第32話 サークル仲間たちが見るには
超常現象研究会へ入る前は、綾人は初代たちの痕跡がどこかに見当たらないかと思っていた。不思議な現象にも興味があった。
そして、何か情報の欠片でも見つかることが叶うならば、と期待をしていた。
まさか、自分たちが初代たちの代わりに出逢えるなどとは夢にも思わなかったのだ。
さて、期待以上:、望み以上のものを叶えてしまったAYAである。
……今、最高にヤバいんではないか……?
かりん《莉花》と逢えて、天にも昇る気持ちだった。
……こんな高揚感があったらマズいんでは……?
今までの経験からすると、精神的に大きな変化がもたらされた時が一番跳び易かったのである。
気を引き締めて、
日常生活で
それは
そんな二人を見ていたサークル仲間たちは、「松崎くんと中村さんは付き合っているの?」と尋ねるのであった。
「え……、私たちですか?」
「先輩、そう見えますかね?」
「だってよ、知り合って間もないのにさあ、既にお互いのスケジュールを把握してるんだもんよ、俺たちの誰よりお互いのこと、知ってる通り越して熟知してねえ?」
お互いのスケジュール管理は、手帳に記入して把握する徹底ぶりであった。
何故かというと、いつ如何なる時にどちらかが世界線を移動して、約束事が無かったことに変わってしまうか分からない、という可能性が出て来たからである。
二人は顔を見合わせた。
「違うの?だって、呼び方だって、『莉花』『綾』って呼び捨てじゃない?こんな短期間……二ヶ月経ってないじゃない?」
それはSNSでの『かりん』『AYA』の延長線上のことであったのであるが。
会長、副会長が肯き合う。
「やっぱ彼氏彼女っしょ、それで付き合っていない、っつったらもう……夫婦の域っすよね?」
体育会系が抜ききれない同期が、長い腕を振り上げて力説する。
「え、夫婦?」
「鯉渕くん、話飛びすぎだってば」
「いやいや、それっくらいナチュラルってコトで。っすよね、会長?」
「んだんだ。で、本当は付き合ってるんだろう?」
二人は再び顔を見合わせた。
付き合う前に、告白とかが普通はあるはずで、その前に、何か重要なことを忘れていないか……?
莉花と綾人はお互いに気付いたらしく、同時にププッ、と吹き出した。
『好き』という気持ちを置き忘れてはいないか?
同時に笑っている二人を見て、周囲は更に誤解を招いてしまう。
「ホラホラ、そういうところだって!」
当人たちにしか理解し難い背景がある。全てを説明出来ればいいのに、と莉花も綾人も思った。
「綾、今日はバイトない日だったよね?夕方空いてる?」
「あ、うん、予定入れてないから。
莉花はバイトまだ再開しないんだ?」
「うん……探しているところ。家の近くにするか、大学の近くか悩んじゃって。家が近い方が遅くまで出来るけど……
「今日は一緒に夕メシどこかで食べてく?」
「これから?いいけど……」
莉花はあまり気乗りのしない返事をした。
「嫌だったら、いいよ。無理しないでも」
綾人はサークル仲間から誤解されたことを莉花が気にしているのだと思った。
「違うの。もし綾に彼女さんがいたら、誤解されちゃうでしょ、さっきみたいに」
誤解の方向が違っていた。
綾人は、こんなにすんなりと心の中に入って来れる異性がいるなどと、自分でも不思議に感じていた。
初代たちの経緯をお互い少しずつ聞いていたとはいえ、教えてくれたフォロワーたち、彼らも詳しくは知らなかった。知らなかったからこそ、知りたいと思っているのか……?
「……綾?」
「彼女がいたら、違う子を夕メシにはピンでは誘わないよ。複数でワイワイやる。募集……は、まだ、いいかな?今はマンデラが落ち着いているから、現状維持が最優先だと思うから」
現状維持が最優先。それは莉花も同じだった。
「そうだね……現状維持。うん、良く分かる。相談も兼ねて、ご飯食べよっか」
これを付き合うとは呼べない。二人はそう思っていた。
たとえ傍から見て、恋人同士に見えていたとしても。
この関係を言葉で表現することが難しい。出逢う以前にお互いの情報が自分たちに少しずつ漏れていたのである。しかもそれは正しい情報とは言えず、世界線違いの彼らの情報であった。
お互い、どこが違うのか、また自分はどう捉えられていたのか……お互いがお互いを探り合う
好きとか嫌いとか以前の、単なる興味本意なのだ、と思う本人たちであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます