聖水を浴びたい

2020年秋。投資助言業務に従事する霧島現一は、在宅勤務の日々を過ごしながら苦悩していた。コロナ禍なのに株は下がない。顧客の男は、空売りできる銘柄がないかしきりに聞いてくるが、彼とは反りが合わない。

妻の紗季は苛立つ夫を横目に、お受験のために塾に通う一人息子の隆を送り迎えしなければならなかった。夫と交わす言葉は以前と比べずいぶん少なくなった。息苦しさから逃れようと、２週に１度、同じタワーマンションに住む元子と「ジョニー池」の清掃活動に足を運ぶ。夫がたまの出社日に、中学時代からの同級生である朱音と密会を重ねていることなど知る由もなかった。全33回。