第4話 ユーザーネームもIDも同じなのに?

 かりんは、いつものように就寝前の勉強に一息つくと、ネットに潜り込み、タイムラインに流れて来る受験色に染められた呟きを肯きながら眺めていた。

 そこへ、相互フォロワーだがあまり絡むことのない内のひとりが、いきなり話しかけて来たのだった。

 


 『かりん~?AYAって、女の子じゃなかったんだって?ねーねー、ホントに初対面の男子と一緒に参加したわけ~?アンタ受験生でしょ~?自覚してるのかな?てか、イケメンだった?』


 かりんには、全く何のことか分からない話であった。


 『今晩は。えーっと、あの、何のことですか?』

 『えっ?ちょっとちょっと、あんなに騒いでたじゃない!オープンキャンパスに参加したんでしょう?』

 この人と、その会話をしただろうか?いくら受験生だからと言って、暗記ものを詰め込み過ぎても大事なイベントの話題である。やり取りしていたら、忘れるはずはないと思う。ほんの数日前のことである。

 それに、騒いでいた?騒ぐほどの内容だったのだろうか?他人には、そう見えたのだろうか?

 おまけに、初対面の男子と参加したような話になっている……?

 莉花には全く身に覚えのないことである。


 『確かにオープンキャンパスには参加しましたけど……?一人だったし、他の人と約束なんかしてなかったですけど……?』

 『まーたまた~!すっとぼけないでよね?何、イケメンだったの?ちゃんと大学の方も見てきた?』

 誰かと勘違いをしているのだろうか。お相手は、ヤケに親しそうに語りかけて来る。この人とはそんなことを話した覚えはないのだ。

 『えっと、ミイミさん、どなたかと勘違いされてません?』

 莉花は恐る恐る尋ねた。

 すると彼女は、『ちょ、ちょっと待って!プロフ見てくる!』と、いきなりトンチンカンな台詞を残してタイムラインからしばし消えた。

 プロフィールページには、受験生であることくらいしか載せていない莉花は、全く何もかもが訳の分からない話にしか感じられなかった。


 「きっと、別の誰かと間違えてるんだろうな。ユーザーネームだって、似たり寄ったりな人は沢山いるもんね」

 

 数分の後にミイミというユーザーネームのフォロワーはタイムラインに戻って来た。

 『ねえ!かりんのフォロワーにAYAが居ないんだけど!かりんもフォローしてないじゃんか!何があったの?トラブルでもあったの?』

 開口一番に、また訳の分からない話をし始めた。


 『?AYAって?誰?そんな子知らないけど……?』

 『……えっ……マジ……?』

 『マジって?何がマジ?』


 『……ちょっと待ってよ?かりんのネームもIDも同じだった!使ってるナンバーは、生まれた時の体重だったよね、確か??』

 あれ?そんな話をこのSNSでしただろうか。

 確かに出生時の体重3776がIDに入っている。かの有名な富士山の高さと同じだった為、両親は《富士子》と昭和の香り漂う名前にしようかと迷ったくらいだと話していた。

 『はい。そうですけど……?』

 『おかしい。私の知ってるは、そんなよそよそしい感じじゃない……私のこともミーって呼ぶし!でもでも、ネーム同じ、アイコンもIDも一緒なんだよ~!』


 全く訳の分からない話が続いているが、聞き捨てならないことを言われている。莉花は彼女とそんなに親しくはない。ユーザーネームやアイコンは、相互フォロワーなので個別認識は出来ているがしかし、彼女が語るような関係ではなかった。

 すると彼女は、『あ、そうだ!DM《ダイレクトメール》があるじゃん?それ読んでくれれば思い出すでしょう?読んでよ!』と、また訳の分からない話を進めた。


 『DM……?私、ミイミさんとはしたことないですけど……?』

 ますます話の食い違う応酬に、二人とも顔は見えずとも、お互いがもやもや、イラつきを覚えているようだ。


 またしばらくタイムラインから消えた彼女は、再び現れると、またおかしな発言を繰り返した。


 『ヤバイ!私が跳んだみたい!かりんとの先月初めからこの間までのDMが全消しされてるよ!マジ!ちょっと勘弁して!』

 『……全消し?だって、私はミイミさんとは全然……』

 『あ、のー、つかぬことをお伺いしますが、こっちのは妹がいる方?それとも、弟?』

 本当に妙な発言だらけの人だ、と莉花は思ったが、何故か切実そうな空気を読み取り、普通に答えた。

 『四つ下に弟がいますけど』

 『あ~!やっぱり!違うだった~!マジか!』


 こっちの自分?違う自分?一体全体、この人は何が言いたいのだろうか。ユーザーネームやID、更に出生時の体重が被る人でも存在したのだろうか。莉花は、不思議なことがあるものなんだ、と感心していた。


 すると彼女は、それ以上におかしなことを言い始めたのであった。


 『多分、かりんもAYAも勿論、この私もマンデラーだね。私のフォロワーさんが、かりんには弟がいる、って話してたからおかしいなあとは思ってたんだけど、これで納得したね!かりんには二歳下の妹さんがいたはずなのにさあ……』


 『……えっ?妹……?二歳下?』

 そんなに似ているユーザーネームやID、少し違う家族がいる人がいるのか、と思ったが、初めて聞いた単語がなんとなくえも言われぬ引っかかりを感じさせたのであった。


 『マンデラー?て、何ですか……?』


 このひと言は、とても奇妙な胸騒ぎを誘発されるものであった。


 莉花は、知らない世界の扉を知らない内に開けてしまっていたのであった。

 莉花は、一人ではなかった。


 

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