第43話 マンデラノート

《こんにちは。このノートを開いたということは、莉花か綾人?それとも二人ともかな?世界線を越えて来ましたね?

 違っていても、それを前提にして書いておきます。

 決してタイムリープとかではない、平行世界を移動した時のためのの足跡や過去ログです。子供たち、理真、真人についても簡単に書いておきます。

 もしかしたら、あなたの過去や家族全員の記憶がちょっとずつ変わってしまったかもしれません。初めてこれを読んだら、頭がおかしくなったと思うかもしれませんね。大丈夫です。私は17歳数ヶ月から、このような現象に悩まされて来ました。これを書いている今は37歳です。これからは一年単位で大まかな出来事を書いていきますね。

 あ、記入しているのは莉花です。時々真横でブツブツ呟いているパパ(綾人)がいます。こんな映画あったよな?なんて言ってます(笑)。

 真似とは違いますから。最近、私の夢の中に、違う世界線かもしれない我が家のリビングが出て来たのです。そこに、私たちの結婚記念日(初代たちが逢えるはずだった五月二十六日です!)とか、理真のスケジュールとかが記入されていたんです。

 もしかしたら、私たちもいつかはどこかの平行世界、世界線へ跳ぶかもしれません。その時に、ファミリーカレンダーや、ファミリーヒストリーノートが存在していたら……。私たちはどうやら記憶の統合が難しいマンデラーのようですから……少しは情報が入手出来て便利かな?と思ったのです。

 ですから、ひとりでもこんなマンデラノートを作っておけば、伝言ゲームのように他の世界線のかりんである莉花や、AYA である綾人が同じように真似をして、ノートを作ってくれないかな……?なんて、他力本願的な希望を抱いています。

 あっ、強制ではありませんよ?あったら助かるかなあ……って思いました。

 理真は、もうすぐ十歳になります。ですから母子手帳や写真を見ながら思い出せただけをかいつまんでいます。

 真人は二歳半なので、まだ記憶は新しいです。

 年表のように書いておきますね。

 

 もし、私が世界線を移動して、違う私がこの世界線ノートを見つけて手に取ってご覧になったら、また新しいファミリーヒストリーを記入してくださると嬉しいな……。

 勿論、このまま私がこの世界線で一生を終えることが叶えば、それに越したことはないのですけれどね。

 その時は遺品整理で見つかってしまうのかな?


 それでは、まず、SNS『呟きの箱』からの出来事から書き込むとしましょう。初代たちではない『AYA』と『かりん』の出会いからです。

 誤字脱字は大目に見てくださいね。》

 


 「理真ー?母子手帳はまだ見つからないの?もうそろそろ夕飯の支度を……って。あら、何してるの?静かだと思……っ!」

 納戸のように使っている小さな部屋で、理真は長いこと自分の母子手帳を探していた。

 莉花はいつまで経っても出てこない娘が、目くらめっぽうにあさっての方角を探しているのでは、と、心配して様子を見に顔を出した。


 「……何……してるの……?」

 数字選択式の鍵の付いた日記帳が、理真の膝の上に開かれた状態で乗っている。今これを読んでいました、と言わんばかりである。

 「……ママ……」

 「ちょ、ちょっと理真!あなた何読んでるの!それには鍵が掛かっていたはずでしょう!」

 「あ……ごめん、ママ……私たちの母子手帳と一緒にあったから……つい」

 莉花はしまった!と思った。記憶を辿れば、子供たちの成長を記入する際に母子手帳を参考にしたので、同じ場所に保管しておいたのであった。迂闊であった。

 「だからといって、その鍵を外して読んでいいなんて思わな……どうやって鍵のナンバーが分かったの!」

 理真は今にも泣き出しそうである。父親に似て、泣くのを我慢する時に顔が真っ赤になってしまう。

 「……ごめ、ごめんなさ……い。ママだったらと思って……ママたちの結婚記念日を……そしたら、は、外れちゃって」

 言わずもがな、ナンバーはゼロゴーニーロク、結婚記念日と同じである。

 「……読んだの……?」

 コクッ、と首を縦に振る理真に、莉花は怒りを忘れて呆然と立ち尽くしてしまう。

 「ママ……ママは、ママとパパは、ずっと私と真人のママとパパ……だったよね……?」

 「理真……?どこまで読んだの?怒らないから、言って?」

 理真は既に大粒の涙をぼろぼろ流している。今年で二十歳になるというのに、まだまだ子供時代のままの泣き顔のよう。

 「ま、真人、が、手首、を、お、折ったとこ……」

 真人が自転車で坂道を転げ落ちて、手首を骨折したのは小学校四年生の頃だ。数年前である。


 「殆ど読んじゃったのね……」

 「ママ……ママは、ママたちは、違う人なの……昔からの、ママ、と、ちが、違うの……?」

 理真は、莉花と綾人が世界線を越えてしまい、二人とも別人説が頭をよぎったらしかった。

 莉花は理真の前に近付くと、理真の肩を抱き寄せた。

 「バカねえ……その辺まで読めば分かるはずだけど?他の人が書いた形跡、無かったでしょう?今までパパやママが挙動不審だったことがあった?無かったでしょう?」

 「……ん、うん……だ、けど」

 「ママたちに違和感は無かったでしょう?」

 「……違和感……?……わから、な、い……」

 「もしも、パパかママが移動していたら、多少なりとも違和感があるものなの。だから大丈夫。私とパパは移動してないからね。安心して?」

 「……ホン、ト?」

 「本当です」

 「よ、良かっ……たぁ……ママぁ!」

 このマンデラノートを読みながら、不安を生じてしまったらしい。

 まるで小学生に戻ってしまったかのように、理真は泣きじゃくるのであった。


 「ごめんね。不安にさせちゃったね……こんなところにしまっておいたママが悪かったね……」

 理真は鼻をすすり、涙を両手で拭って、手の中の日記帳を見つめる。


 「……ママたちが……都市伝説、だったんだね……」

 「……都市伝説……?ああ、いつか理真が夢中になっていた物ね。ちょっと違うかな……。ママたちは、初代たちとは違うの。それぞれ、SNSのフォロワーさんたちから教えてもらって、ママたちは出逢えたの。凄い奇跡が起こったの!」

 「……それ……詳しく……知りたい……。ダメ……?」

 

 もう、隠せないし、隠す必要もないな、と思う莉花である。

 ……全部、読まれちゃったことだし。

 「……いいよ。教えてあげる。『マンデラーの恋人』たちのこと……」


 世界がひとつではなかったことを。




            完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マンデラーの恋人 ~世界線を越えて~ 永盛愛美 @manami27100594

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ