第39話

 翌日、仕事を終えてから、コンビニのカウンター席で、コンビニで買った弁当を食べた。コンビニを出た後、電車とバスを乗り継いで、天才ハッカーの家の最寄のバス停で降りた。

 森林に沿った道路を、20分ほど歩いたところで、天才ハッカーの住んでいる家が見えてきた。家の外観は日本のどこにでもあるような普通の造りである。ただ、この家が建っている近辺には、他の建物は全く見えなかった。完璧な一軒家である。家の数十メートル四方が敷地のようである。コンクリートの地面ではないのにほとんど雑草が見えない。どんな処理をしているのだろうか?

 屋根と庭には太陽電池のパネルがある。庭にはまた巨大なパラボラアンテナがある。どう見ても衛星放送のためのアンテナではないことはわかる。鉄塔がその脇に立っていて、アンテナが設置されている。これは無線機のアンテナだろうか。

 よく見ると家の周りに、防犯カメラのようなものが何台か見えた。

 離れたところから見たときは、普通の家に見えたが、玄関に近づいた時、玄関が斬新な作りであることがわかった。外から見ると分かりづらいが、扉にはカメラが忍ばせてあるようだった。

 誰もが見てすぐボタンとわかるようなものが見えた。時田がそのボタンを押すと、扉にはスピーカーのようなものが忍び込ませてあるのだろう。クリアーな音で天才ハッカーらしき人の声が聞こえてきた。

 音楽のような心地よい響きとともに、扉が開いた。時田が最初に中に入っていき、そのあと私が、そして岩下が続いて中に入っていった。

 中に入って驚いたことは、家の中が、外観とは全く違っていて、別世界のようであったことだ。玄関には下駄箱も靴を脱ぐところも、スリッパもなかった。どうやら家の中はどこも靴のままで過ごせる家のようだ。

 玄関を入ったところが大理石のような床で、光り輝いていた。靴のまま歩ける床なのに泥が付いていない。玄関の扉までの地面に、歩いているだけで完全に泥を拭き取ってしまう素材が敷かれているのだろか。自分たちの歩いた跡には泥による汚れは全く見えなかった。

 私より四、五歳年上に見える男性が、ラフな出で立ちで姿を現した。よく訓練されているのだろうか。彼の横から数センチくらい離れて一緒に歩いてくる犬に気がついた。大型犬でゴールデンレトリーバーであろう。茶色の毛が黄金のように輝いていた。

 私たちは、簡単に短く、お互いに自己紹介をした。私は彼のすぐそばにいる犬が気になって仕方がなかった。リードをつけていないのに、リードをつけている以上に飼い主のコントロール下にあるように見えるのである。

 新型コロナウイルスが騒がれる以前のことだが、散歩がてらアパートから公園まで行くことがあったが、公園まで犬を連れてくる親子に出会うことがよくあった。彼らが連れてくる犬が、まさにゴールデンレトリーバーであった。始めたあった時も私のところによってくる人なつこさに驚いた記憶がある。犬はもともと人間が好きな動物の印象があるが、このゴールデンレトリーバーは特にそのような性質があるような犬種に思えた。あのふさふさした毛に触れた時の感触が今でもはっきりと覚えている。

 私がその犬を見つめると、その犬はアイコンタクトしてきた。なんと可愛い犬だろうと、その瞬間思った。と、同時にその犬は私の方に近づいてきた。今にも撫でてと言わんばかりの距離まで近づいてきた。

 その犬のたてがみをな撫でた時、あの時の犬を撫でた時の感覚が蘇ってきたと同時に何かが違うと、一瞬のうちに感じた。ゴールデンレトリーバーはすごく毛が抜ける犬種である。以前公園で出会ったゴールデンレトッリーバーは撫でた後自分の手に犬の毛がびっしりとついていたのを覚えている。服にも毛がびっしりとついていた。

 しかしこの犬は撫でても全くと言っていいほど毛がつかなかった。それに犬は可愛いけれども、独特の匂いがした記憶がある。この犬は全くそのような匂いがしなかった。

「実はね、この犬はロボット犬なんだ」

天才ハッカーは、笑みを浮かべながら言った。

「言われなかったら、わからなかったよ。この動きとてもロボットと思えないよ。ゴールデンレトリーバーだし。ただ毛が抜けないのと匂いがしないので何故だろうと思ったけど。こんなロボットどこのメーカーが出しているの?高いんだろうな」

私はつい口が滑って値段のことまで聞くようなことを言ってしまった。

「値段はないよ。自分で作ったのだから」

「あるメーカーでいぬ型のロボットを販売していて、欲しいとは思ったけど。以前飼っていた犬が大型犬で、ゴールデンレトリーバーで、そういう犬種のロボットがあったらいいだろうなと思った。今この時代いろんな方面で技術が発達して、以前は不可能だと思うことがまんざらできそうな気がしてきた。以前飼っていたゴールデンレトリーバーの記録はたくさんあった。写真、ビデオ、日記形式の文章の記録。こういうことも引き金の一つになったのかもしれない。とにかく揃えるだけのものを揃えたよ。幸い亡くなった父親の遺産がかなりあったから、イメージに描いていたことができたと思う。記録とAIの技術によって、これが完成できたと思う。まあこの話は後で時間がある時にするとして、コンピューター室に案内するよ」

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