第28話 新歓コンパにて

 大学には、とても高校時代の延長線上とは思えない人物たちがいた。

 僅か数年早く生を受けただけであるはず。

 中にはもう少し前に生まれた者もいるのだが、社会人学生とも違った。

 いわゆる『老けた』人物がいたのだ。その大人びた人物がサークルの会長を務めていた。若干21歳。一回りさばを読んでいるのでは?と、周囲から怪しまれていた。


 「さて、こちらの居酒屋店主であらせられます大将が、なんと!本日、こちらを貸し切りにさせてくださいましたっ!!」


 会長が店主の隣で発言すると、おおー!パチパチパチパチ……と、掘り炬燵形式の長いテーブル三列から拍手が上がる。幽霊会員がこれほどいるとは考えられない、と、新人たちは怯んだ。

 確か活動している常連は、四、五人だと聞いていた。これはどう見てもその六倍以上集まっている。


 「あ、会長、始まる前に新人さんの学生証を確認させて貰うよ。持って来てるよね?」

 こちらで新入会員歓迎会と親睦会を兼ねて会食会(ただの飲み会とも言うが)が開かれるのだ。

 「もちろんです!大将!はいっ、新入君たち、女将さんにお見せして!」

 今年は莉花を含め五名入ったのだが、都合で会に参加が出来たのは三名であった。

 「はい、有難う、はい、どーも、はい……あ、今年は皆さん未成年ね」

 莉花は初め意味が分からなかったが、どうやら飲酒可能かどうかの確認だったらしい。

 「今日は貸し切りだけど、いつもは賑やかなんだよここ。でさ、このお方が元婦警さんなんで、そのせいかが結構常連さんにいてさ、アルコールに関しては特に目が光ってるから、くれぐれも注意喚起お願いしますよ!新入君たちも、古株さんもね!」

 はぁーい、とあちこちから返事が来る。小学生のようだ。

 「ちょっと、つー君、業界って何よ?業界って」

 「あ、いやー、言葉のあやです。あや?だってたまーに眼力鋭い人がいるんだもん。ここ」

 「ああ、そりゃあ職業柄しょうがないよね、ま、皆さん、今日は気楽に楽しんで行ってください。俺はちょっくらあっちに入るから。終電前には絶対帰すからね。そこ、宜しくね」

と、大将は厨房へ向かった。

 再び、はぁーい、と声が響く。

 

 お通しやビール、ソフトドリンクが運ばれ、どれがメインやら訳の分からない大皿に和洋折衷の料理が盛られている。

 「それではぁー!恒例のぉー!会食前にー!新規会員さんのご紹介を致しまぁす!はい、自己紹介宜しく」

 ガタッ、と音を立てて「自己紹介かよ!」とヤジが飛ぶ。

 莉花と、男子学生二人がテーブルから抜けて、会員たちの前に立った。

 「はい、レディーファーストね。名前と入会動機みたいな簡単なの話すだけでいいからね」

 ……動機?え、今、ここで!?

 大勢の前で発言することなど殆ど経験のなかった莉花は、戸惑いを隠せない。

 沢山の視線が集中している中、皆は料理や飲み物を目の前にしてキラキラ、いやギラギラしているようにも見える。

 ……ええい、適当にしちゃおう!と腹を括った。

 「あ、えと、中村莉花なかむらりかです。不思議な話題に興味が有ります。どうぞ宜しくお願い致します……」

 ペコリ、とお辞儀をした。

 ヒューヒュー!ピーッ!と口笛が聞こえ、拍手が数秒続いた。

 「はい、じゃあ横の君、宜しく」

 隣にいたひょろっとした背の高い男子は、すぅっと息を吸うと、部屋に響き渡る声で発言した。

 「鯉渕栄成こいぶちしげなりです!ネットだけでなく!リアルな超常現象にも興味が有ります!宜しくですっ!」

と、体育会系とばかりにガバッと腰を直角に折った。

 ピーッ!パチパチパチパチ!宜しくー!と、だみ声が響いた。

 「はい、ラスト、宜しくっ!」

 中肉中背の、日に焼けた感じの学生は、何やら考えごとをしている。

 「はい、あのー。松崎綾人まつざきあやとです……うーん……動機?これ、話しちゃうと長くなっちゃうから……後でいいですかね?」

 会長に向き直って、確かめた。

 すると、近くにいた女子アナのような先輩が、興味を示した。

 「何?何?なんか実体験でもあるの?」

 彼は、天井を見つめて、ふぅ、と息を吐く。

 「いえ、去年、ネットで知った話なんですが……長くなりますから、詳細は後にします」

 そう言うと、近くの会長に目線を戻した。周囲はブーイングがチラホラ聞こえている。幽霊会員たちとは言え、彼らも不思議な話には興味を示すのだ。

 会長は腕組みをしながら、「五分待てるかな?」とテーブル席をぐるりと見渡す。

 「モチのロン!」

 「ウチに関係?都市伝説系?あったか?」

 「食べたい吞みたいけれど聞きたいー!」

 器を箸で叩きながら、「はーやーく!はーやーく!」とはやし立てる。

 「松崎くん、五分以内で宜しく」

 会長はそう言って親指を立てた。

 「あっ、では、手短に。去年なんですが、俺と同じ学年の男女が、ネットで知り合ったらしいんです。この大学が志望校のひとつだったらしくて、やり取りをしている内にここのオープンキャンパスに一緒に参加しようと約束したんですが……」


 ……え……!

 莉花は、隣の方に顔を向けられなかった。下の畳を見つめて、固まってしまった。

 その、話は……、まさか……? 

 「何?そんで?」

 「はい、二人は○○駅に同じ時刻に着いたのに、おかしなことに、逢えなかったそうなんですよ」

 「なぁんだ、単なる行き違いじゃない」

 「あの、それが……駅は同じなのに、って。スクショしてネットに挙げたら、相違点が幾つかあったらしくて」


 ……やっぱり!初代のAYAとかりんの話だ!

 かりんの頭がぐらぐら揺れていた。

どうしてこの人はその話を知っているのだろう!


 先輩たちは、めいめいに感想を述べあっている。

 「なんだって?どういうこと?」 

 「それが詳しくは分からなくて。ですから、この大学でこちらに伺えば、何かヒントが掴めるかな?と思いました」

 「ね、その二人はここに入学したの?」

 「さあ?俺はその続きは知らないんです」

 「駅の中が違うって?パラレルワールドか?」

 「あー、それ系かもね」


 黙って腕組みをして話を聞いていた会長は、有難う、と三人をそれぞれの席に促した。

 莉花は、それからの一部始終が記憶からすっぽ抜けてしまう程に動揺していた。

 先輩方の話も、料理の味もちんぷんかんぷんなままであった。


 先輩方は、綾人が「ガセネタを掴まされた」のだろう、と結論を出した。


 二人の関係者が同席していることも知らずに。



 

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