第30話 初代ではない二人
「……どうして……そう思うの?」
やっと口を開いた綾人は、腕が僅かに震えている。
莉花は震える声を振り絞って綾人に伝えようとするが、両目に涙が溢れそうで、なかなか声にならない。
「……そ、れは……わ、私が……かりん、だ、から」
「ちょっと待って!!何、今の!」
「AYA……なの……?」
「ちょっと待って!かりんなのか?そうだよ!俺、AYAなんだよ……!まさか、本当にかりんなのか!」
莉花は綾人に両腕を掴まれて、軽く揺さぶられた。後から後から溢れてくる涙は、いつしか嗚咽混じりの涙になっている。
「ほ、本人、じゃ……ぃ、初代じゃ、な、い。ほ、んとにあ、AYA……?」
「本当だ、だけど俺も初代じゃない!嘘だろ!初代たちは世界線が違いすぎて逢えなかったのに!マジかよそうだよ……」
「ほ、んと、に、AYA……あやぁー!」
なぜこんなに涙が出てくるの、何が悲しいの、嬉しいの、AYAって!話にしか聞いていないのに、どうしてAYAがここに!世界線違いの私が逢うはずだったAYA、でも違うAYAが!
莉花は綾人の目の前で号泣してしまった。綾人も目頭を熱くしている。
「本当に本当にかりん!?」
コクコクと頷くと、莉花は両手で顔を覆ってしまう。
綾人は自分が莉花を泣かせてしまったのかと勘違いをして、ごめん、いきなりごめんね、とひとしきり謝った。
「ちが、違う、ごめん、は私、AYAが、居たなんて……」
ひくっ、ひくっ、と嗚咽も収まりかけた莉花は、今度は鼻水をすすって、やっと我に返り、周囲を見渡した。
終電間近な駅構内ではあるが、まばらに利用客がいて、痴話喧嘩でもしているのかとチラチラ見ている。
「あっ、ごめんなさ……い」
「やっ、こっちこそ、ごめん!……あ、終電になっちゃう!急ごう!」
二人とも、気持ちが高揚したためかふわふわとしていて現実感がなかった。が、《終電》を意識した途端に現実がやって来た。
自動改札を抜け、反対方向の電車に乗る二人は、言葉を発したくてこのままずっと駅構内で話し続けていたかった。
ホームを分ける階段の傍で、綾人は莉花に早口で告げる。
「ずっと前はかりんを探して検索かけても見つからなかったんだ。最近は使ってない。でも、今日は《呟きの箱》に行ってみる!そしてまた探すよ、だから……」
「うん、私も同じことした。AYAと同じだった。でも、ここにいるから、今度は繋がる?私も行く!」
二人は最終電車に乗りながら、スマホを取り出して久しぶりのSNSへと繋げた。
今日が初対面であるはずだ。なのに、随分と昔から知っていた友人のようだった。
自分たちは初代たちとは違う。それは分かっている。
だが、この懐かしさと嬉しさと溢れてくるこの想いは何なのだろう。
初代たちの話を人づてに聞いているうちに、自分のことのように捉えてしまっていたのか……?
複雑な想いを抱えたまま、二人は深夜一時過ぎになって、やっとSNSで繋がることが出来た。
初代たちが世界線を移動してお互いが行方不明になってから、約一年が経過していた。
世界線違いのかりんとAYAは、織姫と彦星のように一年ぶりの再会を果たしたのである。
『えっと……ここでは初めまして、かな?かりん……今日も初めまして、ってあっちでも言ったけど』
『初めまして、AYA!まさか、まさか、こっちの世界線にAYAが居たなんて……!まだ信じられない!これ、夢?私が見てる夢じゃないよね?』
『同時に互いが出て来る夢?そんなの聞いたことないよ……』
『どうしてかな……まだ泣けてくる。さっきも泣けちゃったけど……なんでか分からない……うー涙が止まらない……!』
鼻水をずすずっ、とすすって、莉花はネットで良かった、と思った。泣きはらした顔を見られなければ音も聞こえない。
『先ずは、俺たちが無事に同じ大学に入学出来て、こんな奇跡的な出逢いが叶って、乾杯!お疲れ!かな?今飲み物持って来る!』
『え、じゃあ、私も!ココアでもいれてこよう』
莉花はインスタントのココアを、綾人はジンジャーエールを用意して、乾杯をした。
二人は何から話を進めたらいいのかが分からない。話したいことは山ほど有る。
『あああ!もう!何から入れば!こんな時、カックンやいっちゃんがいてくれたらなあ……』
『いっちゃん?いっちゃんて、三つ子の?にいちゃんやさんちゃんもいたの?』
『そっちにも居たんだ!?』
『うん、でも……私やみんなが世界線を移動したらしくて、違う人だったり、見えなくなってしまったり、去年の今頃とは違ってしまったの。時々現れる人もいるけど』
二人は、最初に互いのマンデラーであるフォロワーたちの話題で盛り上がった。
次に、いつ、お互いの存在を知ったのか、誰がそのことを教えてくれたのか。
時期的に、オープンキャンパスに参加した直後が共通点であった。
『かりんも参加したんだ……』
『同じ日にAYAも居たんだね……』
『実は俺、初代たちのスクショのスクショ、見たことあるんだ』
『ええっ!あのスクショを?』
『うん、誰だったかな?初代たちのスクショをスクショして保存してたフォロワーがいて、その人が俺が初めてかりんという子のことを教えて貰った日に見せてくれた。俺もその画面をスクショしておけば良かった。最初は俺を引っ掛けるための合成写真かと思ったくらい、カレンダーが別物だった……』
『……あ、話には聞いていたかも……駅は同じなのに、カレンダーや駅員さん、改札を出たところのコンビニが決定的に違ってた、って』
『……行きも帰りも同じコンビニだった……』
『……もし違っていたら、違う世界線に跳んだ、ってことだよな……』
両名とも、背筋が寒くなり、この話題はやめよう、と同意した。
いくら書き込みあっても、いくらでも話が尽きなかった。
懐かしいフォロワーたち、違う世界線で目撃された平行自己の自分たち……家族のこと、リア友のこと、親戚や学校でのこと。
話したいことは湧き水のように次から次へと浮かんで来る。
二人は、明日大学でまた逢えるのだから、と、明け方にやっとお開きになった。
頭の中が冴えまくり、二人は一睡も適わなかった。
自分たちのように、初代たちもどこかの世界線で出逢えているといい。そうお互いが祈る気持ちでベッドへ入った。
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