第51話

 瞼に眩しい純白の光の微かな温もりを感じる。強烈な眩しさで、瞼が微かに震えるのを感じた。瞼を開こうとしたが、眩しさに耐えられずにすぐに閉じた。瞼を薄めがちに少しだけ開けることができた。純白の強烈な光に少しずつ慣れてきた。

 瞼を開くと、窓から純白の光が、部屋の中に流れ込んできた。部屋の四方八方を照らしていた。天井、畳、押入れのふすま、机、椅子、本棚。純白の光を浴びて様々な色が輝いていた。

 身体中が汗で濡れていた。下着もパジャマも汗で濡れていた。

 壁に掛けられたカレンダーが、純白の光を浴びていた。2006年5月の黒色の文字が、純白の光を吸い込んでいた。

 部屋のふすまの戸が開く音がした。母がお粥の載ったお盆を持って、部屋の中に入ってきた。母は枕元にお粥を載せたお盆を置くと、脇に挟んでいた体温計を取り出して、数値を見た。

「よかった。熱がすっかり下がって。着替えはもうそこに置いてあるからね」


 この時期にインフルエンザにかかるのは、珍しいことだと医者は言っていた。中学に入学して、ゴールデンウイーク明けで、疲れたために熱が出たのだろうと、両親は、最初は思っていたようであった。だが、この時期には珍しいインフルエンザにかかったようであった。

 39度代の高熱が数日続いた。うなされて大声を出した時は、救急車を呼ぼうかと思ったそうである。中学1年なって、ゴールデンウイークの後、学校を一週間休むことになってしまった。熱が出ている間、とても恐ろしい夢を何度か見たようだ。しかし、その夢の内容は全く覚えていなかった。非常に恐ろしい夢であることは覚えていた。

 濡れたパジャマを部屋着に着替えた。お粥を食べた後、空になった茶碗を載せたお盆を持って、階段を降りていった。お盆を持ってダイニングルームへ行く途中に、居間の前を通って行った。父が誰かと話しているのが見えた。二十代くらいの女性であった。その女性をどこかで見たことがある。どこで見たのだろうか。

 自分の部屋に戻ってから、いくら考えても思い当たることがない。あの女性を見たのはこれが初めてのはずである。でも、なぜどこかであったことがあるような強い印象があるのだろうか。

 確かに、自分の知っている人と似ている人を見て、そのような感覚になる場合があるかもしれない。でも、今回の場合は、そのような感覚ではない。私の知っている人で、彼女に似ている人がいるわけではなかった。


 彼女が帰った後、父親に聞くことにした。役所の都市計画担当の人であることを知らされた。父の弟妹、つまり私の叔父叔母たちに畑のことで、説明して、その報告のために彼女は来た。叔父叔母たちが、父の畑に家を建てる計画が、地域の長期計画に抵触することを説明して、その結果を父に報告したわけである。父が畑を減らして、農業を続けることができなくなることが、いかに不味いことであるかを、そして、状況によっては、刑罰の対象になることもあるかもしれないと説明されて、叔父叔母たちは諦めたようであった。

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