第18話 初代たち⑧

 綾人AYAは、莉花かりんに正直に打ち明けた。

 「『かりん……今まではっきり言わなかったことがあるんだ。最初に誤りたい。ごめんなさい!』」

 「『え、何、いきなり?なんかあったの?』」

 「『うん……多分、かりんは自分、いや、俺のこと、女の子だと思ってるよね……』」

 「」という文字をかりんは凝視する。

 「『……違うの?』」

 かりんはAYAのことを女の子だと思っていた。何の疑いもなく。

 「『うん……実は、男なんだよ』」

 「『え、まさかあ。だってAYAは、いつだって……』」

 かりんの話を良く聞いてくれる。愚痴る話に付き合ってくれる。男の子?

だって、だって……?

 そう言われてみれば、AYAはいつも「」とは言わない。「」を使っていた。

 

 「『だから、もし、俺が男で一緒に行くことが嫌だったら、はっきり言って欲しい。自分勝手かもしれないけど、俺、かりんと逢ってみたいと思ったんだ。大学にも行ってみたい。同じくらいかりんにも逢いたい』」


 綾人は始めてネット上で性別を知らせた。このSNSで知り合った人と、リアルで逢いたいと思ったことなど、今まではなかった。


 「『え……私に?え、でも、AYA、って』」

 「『本名に綾って字が入ってて、リア友にもそう呼ばれてるから使ったんだ。』」

 「『……女の子だと思ってた……だって話が合うし』」

 かりんにはどうしても信じて貰えなさそうである。

 「『話が合うのは、上下女に挟まれているからかも。姉貴と妹の影響かな?』」

 「『お姉さん?妹さん?』」

 かりんにも兄弟がいれば納得しやすいかもしれないが、いかんせん、一人っ子である為に、上下異性に挟まれた者の立ち位置など、素早く把握出来なかった。 

 かりんもAYAに逢いたいとは思ったが、それはだと思い込んでいたからであって、だとしたら?

 かりんは、思ってもいなかったAYAだという真実に直面して、戸惑うばかりであった。


 まさか、当日に対面したら『信じちゃった?本当は女の子だよ!』と言ってくるのではなくて?私をからかっているのでなくて?

 せっかく一緒に行動してくれる人が見つかったと思ったのに。あと一週間しかないのに。

 かりんの頭の中では、AYAが異性であることを信じたくない気持ちが勝っている。

 「『かりん……本当にごめんなさい。ぬか喜びになっちゃったかな……だよね。もし、嫌なら別々に参加しよう。もしかしたら、行き逢うかもしれないけど、お互い顔も名前も知らないから大丈夫だよ』」

 「『AYA……本当に、AYAは男の子なの?私をからかってない?』」

 「『うん……残念ながら、制服は詰め襟だから、オープンキャンパスは私服で行こうと思ってる男子高生なんだよ』」

 「『……私服でも可、だもんね…私はまだ迷っているけど……』」

 無難なところで地味なセーラー服にすべきか、私服にするか迷っていた。


 「『AYA、もう少し考えさせてくれる?表では、私は聞かなかったことにするから、AYAも話を合わせてくれる……?一緒に行けるかどうか、まだ決められない。だって……私だって逢ってみたいと思ったんだから」』

 ……女の子だと思っていたから。とは書き込めなかった。

 「『分かった。なるべく表ではその話題に触れないようにしよう。振られてもスルーするよ』」

 「『うん……金曜日までにはちゃんとここ(DM)に来るから。少し考えさせてね』」

 「『有難う。待ってる』」

 

 かりんとて、初恋は小学生の頃に経験したし、中学時代には憧れの先輩もいた。高校生になって、彼氏未満ではあるが、気になる存在はいる。

 彼女になりたい、とは思っていないので、自分的には友達の関係が一番落ち着くのだな、と考えている。

 気になる存在としては、AYAは同性だと頭からそう思っていた為に、気が合う、話が合う、会話していて楽しい、毎日何かしらのたわいもない会話に心が休まり和んでいた……という存在だった。

 AYAと知り合ったばかりで、二カ月にもならない。

 しかし最初から、なんだか昔から良く知っているような知人みたいに感じられた。

 逢ってみたいと思った。直に逢って、オープンキャンパスの後もリア友のように一緒に出掛けたり、遊んだり、受験生らしく勉強したり出来るのではないか、などとひとりで勝手に盛り上がっていたかりんであった。

 それが男の子だったなら……? 

 莉花かりんは、それはというものなのでは?と、思えてしまう。

 でも、そんなネットで知り合ったばかりで、顔も名前も知らない人に、逢ってみたいと思うなんてどうかしているのでは?とも考えて、かりんは逢いたい気持ちとそれは違うのではないか、の気持ちが交互にやって来て、ため息をつくばかりであった。

 

 こんな時はリア友に相談しよう。

 莉花かりんは別のツールで友人グループに話をしてみた。

 「それ、危なくない?出会い系じゃないの?」

 「大学のオープンキャンパスに一緒に行くことから始める出会い系なんてある?そんな遠回りする?」 

 「莉花はどうしたいの?」

 「うちらのひとりでも、一緒に付いて行ければいいんだけどね……みんなスケジュールが埋まっているからなぁ……」

 「あ、ねえ、待ち合わせ時間近くになら空いてるかも。何時に待ち合わせ?」

 「ちょっと、まだ一緒に行くとは決めてないから相談してるんでしょ?」

 「ああそうだわよね……」

 莉花が口を挟める隙がないほど、リア友たちの意見交換がポンポンと挙がって来る。


 「莉花は、どうしたいの?」

 そのひと言が頭から離れがたい五日間になった。

 リア友たちに感謝をし続けた五日間でもあった。


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