第31話
瞼が強烈な純白の光を浴びて微かに痙攣した。瞼を開こうとして、強烈な純白の光りに反応して、すぐに瞼に力を入れて閉じた。瞼の力を少しずつ抜いていきながら、純白の光の微かな眩しさを少しずつ受け入れていった。薄め状態を維持してしばらくの間、純白の光を受け入れて、光の眩しさに慣れていくようになった。瞼を大きく開くことができるほど純白の光に慣れてきた。
私の安アパートの部屋の小さな窓から、純白の光が溢れるように部屋の中に流れ込んできて、部屋全体を照らしていた。
部屋にあるテレビの画面には、『私の街の風景』の番組が放送されていた。私が17歳の頃まで住んでいた家の外観が、テレビの画面に映っていた。
多数の無症状の感染者が、複数回のPCR検査で陰性の結果が出たので、一度に多数の部屋が空くこととなり、フルタイムの作業がしばらく続くこととなった。
しばらくフルタイムの作業がなかったので、感染の可能性がゼロではない清掃作業に対して、恐怖感の入り混じった不安とストレスを感じずにはいられなかった。
時田にしても、しばらく続いた平日の休暇や、半日だけの仕事日が、しばらくないことにがっかりしていた様子であった。時田には勉強したいこと、研究したいことがたくさんあったようで、自由な時間が持てるということが何よりも嬉しいようであった。
「これだけ部屋が空くというのに、またすぐに埋まってしまうんだね」
その日の仕事が終わり、コンビニの窓際のカウンターに私と時田は座っていた。私たちはコンビニで買った同じような中身の弁当を食べていた。私が話し終えるか終えないかのうちに時田が話し始めた。
「それだけ無症状の感染者が多いということだな」
「PCR検査で陽性反応があったので、感染者ということになったんでしょう」
「症状が出た感染者が出た場合、接触者全員のPCR検査をすることになっているからね」
「感染しても無症状の人の割合ってそんなに多いの?」
「多いみたいね。だから、無症状の人は病院ではなくホテルの部屋で扱うということが出てきたんだろう」
「それでは、感染経路不明の場合は、無症状の感染者がいるのにどこにいるかわからないということなの? だからマスク、マスクってうるさいのか」
「そう、だから人がいるところではマスクをかけなくてはいけないのは、無症状の感染者は自分も他の人からも感染していることがわからないから、人にうつさないようにするためでしょう」
「無症状だから、検温してもわからないのか。PCR検査の他にどんな判別法があるの?」
「抗体検査と抗原検査があるけど、精度からいうとやはりPCR検査みたいだね」
「抗体検査と抗原検査はどういうものなの?どちらも少量の血液で検査できるみたい。抗体検査はウイルスに感染すると体内に抗体がでてくるので、その抗体の有無を調べるみたい。抗原検査は血液内にウイルス特有のたんぱく質の有無を調べるみたい」
「PCR検査はどういうものなの?」
以前、時田にPCRについて詳しく聞いたことがあるけど、ついまた聞いてしまった。
「綿棒のようなもので鼻の奥から検体をとるのだけれど、検体の中にある微量のDNAの断片を増幅させて調べる。新型コロナウイルスはRNAだから、DNAに変換してから増幅して調べていく」
「さすが時田だな。よく知っているね」
「本当はもっとよく説明できればいいのだけれど、自分があまりよく理解していないことがわかるよ」
「俺なんか時田に比べたらほとんど分かっていない部類に入るくらいなのかもしれない。でも複雑な検査だということはわかるよ」
「PCR検査のことに関することを調べれば調べるほど、精度を100パーセントに近づけることの難しさがわかるよ」
「感染者を瞬時に判別できるメガネがあったらいいね」
「横川はユニークな発想をするね。もしそのようなメガネがあったら今世界中を悩ませている多くの問題が解決すると思うよ」
「今、新しい日常というように今までの日常が、過去のものになってしまったわけでしょう。人が集まることができなくなってしまったんだから。無症状の感染者が多くいて、その人を通して感染してしまう。でも一部に重症者の感染者も出てくる。テレビで放映される重症感染者を見ていると悲惨だね。このウイルスは肺を冒して呼吸機能を麻痺させてしまうんだからね」
「無症状の感染ということがなければ、感染者を隔離して食い止めることができるのに、相当の割合で無症状の感染者がいて、感染経路不明もかなりいるというんだからね」
「無症状の感染者を判別できるメガネの開発って論理的に、可能なのかね?」
「通信制で受けているオンラインの授業のこと話したことあるよね。その大学で面白い講義をしている教授がいるということを。その教授はゲノムやウイルスについて詳しいんだけど。最近興味ある講義をしていたよ」
「今言ったメガネに関係したことも何かあるの?」
「そうそのことでひっかかることがあって、その講義のこと思い出したんだけど」
「何か面白そうだな。話してくれてもいい?」
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