第42話

 スマホの地図のアプリのおかげで、思ったよりも早く私の法定相続人の弁護士の法律事務所を見つけることができた。小さな事務所で、弁護士一人だけである。この弁護士の情報も、天才ハッカーが調べてくれた。人権問題の裁判で活躍している弁護士である。

 事務所は、私の法定相続人の弁護士と事務担当の彼の妻だけのこじんまりとした事務所であった。弁護士は私に会うなり、今まで何の連絡もしなかったことを謝った。今まで連絡できなかった理由について、時間をかけて説明してくれた。

 私の両親が、車ごと崖から転落して、事故死したように、画策したのは私の叔父叔母たちであるということを、弁護士が言った時、私はどう反応したらいいか分からず、しばらく頭の中が真っ白になってしまった。証拠らしいものがあるわけではないが、彼はかなり確信しているようだった。人権派の弁護士の長年の経験ゆえに備わった直感のようなものがあるからだろうか。

 人権派弁護士がまず最優先事項として考えたのは私の命を守ることだったようだ。私の両親も自分の息子の命に関係したこととなると特別に直感のようなものを感じたのかもしれない。

 人権派弁護士を必死になって探し出し、仕事を依頼するようになったのは、その直感のようなものが関係していたのかもしれないと思わないではいられない。

 人権派弁護士は、彼自身も、叔父叔母たちに会わないようにした。友人の弁護士にお願いして、しばらくの間彼に私の法定相続人になってもらった。彼は問題処理能力に関しては超一流ということで、私の命の防波堤にうってつけということであった。

 私が住み込みで、建築会社に就職できたのは、実は背後で人権派弁護士の取り計らいがあったかららしかった。私を私の家から出来るだけ離して、近づけないようにして、私の命を守ることを、第一に考えたようであった。私の住所を知っているのは、人権派弁護士だけであって、彼の友人の弁護士には知らせなかった。友人の弁護士は私の命の防波堤であった。

 人権派弁護士は、父所有の畑を現状復帰させるために、背後で動いた。まず、果樹園の果樹を取り除いて、勝手に家を建てた叔父の情報を、人権派弁護士の得意の手法を用いて流し、役所に届くようにした。役所はすぐに動いた。叔父一家はそこにはもう住むことはできなくなった。勝手に建てた家は強制撤去ということになり、その費用はすべて叔父一家にかかることとなった。

 このことに連動して、鯉がいた池を埋めて、そこに中古の家を持ってきて、住むようになった叔母夫婦もそこには住めなくなり、その家も撤去することとなった。その撤去費用は叔母夫婦にかかることとなった。

 このことと連動して、今までの中古の家を、鯉がいた池を埋めた場所に移動して、新築した叔母夫婦の情報も流し、役所に届くようにした。このことでも役所はすぐに動いた。

 駅近くの一等地に建っている、父所有のアパートの一室に、家賃なしで、長らく住んでいる叔母夫婦がいた。彼らの住んでいる部屋も含めた、アパートの他の善意ある住民に、そのアパートを買い取ってもらった。その情報も役所に届くように流した。

 叔父叔母夫婦たちは、近くに住めないどころか、同じ自治体内には住むことができなくなった。叔父叔母たちが、かなり遠く離れた地域に住むように、役所を通して働きかけた。移動するだけで1日がかりの場所である。

 役所が、このように動いたのは、私の両親が亡くなったのは、叔父叔母が関係している・・しかし、証拠がないので刑事事件にはできない・・・という情報を人権派弁護士の独自の方法で役所に流したからである。

 普通、役所はここまで動くことはありえないのに、動いたのは、人権派弁護士の巧妙な情報作戦の成果であった。

 最後に、どうしても気がかりで聞きたいことがあった。私が17歳の頃まで住んでいた家を、県道を跨いで斜向かいにあるコンビニの窓際のカウンターから、観察していた時、家の玄関まで来て、鍵を出して、玄関の扉を開けて家の中に入っていった20代に見える女性のことであった。人権派弁護士には全く見覚えのないことだということであった。

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