第17話 初代たち⑦

 AYAとかりんは、すぐに表と呼ぶ画面上に戻って来た。

 

 『やりぃ!仲間ゲット~! 』

 AYAが先に報告すると、フォロワーたちが次々に話に繋がって来た。

 『え~!冗談抜きで、ホントに同じ大学だったの~!』

 ミイミがいち早く反応を示した。

 『私もびっくりした!まさか、AYAと同じ学校のオープンキャンパスに行く予定だなんて!志望校抜きにしてもなんか嬉しい!』

 かりんは、重なる偶然に舞い上がっている。ライバルだという認識はまだ薄かった。

 『ナニナニ?さんちゃんも混ぜて!って、なんのオープンキャンパス?』 

 『かりんとAYAが同じ学校のオープンキャンパスに行くんだってよ!』

 『え~!一緒に行くん?』

 『えっ?違うよ、同じとこだったね、って』

 『一緒に……?自分とかりんで?』

 『え?違うん?同じとこ行くんだろ?』

 さんちゃんも、ミイミもそう思っていたらしい。 

 『だって同じ場所に行くんでしょー?開始時間とか駅とか同じでしょー?さっきそんなこと話してたよね?』

 かりんは、まだAYAを女の子だと思っていたので、それもそうかな、と思い始めていた。

 一方AYAは、かりんが自分を女の子だと思って話していることを分かっていて、この子は初対面で自分と行動を共に出来る子なんだろうか?と、思いつつ、いきなりここで実は俺は男なんだ、とも言えずにいた。

 なるべくならば性別を隠しておきたかったのだ。


 『今晩は~!梅雨ってる?まだ梅雨ってない?なんか雨降ってきたわこちら』

 局の君……通称つぼんぬが、珍しく早い時間帯にやって来た。いつもは《零時の女・つぼんぬ》と呼ばれている。

 『つぼんぬ~お疲れ~アリ?早くない?』 

 『我が家の正規のお局様が塾に迎えに来てくださったのよ。だから早く帰れたの』

 正規のお局様とは、つぼんぬの10歳上の姉である。

 勤務先にある趣味のバレーボールチームに所属しており、そのチーム名が《お局シスターズ》といい、メンバーには《営業の局》《秘書の局》《経理の局》《総務の局》など、各部門の局たちで構成されているらしい。

 姉が経理の局だと話題にした際に、フォロワーたちが《局の君》と呼び始めて、いつしか通称つぼんぬと呼ばれるようになったのだった。本人も納得しているのか、ユーザーネームを《つぼんぬ》と設定していた。

 『こっちは曇りだったけど、雨は降ってないよ』

 『最近雨が多いね。まだ五月なのに。梅雨入りが早いのかねえ?』

 『梅雨入りしたら晴れたよね去年はさあ。また今年もズレるのかなあ』

 『雨の日は髪がぼわぼわになっちゃうから嫌だよね!バクハツ気味なんだよ私』

 『ミイミって天パなんだ?』

 『そうなんよ~!梅雨は悲惨よ』

 『そうなんだ。天パー』

 『天パーじゃなくて、ね!無駄に伸ばすな!』

 『どっちもミイミじゃん?』

 『さんちゃんには言われたくないんだけど?』

 『あっ、いやあ、別に深い意味はないんすけど?』

 『ん?浅い意味ならあるのかな、さんちゃん?』

 『いっちゃんには言われたくないんすけど?』 

 『いっちゃん!にいちゃんは?』

 『にいちゃん?僕の隣でマンガ読んでるよ』

 『まあた不参加なの~!』

 AYAは、自分たちのオープンキャンパスから別の話題へと移り、ホッとした。が、かりんが再び引き戻すのだった。

 『ねえ、AYA、もし……AYAが嫌じゃなかったら、一緒に行く?駅から近いから、分かりやすいとこだよね』 


 AYAの鼓動が跳ね上がる。自分は女だと思われているだろう。さて、どうすれば。自分としては、かりんには逢ってみたい。みたいのだか、ネットで知り合ったばかりか異性だと知ったら、警戒されるだろうし……ここは、都合が悪くなったとすべきだろうか?顔も名前も知らないし、知られていない。黙って参加しても分からない。

 と、考えて書き込みを躊躇していた。

 『なあに?AYAもかりんも同じ大学とこに行きたいの?』

 後から加わったつぼんぬが、話が見えたとばかりに加わって来る。  

 『うーん。私は志望校を決める為に参加しようと思ってるの。そうしないと、なんか前に進めなそうだから。早く絞りたくて』

 『偉いわあ。私なんてまだまだ部活動が7月中旬まであるから今の授業と塾だけで手一杯よ。志望校を決める以前の問題だわよ』 

 『え?つぼんぬが、部活動してたっけ?』

 『放送部でございます。運動部ではございませんが、地区大会のアナウンスを我が校が毎年引き受けているのよね。あれが終わらないと……』

 『つぼんぬが、アナウンス!』

 『残念。私は縁の下の力持ちで、後方支援でした』

 『なあんだ』

 『あれ、AYAは?降りちゃったかな?ごめんなさい。話の腰を折っちゃって』

 『あ、ごめん、いるよ。自分もかりんとは逢ってみたいなと』

 ってマズい!と、つい文字を打ち込んでしまってから思っても後の祭りである。

 『本当?私もAYAに逢ってみたい!』

 かりんが嬉しいことを言ってくれた。マズい。それよりも嬉しさの方が勝ってしまう綾人AYAだった。


 『え~!いいなあ!私も逢いたい!みんなと逢ってみたいよ~!』

 『あ、じゃあミイミも一緒に行く?』


 え、とAYAは打とうとしたが、ミイミはあっさりと引き下がる。

 『え~逢いたいけど、大学のオープンキャンパスじゃあちょっと……オフ会したいよう!』

 『オフ会かあ。さんちゃんも参加したいよう!』

次々とオフ会の話題で盛り上がるタイムラインを眺めながら、AYAは覚悟を決めた。


 ……かりんに逢いたい。一度きりでもいい。直に逢いたい。

 『じゃあさ、一緒に行こう!詳しくはDMで桶(OK)?』

 『あっ、うん!分かった!』


 ひとしきりオフ会の話で賑わった後、この二人のやり取りを最後に見ることになったフォロワーたちがこの中と、タイムラインに挙がって来た会話履歴を読んでいる者たちの中に存在した。


 それはオープンキャンパスが終了してからの数日後のことである。

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