第26話 それぞれの分岐点

 初代たちと呼ばれるようになったAYAは、オープンキャンパスが行われた日曜日のうちに、それぞれが世界線を移動してしまい、再びSNS上で出逢うことは適わなかった。

 二人のフォロワーたちも、ある時は同時に同世界線へ移動し、またある時は別の世界線へと分岐分離して、それぞれの平行世界へと増殖した自己を送り出すのであった。

 莉花はAYAとすれ違った日曜日の朝からの一連の出来事を長い夢だと思い込んでいたが、SNS上でマンデラーであるフォロワーたちに教えてもらい、自身がパラレルワールドを往き来していることをやっと納得するのであった。それまでには二週間を要した。

 

 綾人はカックンが分岐分離した違う自分(カックン)をフォロワーたちが数名目撃して報告をしてくれた経験があり、もしかしたら、かりんサイドには違う自分たちが跳んでいるかもしれないが、それは自分であって自分ではなく、跳んだ先の自分と記憶の統合が出来るのか否か不明であるために、別人になる可能性が高いと話した。

 中には跳んだ先の自分の記憶と統合して二重の記憶が持てる人物もいるらしいが。

 SNS上でも僅かしか見当たらないマンデラーであったが、何故か一度フォーカスしてマンデラエフェクトを認知してからは、波長が合うのか類は友を呼ぶのか、フォロワーにマンデラーが増え続けた。

 莉花も綾人も同様に、様々な先輩マンデラーから多種多様な情報を教えてもらい、なんとかショックから立ち直ることが出来た。

 ショックから抜け、立ち直る兆しが見える度に莉花と綾人は世界線を越えた。


 そんなことを繰り返すうち、彼らはマンデラーである前に受験生でもあり、それも影響を与えて幾つもの人生の分岐点に直面するのであった。

 

 人は皆、毎瞬毎瞬選択をし未来へと進んで行く。

 無意識に特に何も考えずに行動を起こしているかの感覚であっても。

 しかし、瞬時に選び取っている。必ずを。

 

 受験生である彼らは、人生の中では顕著に選択が見え隠れしていた。

 目の前の現実が幾重にも重なってやって来るマンデラー受験生たちは、試験を受けるがどこになるのだろう?といった、普通では考えられない不安が付きまとうこととなる。

 初代たち、かりん《莉花》とAYA《綾人》は、『もしかしたら、このままを受験して合格すれば、お互い逢えるかもしれない』と感じていた。

 周囲のマンデラーたちも同様で、冗談交じりに『このまま第一志望にすれば?』などと話していた。

 次第に想いは募る。いつしか希望へと変わる。淡い恋心を抱いたまま、リアル世界での心の拠り所となる。

 俄然やる気が湧いて来る。

 二人とも、それまでとは別人の如く前向きに進もうとしたのだった。マンデラーのフォロワーたちからは、『移動したのか』『違う人?』などと怪しまれた。

 移動も激しかったことは言うまでもないが。

 幾つもの世界線を移動した経験を活かした彼ら受験生たちは、情報を少しずつ共有し始めた。平行世界であるため、微妙な変化は否めない。

 が、少し違えば地理や歴史、著名人の氏名が僅かに異なることに気付く。

 東京タワーの色がこれの時は、オーストラリアの位置はここ、首都がここの確率が高い、歴史では第二次世界大戦中にオーストラリアへ空襲をかけた歴史がある時はどんな世界線か、等、彼らは自らがを例に挙げ、世界線毎に整理したのだった。

 もちろん、全く同じ世界線へ移動するとは保証されない。が、彼らにはお守りのような感覚で試験に臨むのであった。



 思い入れや覚悟やストレスが幾重にも重なって、何もかもを放り出そうと思うと、それが原因となり違う世界線へ移動してしまう。

 受験生たちにとって試験直前の移動は避けたい。

 毎晩のようにSNSへやって来ていた彼らは、いつしか数名が時折息抜きに現れる頻度になっていた。

 目の前のリアル世界を固定出来るならば、意思の力で叶うならば、と合格発表までの間、しばらく立ち入り禁止区域と化した。


 彼らの桜は果たして咲いたのか?

 とは、一体なのであろうか。


 ひとりにつき、無数のが存在する。

 それら皆全て『オリジナル』な自分であり、唯一無二だと自負している。

 初代たちと呼ばれたから袂を分かつことになり異なる道を進んだも、等しく唯一無二であった。


 試験が無事終了し、卒業式を経て、大学の合格発表を迎える頃には、初代たちの二人を知るフォロワーたちはSNS上には殆ど存在していなかった。


 莉花と綾人は、SNSの退会は行わずに、無事に第一志望の大学へと進めたのであった。

 この二人がリアル世界で同じ空気を吸っていた中村莉花と松崎綾人である。

 初代の中村家では祖母、両親と四人家族であるのに対して、こちらでは両親と妹との四人家族である。


 初代の松崎家では父、姉、妹と四人家族であるのに対して、こちらでは両親、兄の四人家族である。

 それぞれが異なる世界線を往き来したおよそ一年間のうち、家族構成は変わらなかった。

 移動した世界線毎に家族たちとの微妙な記憶違いと異なる趣味嗜好については慣れつつある二人であった。


 人生はいつ何が起きるか分からない。

 マンデラーたちには毎秒毎瞬が思えるのだった。


 

 

 

 

 

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