第10話

 強烈な太陽の光に反応して、瞼が微妙に痙攣するのを感じた。眩しい太陽の光に慣れるまでしばらくの間薄眼の状態でいた。少しずつ瞼を開けながら、やがて瞳全体で太陽の純白の光を受け入れた。

 建物のぼやけた像が網膜に飛び込んできた。ぼやけた像は少しずつその姿を現していき、やがてはっきりとした建物が眼前に現れた。

 私が住んでいた街にある図書館は、純白の太陽の光を浴びて、無数の色の光を四方八方に放っていた。図書館の入り口を通って行く時、十代の頃によく経験していた懐かしい香りを感じた。食べ物でもない、花でもない、香水でもない、何か懐かしい無数の香りが混ざったものを感じた。

 図書館の中に入ってから、随所に設置してある検索のためのパソコンのところへ行った。雑誌名と雑誌の発行日ははっきりと覚えていた。キーボードを使って、雑誌名と発行日を打ち込んだ。検索の結果その雑誌のリストが画面に出てきた時何とも言えない喜びの感情のようなものが湧き上がってきた。その結果をプリントアウトして、カンターへ持って行った。

 雑誌の目次を見ないで、ページをめくっていくうちに詐欺師の写真入りの

記事のページを開くことができた。図書館のコピー機で数枚コピーしてからカウンターに雑誌を戻した。


 日付は父があの詐欺師に小切手を渡した日の前日の日に、私は図書館の前にいた。私の意識が2070年の世界から2010年の世界に移った日がその日であった。

 父と母は出かけていて、家には誰もいなかった。私は居間のテーブルの上に雑誌の記事のコピーを置いていった。

 

 私は自分の部屋に入ってから、少し眠気を覚えたので、横になっていたらいつの間にか寝込んでしまった。母と父が帰ってきたらしく、母と父の話し声で目が覚めた。父が私を呼ぶ声が聞こえたので私は下へ降りていった。


「正志、この週刊誌の記事のコピーをここに置いたのはお前か?」

父は、週刊誌のコピーを私に見せながら言った。

「うん、警察の人が来て置いていったんだ。この人が関係している事件がこの近辺で多発しているみたいだよ」

「司法書士の事務所であった人なんだけど、明日家で契約書を交わすことになっていたんだ」

「あなた、よかったじゃない。契約を交わす前に分かって」

父が持っている週刊誌の記事を覗き込みながら母が言った。

「そうだな。今から電話してあの話はなかったことにしよう。まあ、理由はなんとでもなるから。どだい、俺には事業を始めるなんて無理なんだよ。どっち道騙されるのがオチだから。今まで質素な生活をしてきたし、たいしてお金のかかる生活じゃなかったから、こういう生活ならばば畑を売ったお金があれば、しばらくは大丈夫だろう。正志の教育にしてもある程度のことはやってやれるだろうから」

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