第31話 嘘から出たまこと
莉花と綾人は大学の講義を終え、バイトを終えて帰宅した後、初代たちが深夜にSNSで話し込んだときと同じように、時間を忘れて積もる話に花を咲かせた。
『え?かりんは一人っ子じゃないんだ?』
『あ、うん、四つ下の弟がいるの。他のフォロワーさんからは、二つ下の妹がいる私がいる、って聞いてるけど……一人っ子は初めて聞いたような気がする』
『俺も、上下女に挟まれた自分とか、弟がいるとか、もっと凄いのは俺が女の子になってる!とか他の世界線で見た!とか言われたなあ……全くフォロワーたちもあちこち跳び回ってるよな?』
『うん、性別が逆転してるの凄いね……たまーに聞くけど……で?ここのAYAは?』
『俺?二つ上に兄貴がいるんだ。一年浪人したから今二回生だけど』
『お兄さんがいるんだね。あれ?私はお姉さんと妹さんのバージョンを聞いたような気がする』
『うわ、なんか恐そうだな。それ』
『なんで?』
『姉と妹じゃあ、なんか負けてそう』
『そうかな?女の子に優しい人なんじゃない?』
『兄貴よりはマシか?』
『ええ?私は弟よりはお兄さんが欲しかったなあ……』
『まあ、お互いない物ねだりしてもなあ、コレばかりは』
『一人っ子もいいなあ……』
『きょうだい喧嘩はないし、全てにおいて独り占め出来るし?』
『お姉ちゃんだから我慢しなさい、もないし?』
『ウチはお兄ちゃんに譲ってあげなさい、だよ?普通逆だろ?』
『本当。普通逆だよね!』
いくら話しても、話題一つに絞っていても、時間が足りない。
およそ一年間、二人の生活はそれまでとガラリと変わって、激変以上の世界になってしまっていた。
『リア友にも家族にもこんなこと……話せなかった……。最初の頃は、ミイミとかさんちゃん、つぼんぬが教えてくれたけど……だんだんシフトしちゃって、中身が微妙に違ってしまって、誰が初代たちを知っていたかも分からなくなっちゃったの』
『俺もそうかな?リア友もこのSNSにいたんだけど……だんだん疎遠になってる。リアルで会っても向こうは何にも言わないから、違う記憶の持ち主かもしれない。それか、様子見か……読んでいるか分からないけど……その内に鍵をかけたな。これ以上のカオスを避けたくって』
『私も!途中から鍵垢にしたよ。リア友は違うツールで棲み分けしていたから直には影響なかったけど……やっぱり記憶のズレが有るよね……』
『マンデラー同士の記憶のズレだったら平行移動とかマンデラとか……平行移動とマンデラは別物なのか同じなのかか分からないけど、多少ズレが有るとすればどちらかが跳んだことになると思う。まさか、いちいち「東京タワーの色は?心臓の位置は?今どの世界線?」なんて聞けないよなあ』
『私は分岐分裂が酷いらしいの。フォロワーさんが、「いい加減記憶の統合をしてよ、しょっちゅう違うかりんと出逢って話をしているから、話がちぐはぐになっちゃう!」だって』
『あ、かりんも跳んだ先の過去の記憶が統合されないタイプなんだ?俺もだ』
『AYAも?良かった。中には跳んだ先の自分とそれまでの自分の記憶が二重や多重になってる人もいるもんね。凄いよねえ!』
二人とも、それぞれ移動した先の世界線のその本体の記憶と、跳ぶ前の自分の記憶は統合しないタイプであった。
「平行世界……パラレルワールド」を移動して、「マンデラエフェクト」を認識する以前の記憶を保ったまま、次から次へと世界線を移動したのである。
深夜二時を過ぎて、やっとSNSから離れた二人は、書き込んだ話題の一部を思い出しては芋づる式に湧き出て来る思い出に翻弄され、なかなか寝付けなかった。
翌日もその翌日も、休みの日には都合が合えば一日中、この一年間の話に終わりの見えない会話を楽しむのであった。
昼夜を問わず、SNSで思い出話に夢中になっていた。
それはおよそ一ヶ月近く続いた。
二人が新規会員として参加した「超常現象研究会」は、月3回程度の活動、月1度にミーティングを行っていた。
「莉花ぴょん、サークルで探し人は見つかったん?」
以前に入会はやめた方がいいと話していた者たちが数名話しかけてきた。
同じ内容の受講をしていることで、結構頻繁に講堂や教室が重なる。
「えっ?あ、探し人……はいなかったけど……」
莉花はどちらかと言うと嘘をさらっと言えるタイプではなく、咄嗟の機転もあまり利かない。
《探し人ではないが、違う人が見つかった》とも言えず、言葉に詰まってしまう。
「……けど?」
「この間だけどさ、すっごく瞼が腫れてなかった?メイクでも誤魔化せないくらいの酷いレベルの。あの時何かあったのかな、って思ったんだけど……」
綾人がAYAだと分かった翌日のことである。莉花は泣き腫らした両目を冷やすことなどせずに翌日の講義を受けた。
彼女らは、とてもショッキングなことでもあったのだろうか、と噂話をしていた。
「……あ、あの時は……探し人じゃない人が見つかって……懐かしくって……」
「最近莉花ぴょんは楽しそうだからさ、もしかしたら逢えたのかな、って話してたんだよ」
「何人探し人がいるの?誰それ!なんの関係なのー?」
「えっと、それは……」
とても説明に困ってしまう。
自分たちの世界線違いの自分たちが出逢うはずだった相手に奇跡的に巡り逢えた、と正直に真実を話して、理解して貰えるはずがない。そんなことを話したら、頭がおかしいと思われてしまいそうだ。
「ねえ、違う人には逢えたんだ?」
「あ……うん、そうなの」
「ね、それってサークル仲間?」
「……うん」
「なんだ、じゃあ良かったじゃない!」
「有難う。ごめんね。ご心配おかけしました」
「……で、その人は男の子?女の子?」
「ばっかねえ愚問でしょーよ、ねえ?」
「……え、男の子だけど」
「ホラね、莉花ぴょんは見かけによらず積極的なんだから。ね?」
なんと別な方向に誤解されてしまったらしい莉花は、どう反論して良いか分からず、彼女らとそんなにつるむほどの関係ではなかったため、敢えて誤解を解かずにそのままにしておいた。
そのお陰で、彼女らからの合コンのお誘いの嵐からは逃れることが出来た。
探してはいなかったが、結局AYAが見つかった。
嘘から出たまこと、になったのである。
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