第17話

 アパートの部屋に戻ってシャワーを浴びて、部屋着に着替えてから、カップ麺にお湯を注いだ。テレビのリモコンをとって電源を入れると、全米での大規模なデモの映像が映し出されていた。黒人男性が白人警官に膝で首を絞められて窒息死した。その映像が現場にいた第三者にスマホで撮影された。その映像が SNS上にアップロードされ、瞬く間に世界中に知れ渡った。

 I can’t breathe とその黒人が言った言葉が、Black lives matter に加えれた。遠景から映し出されたデモの長蛇の列の映像は、キング牧師の公民権運動の時の映像を彷彿させるものだった。

 アメリカの人種問題は根深いものだと感じた。高校の時の英語の先生が授業での雑談の中で語ってくれたことを思い出した。その先生はニューヨークで地下鉄に乗った時のことを話してくれた。その先生がニューヨークへ行ったのは9・11の前のことであった。地下鉄のホームで電車が来るのを待っているとホームでは白人黒人入り混じって多くの人がホームに電車が入ってくるのを待っていた。ホームに電車が入ってくる頃になると、白人がひとかたまりに集まり、黒人もひとかたまりに集まっていく、という異様光景を見たというのだ。つまりお互いに無意識のうちに恐れているのかもしれないと感じたということだ。

 私は以前テレビで見たあるアメリカの報道番組を思い出した。その番組ではある実験的なことをした。衣料店や百貨店などでの衣料コーナでのことであるが、黒人白人それぞれの番組クルーが、客になりすましてそれぞれ着替え室に洋服を持って行った時の店員の様子を取材したのであった。白人が着替え室に行った時、店員は呼びつけられなければ着替え室まで行くことはほとんどなかった。黒人が洋服を持って着替え室まで行くと、店員は近くまで来て様子をうかがっていることが多かったという。

 公民権運動後でもアメリカにおける人種問題は根深く残っているものだとその時感じたものである。アメリカの白人社会の中に入れば、日本人もアジア人・黄色人として有色人の分類に入る。第二次大戦中、日系アメリカ人は収容所に入れられた。ドイツ系アメリカ人はそうではなかった。

 この新型ウイルスは中国の武漢で最初に感染が確認されたことからなのか、アメリカでの白人警察によってもたらされた、黒人男性の死に発した、大規模デモ以前に、アジア系の人に対する差別的な言動が問題となっていた。

 こんなことを考えながら、アメリカのデモの様子を映した映像を見ていた。その映像が終わると、CMが流れた。

 『私の街の風景』の放送が始まった。私が十代の頃住んでいた街の、商店街の映像がテレビ画面に映し出された。カメラは住宅地を通る道路に沿って進んでいった。私が十代の頃住んでいた家の外観がアップで映し出された。

 身体全体が心地よい暖かさで包まれていくのを感じた。身体全体が真っ黒な綿状のものに包まれていくのを感じた。一瞬のうちに闇に包まれていくのを感じた。美しい純白の光が通り過ぎていくのが見えた。その光は等間隔の間をおいて通り過ぎていった。やがて等間隔の光は純白の雪のようになって私を取り囲んだ。その光は七色の光へと分かれた。その光の美しさにうっとりとした気分に浸ると同時に意識が朦朧としていくのを感じた。

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