第9話

 瞼を開けると光が入ってきた。部屋の電灯の光と窓から入ってくる太陽の光が混じり合った光であった。目の前のテレビの大画面に映っている新聞の一面と画面の隅の鏡に映っている私の白髪頭の顔が、電灯の光と太陽の光が混じり合った光の中から浮び出てきた。

 心地よい鐘の音のような音がテレビから聞こえてきた。テレビの大画面が左右に二つに分かれた。左半分の画面が上下に半分に分かれて、上半分には新聞の一面が、下半分には私の顔が写っている鏡が映った。

 鐘の音のような心地よい音が響いた。テレビの大画面の右半分の画面に週刊誌の社会面の記事が映し出された。男の人の顔写真が映っていた。あの詐欺師の男の人であることがわかった。2005年の週刊誌であった。エリートから転落して、詐欺師になっていったことから週刊誌のネタになっていたようである。

 どうやらまた2070年の世界にいる私の身体に私の意志が移ったようである。2010年の世界で私の家の居間に入ってテレビをつけると『私の街の風景』の番組が放送されていた。私の住んでいる街の商店街の風景が映し出され、住宅街が映し出され、私の住んでいる家の外観が映し出された。このことと今私の前にある大画面のテレビが、私の意志のタイムスリップと関係があるのだろうか。

 このテレビは画面にあの詐欺師の週刊誌の記事を映してくれた。これはどういうことだろうか。このテレビは私に必要なことを代わりに考えてくれるというのだろうか。2010年の世界の中で私は詐欺師からこっそりと小切手を取ることを考えていた。しかし小切手を現金化するには身分証明書が必要である。そして2010年の世界にでは私は17歳で未成年である。このことが不可能な計画であり、この計画の実行を諦めた。

 今テレビの右半分の画面に映し出されている週刊誌の記事と写真。2010年の、父があの詐欺師に小切手を渡す前の世界に移ることができれば、週刊誌のコピーを父に見せれば、この問題は解決する。私は週刊誌の雑誌名と出版日を記憶した。

 鐘の音のような心地よい音が響いた。週刊誌の記事と新聞紙の一面と鏡とに別々になっていた画面が一つの画面になった。テレビに『私の街の風景』の番組が映し出された。2010年の世界の私が住んでいた街の商店街の風景が映し出された。住宅街の風景が映し出された。私が住んでいた家の外観のアップが映し出された。

 身体全体が心地よい暖かさに包まれるのを感じた。真っ暗な暗闇に包まれるのを感じた。暗闇の中を今までに見たことのないような美しい光が点滅するのが見えた。その光は、強烈で眩しいにもかかわらず、美しい光になっていった。身体が少しずつ浮き上がっていく感じがした。意識が少しずつ薄れていくのを感じた。

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