第15話 初代たち⑤
『うーん。イマイチ絞り込めないんだよね……志望校が。やっぱオープンキャンパスに何校か参加してから決めようかな』
AYA は、不思議とかりんには本心をあまり隠さずに打ち明けられた。
自分でも、おかしいなと思う。リア友にも話していないことを、かりんにはスッ、と話してしまう。顔も本名も知らない者同士だから気安いのだろうか。
『私もなるべく早く対処出来るように、参加しようと決めたんだよ。担任の先生も言ってたの。一校でも体験しておけば、対比出来るでしょう、と。この先に何校か参加してみて、比較検討が出来ることがプラスになるでしょう、って』
かりんも同様に数校を対象としていると見えた。
『そうだよね、比較検討は大事だね。よし、自分もその路線で行こう!』
『さんちゃんが~横から飛び出てじゃ~んじゃじゃーん!』
『いっちゃんも呼ばれてないけどなう!』
『いっちゃん、さんちゃん、お疲れ~!』
『出たな三つ子三分の二!』
『にいちゃんは来ない。アイツは呼んでもスルー』
『かりん、AYA、お疲れ~』
『あれ、呼んだ?いっちゃん。にいちゃんに声かけた?こっちにいるから来いって』
『えーいつもさんちゃんがしてるから僕はやってないよ。今リビングにいるから呼んで来ようか?』
『何処に呼んでくんだよ?ネットだぞ?俺の部屋に呼んで来るつもりか?』
『ねえ、もしかして、いっちゃんとさんちゃんて、同じ部屋に今いるの?
』
『うん、そう』
『うんそう』
『にいちゃんは?そこには居ないの?』
いきなり現れた二人が混じって、挨拶もそこそこに賑やかになった。
「あっ、アイツはバカか!リビングにマジに呼びに行ってやんの!しかも「にいちゃーん」だと?お前が
さんちゃんが実況中継を始めた。
『リアルでは名前で呼んでるの?いっちゃんが長男だっけ?』
AYAは以前から三つ子とは馴染みがあったのだった。
『うん、そうだよ。さんちゃんは三男。にいちゃんが次男。普段は名前呼びしてる。バカだわアイツ!直にリビング行ってどーするよ。いくらでも手段はあるだろ?メールとかさ……うわ、にいちゃんがこっちに来た!俺らを指さしてドワッハッハ!って大笑いしてリビングに戻って行きやがった!』
『……にいちゃん……ふふふ。楽しい兄弟だね。いいなあ。兄弟がいて』
『かりんは一人っ子だっけ?兄弟は兄弟でもさ、三つ子は騒がしいよ。全員同じ条件で生きている割には不平等だぞ?おかしくないか?.あ、いっちゃんが戻って来た!』
『実況中継乙ー!』
いっちゃんがリアル世界でリビングからさんちゃんのいる部屋へ帰って来た。
『なんだよにいちゃんのヤツ!こっちに来たと思ったら、バカ笑いしてリビングに戻ってやんの。僕の労力は?』
『だからわざわざリビングまで行かなくたってさあ、まあ狭いウチだから、まあいいけど?メールとか内線でネットにおいで、って言えばさあ』
『なんだよ、いつもはさんちゃんがご招待してるくせに』
『しない時もありますが?にいちゃんは呼んでもあんまり参加しないんだよね。いっちゃんは呼ばなくても来るけどさあ』
『なんだよ、僕はこっちに来ちゃいけないのかよ』
『……ねえ……二人して、同じお部屋でそれ、打ってるんだよね?』
『うん、そう』
『うんそう』
かりんは、逢ったことのない三つ子の内の二人が、同じ部屋の中で静かに画面に向かってネットに呟いている様子を想像し、画面のこちら側で笑ってしまった。
『漫才みたいじゃん?』
AYAもかりんと同じく二人の行動が目に浮かぶようで、実際本人たちに逢ったなら、トリオの漫才を見てみたいと思ってしまうだろう。
『漫才?僕とさんちゃんで?』
『どっちがボケ?』
『どっちもボケ?』
『ねえ、二人とも、今黙ってるの?』
かりんは二人のやり取りがおかしくて、その場面を直に見てみたいと思った。
『うんそう。スマホの画面を打ってる音しか聞こえないね』
『いっちゃん、打つの早くねえ?音がうるさいんだけど』
『えーさんちゃんが遅いんだよね?もっとリズミカルに打てるはずだよ』
『み、見てみたい!その光景を見たいぞ!』
『私も!出来れば三人でスマホ画面に向かって呟いているところが見たい~!』
『自分の姿を鏡に映せばあとはかける三だからやってみそ?』
『……かける三……!』
かりんはしばらく笑いが止まらなかった。涙が出そうだ。
AYAは、ネットのSNSならではの笑える状況に、リアル世界での悩み事などが霞んでしまうと思った。ここはオアシスである。
『えっ?今日はいっちゃんが来てる~!捗りましてん?』
ミイミが遅れて参加して来た。
『ミーちゃん、お疲れー!』
『かりんも乙~!』
『ミイミ、僕はいつも来てるけど、時間帯が合わないんだよね。ミイミ今日は早いだろう』
『ん?あ、そうみたいね。いっちゃんはいつも早いんだ?』
『ミイミー、もう少し早く来てたらいっちゃんとさんちゃんの漫才が見られたのに、ってまだ間に合うか?辿って読めるかな』
『何?何それ!今?ちょっくら見てくる!』
ミイミはそう書き込むと、タイムラインから外れた。
『いっちゃん、俺ら漫才なんかしてないよね?』
『にいちゃんが大笑いして帰って行っただけなんだけど?』
『いっちゃんがリビングに呼びに行くからだよ!』
『なんだとう?にいちゃんは?と聞かれたから呼びに行っただけなんだけど?』
『そこ、ネットで兄弟喧嘩しないで』
『は?兄弟喧嘩なんてこんなもんじゃないよ~ん』
『そうそうそう。誰が推薦入試になるか、奨学金コースで行くのか、普通コースで受験するのか揉めた時は凄まじかったよな?特ににいちゃんが』
『何それ?』
『三つ
『うわ……ハード過ぎ……』
『いや~両親はもっとハードだと思う』
『そうよね……かける三……だもんね……』
『うん、そう』
『うんそう』
AYAは一気に現実に引き戻された。
姉が大学受験を諦めて就職を決めた時のことを思い出すのであった。
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