第13話 初代たち③
ミイミは時々思い詰めた様子で、かりんへ相談めいたDM(ダイレクトメール)を送って来た。
「『ごめんなさい。こんな大変な時期なのにさ……こんなこと、友達や家族にも言えなくって。や、妹に言ったんだよ、近くのコンビニの看板が新しくなった、って!だけど、あれはずっと前からあのまんまだから、変わってない!って言うんだよ!私はさ、頭良くはないよ、でもさ、ゲームの神経衰弱は得意なんだよ~!記憶違いじゃないんだって!絶対色が変わってるんだって!』」
「『なんだか……気味が悪くない?』」
「『それ!そうなんだよね……こうも思い違いだの勘違いだの記憶違いだの周りから言われ続けたらさあ!もうさ、頭がヘンになっちゃったかと思うしさあ……気味が悪いったらないよ』」
「『勉強のし過ぎ、って言われない?』」
「『あるある!だけど自慢じゃないが私は今のところは情報収集を優先しているからさあ、学校のホームページをじっくりと見比べて、勉強はちょびっとしかやってないんだって!』」
ミイミはみんなが目にするであろう場所では普段はこの話題には触れない。が、DMでは話していた。それはかりんにとって、嬉しくもあったのだが……内容が内容だけに、どう返答すれば良いか悩むところである。
「『ねえ、こういうのは、ゴールデンウィーク中はなかったよね?最近だよね?」』
四月に知り合ったばかりなので、背景が詳しくは分からない。五月の中旬には、同じような内容のDMが続いている。一体何がどうなっているのか、本人もそうだが、かりんにもさっぱり訳が分からない。
「『うん……ゴールデンウィークが過ぎてからだと思う。あー!もー!訳わからんー!!有難う、かりん!こんなわちゃくちゃな話聞いてくれて!感謝するわ!リア友にも言えなくってさあ……』」
リア友に話せば、もしかしたら、仲間外れにされてしまいそうな状況なのでは?と、かりんは思った。自分だったら、ちょっと、大丈夫?と距離を置くかもしれない。
「『ごめんなさいね……なんて言ったらいいか分からないけれど……聞くだけなら私にも出来ると思う。一緒に考えてみるけれど……全く意味が分からないというか?実際に私がその状況や現場を見てないから、何も言えなくて……』」
「『現場って!事件現場か!』」
と、笑える顔文字を添える。いつものミイミらしくなって来た。かりんは少しホッとした。
「『じゃ、表に戻ろうか?有難う、かりん!』」
「『うん、また後でね!』」
二人の相互フォロワーたちが待つ画面上にそれぞれが戻って行く。あちらでは、AYAやさんちゃんがそろそろお出ましになっている頃だろう。
『本日のノルマ達成~!今日は早かった!』
かりんは、ミイミと話す時間を取るために、少しばかり早めに片を付けていた。
『おっ、乙~!早いじゃん』
すかさずAYAがリプとイイねマークを押す。
『乙です~!AYAも早くない?塾はもう終わったの?』
『今日は自分、塾の面接みたいなヤツだったから、早上がりなんだ』
『ふうん。塾でもそんなのがあるんだ』
『そう。テストでクラス分けするのと面接がセットかな。結構シビアなんだよね』
かりんは塾には行っていないので、このような話題には興味津々である。
『うう……切ないし、なんだか怖いね。勉強しに行っているのに、周りがみんなライバルみたい。切磋琢磨とは違うよね……』
『何言ってんの、受験てばみんなそうですよ?周りがライバル、てか敵かな?』
『え……なんか嫌だなあ……』
『だーいじょーぶ、かりんは例外だから。仲間だよ、かりんは。受験生たちの中には仲間だっているよ?ただ、塾にはいないだけだよ』
『仲間が呼ばれてじゃんじゃじゃーん!さんちゃん、呼んだ?』
いつもひょうひょうとした呈で現れる、さんちゃんである。
さんちゃん、とは三つ子の三男坊であるために、リア友たちからそう呼ばれているらしい。
長男をいっちゃん、次男をにいちゃん、とニックネームとして定着しており、本人たちはネット上でもそれを使用していた。
『今晩はー!乙~!さんちゃん』
『かりん~!乙~!AYAから仲間認定されてよかよか!』
『ここのみんなはさ、仲間だよね。自分はそう思ってる。リアルではとても心のゆとりが無い。ギスギスしてる』
『出た!ゆとり!ゆとり教育ゆとり世代授業変更受験内容変更変更変更……ええ加減にせぇよ!』
『ゆとり開始世代交代は江戸時代の参勤交代かよ!』
『でもさあ、ウチら微妙に違くない?』
『ミーちゃん、乙~!』
『かりん~!乙~!』
『ミイミ、それを言っちゃあおしめーよ?』
『ギリでセーフ世代かね?』
『私はゆとりでよかったのにな……』
『確か受験内容は以前のレベルのままだと思われる。にいちゃんが言ってた』
『あ!そうだ!忘れてたわ!オープンキャンパスの日時が決まったの!』
いきなりかりんが話の腰を折ったので、画面上にはそれぞれが絵文字や顔文字を駆使してビックリしたり、はてな?の顔をしたりと、リプ欄が賑やかになった。
『か~り~ん~!』
『あっ、ごめんなさい!思い出したからつい』
『あれ、かりんの方が早く参加しそう?』
自分も参加すると言っていたAYAが口を挟んだ。
『AYAはまだなの?』
『自分ももうすぐなんだけど。かりんが先みたいね。今月の第4日曜に行くんだ』
『え!同じ日なんだけど!』
『えっ、ホント?偶然だね!』
AYAとかりんが参加するオープンキャンパスがなんと同じ日であった。
この時、彼らはまだ、世界はひとつ、自分もひとりだと思っていた。それは当たり前のことであった。
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