第23話 初代たちのオープンキャンパス③

 莉花かりん綾人AYAは、期待を胸に抱いてオープンキャンパスへと向かった。

 受付を終えて控室へと向かっても、希望コースごとにグループ分けをしてもそれらしい人物は見当たらない。

 グループ別に行動を取る為に、目の前の現実に集中しようと二人は不気味な現象やスクショの数々を頭の隅に追いやった。


 昼食をキャンパス内にある学生食堂で摂り、軽く休憩を取るが、殆どがグループ別に行動を共にしていて、自由時間はないものと同じであった。

 思いのほかタイトなスケジュールだった。 

 目まぐるしいスケジュール表通りに体験を終えた後は、全ての参加者に濃い疲労の色が見えた。

 それだけ大学側が本気で未来の学生候補たちに向ける熱量が多く、彼らにもしっかりと伝わって来るのであった。

 通り一遍のただの説明会ではなかったのである。莉花も、綾人もそれぞれ得たものは大きかった。


 夕方近くに帰宅した莉花は、神経疲れからか眩暈と眠気を覚え、夕食前にひと眠りした。

 ふと目を覚まし、何気なく手に取ったスマホで時間を確認すると、六時半を回っていた。ふと、SNSへ繋げてみる。

 ……夢、だったのかな……?

SNSでは、タイムラインにフォロワーたちは現れてはいない。普段の彼らの行動開始時間は十時過ぎである。

 莉花はベッドから起き上がろうと頭を起こしたが、先程感じた眩暈がもう一度彼女を襲い、再び頭が枕の上に戻ってしまった。

 ふうーっ、と深いため息をついて、目を閉じた。閉じたまま、体中の怠さも手伝って、深い眠りに落ちていった。

 その時、莉花にはSNSを確認する気力など残ってはいなかった。

 フォロワーたちの確認など、全く頭にない。そんな余裕はなかった。

 


 綾人は帰宅するなり即座にSNSを覗いて、フォロワーの中で意味不明な呟きをしていた人物を探した。その人ならば、今日の莉花かりんとのやり取りをタイムラインで見ているかもしれない。そう思いながら、フォロワーのアイコンを探しつつタイムラインに流れている呟きを眺めていた。

 自分の呟きを書き込んだ方がこのもやもやが晴れるかも、と、綾人は本心を露わにした。


 『や~!今日は参った!何がなんだか分からない!分からないけど、一応オープンキャンパスは終了した!そっちは良かった!んだけど、一体全体何なんだよ!薄気味悪かったなあもう……かりんにも逢えなかったし!』

 誰も見なくても構わない。もう、この何とも言えない薄気味悪さをなんとかしたい。

 ……この前、おかしな呟きをしていた人物は誰だっけ?……まじまじとアイコンを見つめていると、ひとりのフォロワーに目が止まった。


 「カックンだ!」

 綾人AYAはカックンのプロフィールページを開いて、タイムラインの呟きの履歴を遡った。前日よりももっと前に、奇妙な呟きをしていたのだ。

 え……カックン、自分の呟きよりも人の呟き紹介が多くないか?確かあれは一昨日よりも前だよな……カックン、今タイムラインに来てくれないかな!

 そう願いつつ、プロフィールページでカックンのDM(ダイレクトメール)が開放されていないと分かり、綾人はがっかりする。

 『カックン、いる?朝のタイムラインを見てた?見てなかった?出来たら履歴を辿って自分とかりんのやつを読んで欲しいんだけど……』

 彼に宛てて呟いてみる。

 数分しても応答がないので、またいつもの時間に来るか、とSNSを閉じようとした時、違うフォロワーからリプを書き込まれた。

 『私見たよ!今朝のスクショ合戦でしょう?あれは何なの?何かのネタ?』

 ……スクショ合戦?は、そう見えたのか?どちらも自分がだと思って証明する為の証拠写真であった。

 『良かった……、見てた人がいてくれて……もうワケ分かんなくて……気持ち悪くって!』

 『え、何なの?マジレスだっていうの……?え、ネタだと思ってたよ?だって今日は


 綾人はザアッと一気に血の気が失せた。

 ……今日は、天皇誕生日だ……日曜日だから……明日は振替休日のはずだ……当たり前過ぎて、そこを否定されるとは絶対に思えないし考えられない。

 『AYA?どうかしたの?あれ、駅の中だよね?駅員さんに協力してもらったの?』

 ……何から、どう、説明して否定すればいいのかが分からない。

 綾人AYAは、次の言葉を紡ぐことが出来ずに:ただその文面を見つめているのだった。何かがおかしい。


 『自分……頭がおかしくなったのかな……。本当に今日は天皇誕生日なんだよ……かりんも早乙女っちも、何を言ってるのか分からない。あのカレンダーも駅も、自分にとってはなんだよ!』 

 そのリプライは、一時間以上経過した後に書き込むことが出来た。

 そのリプが返って来たのは違うフォロワー、カックンからであった。

 『AYA!かりんとのスクショのやり取り見たよ!詳しく教えてくれないか?俺はここまでのでかいマンデラなんか聞いたことないし、経験してない!それからこっちから質問するから、後で答えてくれると助かるんだけど!』

 『マンデラ……?何、それ?』

 聞いたことがあるような無いような言葉だった。

 『……そこからか。分かった。AYAもだと思う。大丈夫、ひとりじゃないから』

 ひとりじゃない?何が?

 綾人は頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回された感覚に陥った。

 カックン、日本語を話して、書いているよな……?俺には意味が通じてないぞ?

 俺は本当に頭がおかしくなってしまったのか……?

 『大丈夫。かりんもAYAも


 綾人は、カックンも頭がおかしいのだろうか?と、訝しんだ。

 

 類は友を呼ぶ、と言う。

 昔の人は良く言ったな。


 綾人AYAとカックンは朝方までネットで語り合うのであった。

 早乙女っち、と呼ばれていたフォロワーは、その後はリプも来なければ、フォローも外れていた。

 不思議なことに、AYAのフォローも外れていた。退会したのだろう、とAYAは思った。


 


 

 

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