第5話

 私は自分の意思が2020年から2010年に移った時のことを、必死に思い出そうとした。確かテレビに私が住んでいる街が映っているのを見ていた記憶がある。私が住んでいた街の商店街が映り、住宅街が映り、私が住んでいた家がアップで映し出され、私の目と意識がその映像に釘付けになった時、私の意識か2020年の世界に移ったような気がしてならない。

 あの番組のタイトルを私は必死に思い出そうとした。『私の街の風景』というタイトル名の番組であったのかもしれない。応募した視聴者の中から抽選で選らばれた人の街並みとその人の家の外観を映した五分程度の映像を、一週間ゴールデンタイムではない時間帯に放送するものであった。どうやら売りに出された私の家を買った住民がその番組の抽選に応募して選ばれていたらしい。

 新聞のテレビ番組を見ると、どうやらこの2010年の時代でも放映されている番組であることが分かった。恐らく制作費はあまりかからないのと放映時間がゴールデンタイムではないことがその理由なのであろう。父と母は買い物に出かけているところであった。テレビ番組の時間を見るとその番組がそろそろ放映される時間であった。私はテレビのスイッチをオンにして、チャンネルをその番組に合わせた。

 突然テレビに映し出された映像に私は驚かずにはいられなかった。私の住んでいる街の商店街である。やがて住宅街の風景が映し出され、次の映像で体が震えるのを覚えた。私が今住んでいる家の外観が映し出されていた。確か父がこの頃この番組に応募して抽選に選ばれたということを聞いたことがあったかもしれない。テレビの画面には私の住んでいる家の外観のアップされた映像が映し出されていた。私の身体がその映像に吸い寄せられていくのを感じた。あの時と同じ感覚である。意識が朦朧としていくのを感じた。

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