第12話 初代たち②

 かりんは毎晩のように受験勉強を終えた後にSNSを訪れていた。

 フォロワーたちの中でも、一番やり取りをして仲が良かったのは、ミイミとAYAだ。

 二人とも初対面から気さくに話しかけてくれ、かりんの話も良く聞いてくれる。

 二人とも気の合うだと思っていた。そんなに多くない相互フォロワーの仲間たちの中で、別格であった。

 個人的に話し合いたい時はDM(ダイレクトメール)という手段で二人きりでとことん愚痴を聞いて貰ったり聞いたりした。

 莉花かりんは三年生になる頃から使い始めたSNSだが、他のフォロワーたちは、早い者は中学生時代から呟きをしないROM 専門で使っていた。

 プロフィールに今年受験生であることを明記したため、かりんのフォロワーたちは自称受験生が多数を占めた。

 中には中学生や浪人生、資格試験に臨む者もいた。

 あまりやり取りをしない、絡みのないフォロワーたちは、大学受験の話題で盛り上がるかりんたちの会話を読みながら、自分のことのように一喜一憂したり、良きにつけ悪しきにつけ参考にしたり、ストレス解消にもしていた。

 かりんもまた、そんな彼らの呟きを読むことを日々の楽しみにしているのだった。


 「『ねえ……かりん、あのさあ……私、頭がおかしくなっちゃったかなあ……』」

 ミイミが突然DM(ダイレクトメール)という形を取り他のフォロワーたちに知られないよう、そう話しかけて来たのは、ゴールデンウィークが開けた頃であった。

 

 「『えっ?何、どうしたの?』」

 かりんは勉強のし過ぎで受験生がうつ状態になりやすい、と従姉妹から聞いてたし、実際にクラスメイトがやけに口数が少なくなった者がいることを見ている。ミイミもそうなのではないか、と頭をよぎった。

 「『……私さあ、電車通学なんよ。でさあ、最近駅の外にある公衆電話がすこーしずつ撤去されててさ……』」

 「『あ、そうだね。携帯電話が普及してきたから、公共施設にあった公衆電話が少なくなってるね』」

 公衆電話と頭がおかしくなった、と、どんな関係があるのだろう。莉花かりんは彼女の次の言葉を待った。

 「『それでさ、残ったヤツは、電話の位置が低いヤツで……ほら、車椅子の人も使える、本体はグレーでさあ、中が広くって』」

 あまり電車に乗らないかりんは、そういえば、スペースの広い電話ボックスがあったな、と思い出した。

 「『あ……、うん、そういえばそんなのあったね。見たことあるかも。それが何かしたの?』」

 「『それが……ゴールデンウィーク過ぎたらさ……信じられないことなんだけど……』」

 なかなか次の言葉が送られて来ない。


 「『ミーちゃん?頭と何の関係があるの……?』」

 待ちきれなくて、リプを返した。

 が、ミイミは、直ぐに返事を寄越さない。

 しばらくして、思い切りが付いたのか、いきなり長文を返して来たミイミだった。


 「『あのさ、こんなことってある?先月頭から撤去された公衆電話は、緑色の普通のヤツだったの!そんで残されたヤツは車椅子対応のヤツだった!なのに、ゴールデンウィークが過ぎたら、駅の周りに撤去されたはずの緑色でスリムな電話ボックスが二つもあって!逆にグレーの低いヤツが無いの!何でだろう?って普通思うじゃんか?だから友達に言ったらさ、その子も電車通学だからさあ、そしたらさあ、ねえ、おかしいんだよね……その子も周りのみんなも、前からこのままだ、って言うの!私の見間違いだ、ってさ!違うの!私がスマホ忘れて駅の公衆電話を使ったから良く覚えてるの!ねえ、何で?ゴールデンウィーク中に元に戻した?前は全部で三つあったのに……今は普通のヤツだけ二つで、撤去されたのは低いヤツになってるの!私がこの前使ったのは、確かに低いヤツだったのに!ねえ……かりん、私の言ってること、わかる?』」

 「『えっ……ちょ、っと待って。良く読んでみるから。もう少し読ませてね』」

 かりんはDMのリプを何回か繰り返して読み込んだ。

 撤去されたはずの公衆電話が前と逆になっている……?ミイミはその残された低い方を使った覚えがあると言う。しかし、その後で以前の撤去されたはずの公衆電話が設置してある?そして、使った覚えがある低いタイプの方が逆に撤去された……?

 「『友達の記憶違いじゃないの?』」 

 使った覚えがある方が間違う可能性は低いと思った。

 「『うんうん!そう思うでしょー?だって使ったもん!低くて使いづらかったけどさあ!なのに、なのに、ってみんなが口を揃えて言うのよ!!』」

 かりんはリプを返そうとして、最後の文章で止まってしまった。

 ……前から?そんな電話ボックス……車椅子対応の機種が?無かった?

 「『?どういうこと?どういう意味?撤去されたのが逆に入れ替わったんじゃないの?苦情が来たりして、普通のタイプのに変わったんじゃなくて?』」

 しかし、車椅子対応の機種が残された方が使用出来る人が増えると思うから、それはおかしい、とかりんは思った。

 「『それが……私の勘違い?記憶違い?前からそんな電話ボックスなんか設置されてなかった!って!違う駅の近くで使ったんじゃないか、って言ったの!違うって、駅についてからスマホ忘れたのに気付いたから、家にあるかどうか電話したんだもん!!私間違ってないんだから!!』」

 「『使った本人がそう言ってるのに、違うって言ってるの?そっちの方がおかしくない?』」

 「『そうでしょー!そうだよね!!かりんもそう思うでしょー?』」

 かりんに同意され、少しは浮上したミイミだったが、この日を境にかりんへのDMが増えていくのであった。



 日々が彼女にとって夢かもしれない、と言い出したのもこの頃からである。

 


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