き方には気をつけてもらたいわね? これだから最近のメスガキは」
「そうだ、そうだ! 年上は敬えーーー! 一応あたしは先輩だぞーーー!」
しかし、未海は怯まなかった。
それどころか――。
「ウザいんだけど、ババアども」
吐き捨てるように言う。
場が凍りついた。
な、なんてことを言うんだ未海は。
死にたいのか!?
氷点下まで落ちたかと思える空気の中、西亜口さんが口を開く。
「……あなた、どうやら命が惜しくないようね」
「ババアーーー!? この歳でババア呼ばわりーーー!? 人生で初めてババアって言われたーー!? すさまじいショックだぁーーーーっ!」
一方で里桜はダメージを受けて頭を抱えている。
……里桜もメンタルが強いんだか弱いんだかわからないな。
って、それどころじゃない!
このままでは殿中でリアル刃傷沙汰になってしまう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます