第2話 ナトロン湖
ちゃんと映っているかな。みなさんどうもです。緑川です。
昔みたいに地区センターの会議室で、皆さんと直接顔を合わせながら、解説をしたいんですけれども、リアルの集会がやれるのか、まだ判断し難い状況であります。
あ、画面の背景にあるのはですね。早速本題に入りますけど、ナトロン湖と言います。場所はタンザニア北部で、一部はケニア領でもあります。ご覧になっていかがですか? 毒々し赤色をしているでしょう。『止まれ』の標識のような赤ですね。
ずっとこういう色をしている訳じゃないみたいですけど、これはバクテリアの色素の仕業です。地下深いところにあるマントルが熱水を発生させ、湖底にある炭酸ソーダを押し上げるのですが、その結晶がバクテリアの栄養分となります。炭酸ソーダは石鹸やガラスの原料でありまして、要するにこの湖そのものが非常に強いアルカリ性となっています。次の写真を見てください。
鳥がいますね。ペリカンでしょうか。ついさっきまで動いていたようなペリカンですね。このように生きている姿そのままに、石のようになっています。
炭酸ソーダというのは、古代エジプトでミイラを作る際に非常に重宝された原料でした。ナトロン湖で生物が死んだ場合、高濃度の炭酸ソーダが、体内に残る水分を奪い去るのです。乾燥して石のようになった生物があちらこちらにあるので、ここは「死の湖」とも現地では呼ばれているそうです。
湖って一般的には、生命に溢れ、その土地に自然の恵みをもたらすものだとイメージされることが多いと思うのですけど、ナトロン湖は全く正反対ですよね。生命を拒絶しています。自然というのはそういうものだと思うのです。生命を育みもすれば、脅かしもする。
一方で、人間が作り出した赤い湖を見たら、皆さんどう思われるでしょうか。世界には実に多くの汚染された湖があります。鉱山開発で排出された有害物質が原因で赤く発色する湖と、ナトロン湖は何が違うのか。どちらも有害であるには変わりがないのです。人間の所業が自然の産物なら、汚染された湖も自然の産物ではないか。そういう意見に対し、あなたはどう反論しますか。色んな反論の仕方があると思いますし、答えは一つではありません。
私も、昨晩ひとりでカレーライスを作りながら考えていました。小学校5年生ぐらいの男の子に質問されたら、どう答えようかと。
人間が赤い湖を作り出すというのは、元にあった湖を改変する行為と言えます。その行為に歯止めがかからなくなって、改変され続けてしまうと、自然そのものが元の姿にもどろうとすることができなくなる。そうなると人間は自然の恵みを享受できず、生命を未来につなげるのがどんどん困難になる──。でも、それ自体が自然の流れであるのなら。うーん。何だかますますこんがらがってきます。
ちなみにこのナトロン湖がどのぐらい強アルカリ性なのかというと、pH10・5ぐらいと言われています。日本国内にはpH11を超える温泉があるぐらいなので、入ってすぐに石になるかというとそうではなく、ちょっと刺激の強い美肌の湯という感じです。
英語のスラングで、Jump in the lake.と言われたら、「失せやがれ」という意味なんですけどね。このナトロン湖に飛び込んだとしても、ただちにこの世から逃れるという訳にはいかないようです。
まあ、そういう微妙なバランスで、世界が成り立っているんです。
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