第39話 つぼんぬの出逢ったフォロワーたち
つぼんぬは、それからとても嬉しそうに、移動した先のSNSで見かけたフォロワーたちの記憶を掘り起こした。
いっちゃん、にいちゃん、さんちゃんの三つ子が双子と兄だったり、三つ子の大学受験の条件が世界線毎に微妙に変わっていたり、初代たちを知らなかった三つ子がいたり。
その時その時で、世界が重なってしまうので、今、この瞬間、自分がどこにいるのかが不安だったという。
そのうちに、頭の中に違う自分が出て来て、世界線毎に整理をし始めたそうだ。
「……凄い……考えられない」
「私もそう思った。とうとう頭がおかしくなったと思った。でもね、ある意味すっごい便利だったのね。AYAがかりんと逢えなくてすっごいショックを受けていた当時のAYAを知っている私がいたの。だから、二人があのオープンキャンパスで逢えなくて、二人ともその日の夜には世界線を移動したらしいことが分かったから。跳んだ先で違う情報が既に
「……ごめん、俺には付いて行けそうもないな……」
「正真正銘の女の子のAYAもいたよ」
「え!噂には聞いたことある!マジかよ!俺!」
「そっちには妹さんがいたかな」
「そっちは妹か……なるほど」
「でもねえ……良かった成績がだんだん下がってしまってね」
「あ……全部重なるから?」
「そうなの……今、自分はどこの世界線の授業を受けているんだろう?とこんがらがっちゃった。SNSやリア友や家族との記憶は受け継がれて楽なんだけど、授業が情報が大きすぎて頭に残らなかったみたい。ふふ、上手くいかないもんだなあ、って思った」
「元々真弓は記憶力がいい方なのよね。だから便利な分、大変な思いをしたと思うな。私が複数人いたらしいから。私の方が混乱しちゃった」
先輩である亜弓が口を挟んだ。
「あたしがどの世界線でも『お局』だった、という事実は受け入れ難いけどねぇ……どこへ行っても同じってこと!?」
「違うって。やっているスポーツが微妙に違ってたんだって」
「そうだけど、お局には変わりはないんでしょー?」
「そうみたいだった……でもこの先は分からないけどね」
「あ、この先ね、うん。ひとつここは、平行世界の自分たちでレースでもしようかなあ。どの世界線のあたしがいち早く『お局』から足を洗うか」
その場にいた全員が吹いた。
「ナニ、お姉ちゃん、結婚する気あったの?」
「え!当たり前っしょ?一応結婚願望はありますよ~」
「結婚願望がある人が自分たちを相手にレースは執り行わないと思うわよ?私」
「そうかな~?面白いと思うけどな~」
「誰がそれを調べるのよ?まさか真弓にさせよう、って言う訳じゃないでしょうね?」
「ううん。ネットの投稿サイトのどこかにツリー立てておけば、何らかの情報が集まるかな、って?」
「……お姉ちゃん……」
二人の妹がハモった。
つぼんぬの上の姉は天然だったらしい。
そんな話をしていると、出かけていた両親が帰って来た。
二人は軽く挨拶を交わして、真弓の部屋へと移動した。
真弓の背景を知っているのは姉二人だけだった。
いつもはあまり他人と関わらない娘であるのに、今日は姉の後輩達と楽しそうに話し込んでいる姿を見て、両親はとても嬉しそうに微笑んでいた。
彼らもまた
「いいなあ……かりんとAYAは」
「え。あ、うん……」
莉花は言葉に詰まってしまう。何でも話せる相手がいることに救われている。その人が一番近くにいてくれる。
「頼りすぎて、依存しちゃったらどうしようとか思ったの。現象が起こる度に、離れた方がいいのかな、とも考えたの……」
「うん……私からしたら贅沢な悩みだわね……」
「俺たち、人一倍頑張らないと、生きて行けなさそうだよな。参るよ」
「でも、分かり合える理解者が手の届く範囲にいるじゃない。奇跡でしょう?幸せよ……」
二人は
いつしか姉二人はそうっと妹の部屋から退出していた。
つぼんぬの理解者は姉二人だけであったが、リアル世界で同じ現象に悩み苦しんだ仲間が見つかった。しかも、お互いの過去を少なからずとも知っている。
これからは、また道が開けるよ、と綾人が励ますと、真弓は
「これ以上開けなくてもいいわ」
と冗談とも本音とも取ることが出来る言葉を繋いだ。
まだまだ彼らの人生は始まったばかり。
自分の足で動こうと思う前に、世界線を移動してしまうマンデラーたちは、一瞬一瞬を吟味しながら手探りで前に進むしかない。今、ここにいる一瞬が勝負であった。
「あ、そうだ。初代AYAに逢ったら、早乙女っちからAYAに謝っておいて、って頼まれてたの。もし、これから先、初代たちに逢うチャンスがあったら伝えてくれる?あの時ネタ扱いしてごめんなさいだって」
「ん?俺にそれ、言うのか?」
「いつどこで初代たちを知っているフォロワーに逢うか分からないでしょう?だから、知っているマンデラーにはあちこちでお願いしてあるの」
「……伝言ゲームかよ!」
「ある意味そうね」
莉花は先ほどの姉たちの会話を思い出していた。何かが引っかかっている。
「……ねえ、さっき上のお姉さんが妙なこと言ってなかった?」
「自分相手の足抜けレースのことか?」
それもおかしいけど、とはつぼんぬの前で声に出しては言えない莉花である。
「ううん。違う……こう、なんか引っかかって……あ!」
「何?」
「確かお姉さんが、どこの世界線に行ってもお局様だった、って言ってたよね?上のお姉さんもマンデラーだったの?」
綾人は、ああ、そうか、そうだよな、いつも俺たちは、平行自己のことを普通に受け入れているから、スルーしていたのだ、と独りごちた。
「ううん。マンデラーは私だけよ」
「え……そうなの……じゃ、どうしてそのことを知っているの?」
「私が跳んだ先の世界線を一周して戻って来たから」
莉花と綾人は口をポカーンと開けたまま、固まってしまった。
つぼんぬは最強のマンデラーであった。
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