第22話 初代たちのオープンキャンパス②

 綾人は、莉花がSNSへ貼ったスクショを見るなり「嘘だろ!!」と大声を上げた。

 ごった返す人混みの中で響き渡る声に、近くの通行人たちは横目でチラリと視線を送り、皆足早にその場を離れて行く。

 綾人は莉花と同じように、画像と自分の先に見える実際の背景を見比べた。

 「ちょっと……これ、なんなんだよ!マジかよ!」

 ブツブツひとり言を吐きながら、スマホ画面と正面の駅構内を見比べて、綾人は背筋がぞぞぞっ、と寒くなった。

 駅員がなんとなく背格好が異なる。綾人AYAの方は中年男に見えるが、莉花かりんのスクショに写っている駅員は、まだ若そうで、身長が低めだ。

 それよりも、何よりも……カレンダーが間違っているのか、翌日が赤い字になっていない。真実、今日は天皇誕生日であって、祝日だが、日曜日なので月曜日が振替休日となることは明らかであるのに。

 スマホ画面をもう一度覗き込む。

 ……

 そんなまさか?

 駅の執務室の中にあるカレンダーが間違うはずはない。かりんがおかしい?いや、実際に写っているカレンダーもおかしい……。

 即座に双方がタイムラインから降りた。莉花かりん綾人AYAもスマホ画面を閉じて、小刻みに震えているスマホを握りしめる。 

 一体どうなっているのだろう!

 何が何なの?一体どうなってるの!

 お互いが、自分は正しい、相手が間違っている、とは考えても、画像はどういう意味なのか、二人には全く理解出来ない。

 そうこうする内に、時間は刻一刻と過ぎて行く。どれくらいの時間が過ぎたことか。それともたった数分間か。




 先にAYAがSNSへ戻り、かりんに改札を出てみようと書き込んだ。

 かりんもその数分後に現れて、リプを読み返しながら泣きたい気持ちを強く抑えながら改札を抜け出た。

 駅員が心持ち胡散臭そうにかりんを見ていた。

 『大丈夫……?かりん、落ち着いた、は無理かな。改札を出た?』

 落ち着けるはずがない。同じ駅、同じ場所にいるであろう二人が、逢えないばかりか、のだ。説明が欲しい、納得がいかない。


 『うん……今、出た。遅れた時の待ち合わせ場所のロー○ンの前にいる』

 『え!?かりん、コンビニはロー○ンなの?間違いじゃないよね!』

 『え、どうして……今度は、何なの……もう、やだ……訳が分かんないよ……』

 『改札を出て、右手の駅構内にあるコンビニは……セブン○レブンのわけだよ!はセブ○なんだ……今、スクショ送るよ』 


 またしても、莉花と綾人はの中身が異なっていた。のお互いの姿も勿論、目には映らない。

 お互いスクショを交換して、店名違いを確認する。今度は自分たちの姿がぼんやりとコンビニの窓ガラスに写り込んでいた。

 『何これ……なんで……!どうして?ねえ、AYA、どうなってるの?気持ち悪いよ!』

 『かりん、俺、フォロワーたちの中でこんな話してた人がいたような気がする……誰だっけ。かりんとはやり取りしてないかな……やばい思い出せない!焦ってもしょうがない……けど』


 こんな話?頭がおかしくなったような?

 『あっ!AYA!私も一人いた!駅の外の公衆電話が……以前のと変わったのに、周りの子たちは前から変わってない、って……みたいな』

 かりんはミイミが先日DMで話していたことを思い出した。あの時とは多少違うが、話が食い違っていることには変わりない。

 コンビニが、カレンダーが、駅員が違っている……なのになのだ。不気味であるのに、目の前の現実しか目の当たりに出来ない、理解出来ない自分は、ネットの向こう側のAYAがどんなスクショを貼ったとしても、どうしようもない。現実は目の前にしか存在しない。


 『AYA……これからどうしよう……?』

 莉花かりんはコンビニに入らずに、駅の中をもう一度振り返って蛍光緑のTシャツを着ている男性を探す。

 当然だか、そんな人は見当たらない。中には似たような服を着ている男性がいるが、年齢層が違っている。

 綾人AYAも莉花と同じように混雑している改札口付近の様子を目を凝らして見つめる。

 自分の目の前の現実しか納得出来ないのである。

 『あと……40分で受付開始か……一体何がなんだか分からないけど……、取り敢えず、このまま大学に行ってみようか』

 もしかしたら、大学向こうに行けば逢えるかもしれない。二人は同じように希望を持っていた。

 『……うん……そうだね。行こうかな……私は黒いセーラー服なの。制服で来たから』

 莉花かりんは探して欲しいと希望を託すように書き込んだ。

 『自分は白Tシャツにベージュのチノパンで、パーカーはグレーっぽいやつで来ちゃった。かりん、セーラー服は黒なんだね?』

 『うん……暑いからどうしようか迷って、でも分かりやすいかな、って……』

 『紺やえび茶とは違うね。うん、分かりやすい。有難う』

 『白Tシャツにベージュのチノパン、グレー系のパーカーね。分かった』

 莉花も綾人も一縷の望みを持っていた。逢いたい、逢えるかもしれない、と。

 ある意味現実逃避をしている。現在、目の前のことにしか真実はないのだ。

 駅やコンビニが違っていても、もしかしたら、逢えるかもしれない。

 とにかく行ってみよう。二人はそう自らを落ち着かせた。


 『じゃ、逢えたら向こうで!』

 『うん、逢えるかもね!またね!』


 このやり取りが二人のSNSでの最後の会話となった。

 以降、二人はSNSにおいてと呼ばれることとなった。


 

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