第52話
数日後、インウルエンザで病んでいた体が、ほぼ完全と言えるくらい回復した。自転車を跨いで、ペダルに足をかけた。
純白の日差しの中、ペダルに足を踏み入れた。そよ風が心地良い感触を頬に与えてくれる。木々の葉から漏れてくる純白の光は、緑色を滲ませながら輝いていた。
遠くから微かに、歌声が聞こえてくる。その歌が何の歌であるか、分かるほどの大きさではなかった。少しずつ歌声が大きくなってくる。前方に見える小学校の校舎から聞こえるようだ。校舎に近づくにつれて、ますます歌声が大きくってくる。
手のひらを太陽に
すかしてみれば
まっかに流れる
僕の血潮
音楽の授業のようである。小学1年生だろうか。オルガンの伴奏に合わせて、元気な歌声が響いている。
自転車を停めて、太陽の方に体を向けて佇んだ。眩しい太陽に手のひらをかざしてみた。手のひらに遮られて太陽は見えないだけであった。
瞼を閉じたままで太陽にまともに向けた。真っ暗でただ何も見えなかった。
しばらくそのまま瞼を閉じていた。ほんの一瞬であるが真っ暗な闇の中に太陽のコロナが見えた。
完
手のひらを太陽に 振矢瑠以洲 @inabakazutoshi
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