最終章 そして未来へ
第35競争 祈りと願い
お願い事が沢山あるから5円や10円じゃダメだよね
100円でも少ないし500円?
でも財布の中に500円玉入ってないよ
ここはお
お年玉も貰った事だし
1000円かなぁ
でも5000円ならもっとご利益ありそうだし
いっそ10000円??
でも、この10000円は……
「ちょっと、
「しかも、10000円札じゃん。ひらっち」
「
やっぱりそうだよね。
お金の多さでご利益決まる訳じゃないもんね
「ん、お年玉で願うとは」
な 何?! このエイルちゃんの『憐れよのう』みたいな小馬鹿にしたような微笑みは
「お お年玉だって、わたしのお金だよ」
「平地。分かったから早く賽銭して鐘を鳴らしてくれ」
寒いのか一ノ
「じゃ じゃあ入れるね」
さらばわたしの5000円!!
ひらひらと舞うお札に
皆が『おぉ』って言ってるけど
こっちは真剣なんだ!
鐘を鳴らして神社だから二礼二拍手一礼よね
最初の願い事は決めていた
テネブラエが1日でも早く良くなりますように
それから皆が健康で笑って過ごせますように
それから……
「彗!! 高額者が長く願えるとかないからね。後ろにも迷惑掛かるし早く」
え? もう皆は終わってるの??
最後にこれだけ
空が幸せでありますように!!
境内の出店でレモネードを皆で買い飲みながらベンチに座った
「うぅ。寒っ 終わった事だし、私は帰るぞ」
「もうミズちゃん帰っちゃうの? 」
「あぁ。受験する事に決めたから勉強しなくてはな」
一ノ瀬さんが受験?
隣の火山さんは笑ってるけど
「一ノ瀬さん、受験するってなにを」
「東大」
「「東大?? 」」
わたしと空が見事にハモった
「ミズキは東大の競馬サークルに入るんだって」
「あぁ。東大のサークルには雑誌に予想データを寄稿したり、有名予想家や評論家がOBで沢山いるからな」
「ちょっと待って、ミズちゃん」
「なんだ。
「そうだけど、競馬サークルの為に東大に行こうとしてるの? 」
火山さんが足をバタつかせながらケラケラ笑ってるけど
笑い事じゃないでしょ 競馬サークルの為に東大入る人なんているの?
「馬ゲノム研究を視野に入れる生命工学を学ぶ」
「え? 良く分かんないけど」
「ゼミに通う事も決めたからな」
「ん、卒業したら雇っても良い」
レモネードを小さいお手々で挟んでは、ちょぴちょぴと飲んでるエイルちゃん
鼻の頭が赤くなってるのが可愛い
「風間は、私の言ってる意味が分かってるみたいだな」
「エイル、分かってるの? 」
「ん、早い馬を作る研究」
「簡略化し過ぎだ! 私がバカみたいじゃないか。で、風間は卒業後どうすんのか決めてるのか? 」
レモネードを置くとエイルちゃんは自分の顔の前で横ピースを決めた
「ん、イギリスの大学に留学」
「えぇ!! エイル。そんな事言ってなかったじゃん。ってか、横ピース関係なくない?」
「ん、オーナーブリーダーの勉強する」
「エイルのおじい様って、牧場は持ってなかったよね? 」
「ん、おじい様はオーナーだけ」
「じゃあ、エイルは牧場も作るってこと? 」
逆の手で横ピースをするエイルちゃん
何の意味があるのかは誰にも分からないし2回目は誰も突っ込まない
「ん、みーがいれば早い馬生産して、走らせてお金持ち、幸せになれる」
「
「ん、資本主義」
以外とドライなエイルちゃん
あくまでも営利目的なのね
ってことは?
「わたしだけ持ち上がり? 」
「ひらっちは、そのまま大学行くんだ」
「まぁ。何も決めてないし」
皆はそれぞれ考えて
道をしっかり決めて歩こうとしてるのに
わたしはなんなんだろ?
何か恥ずかしい
「良いじゃん。大学行ってから、やりたい事が見つかるかもだし」
空は優しく言ってくれてるけど
1人だけ置いてかれてる気分がして焦っちゃうよ
大学行っても何も見付からなかったら?
1年後、3年後の自分は想像出来ても10年後の自分が全く想像出来ない……
「まっ。そう言う事だから、私は月1でしか『競馬愛好会』に顔は出さない」
「ん、同じく。日々おじい様にくっついて勉強する」
「エイルもか。アタシもダンスやボーカルレッスン入れたから、同じ感じかなぁ」
じゃあ『競馬愛好会』は月1での活動になっちゃうのかな……
みんな心の中では『寂しい』と思ってるだろうけど誰も口には出さない
口に出してしまえば自分で決めた覚悟が弱くなりそうだから
言ってしまうことで他の人の迷いを作りたくないから
言いたいけど言えない
「ボクは騎手学校行っちゃうから、会えなくなるの寂しいよ」
いつもの屈託ない笑顔で『寂しい』って言ってくれた火山さん
「でも、ミズキたちは会えない訳じゃない。辛かったり苦しかったり、助けが必要なら『競馬愛好会』に行けば良いよ」
「ニコちゃん。そうだよね! アタシたちは1人じゃないもん。誰かが苦しくなったら、連絡取り合って会おうよ」
「星宮が1番言って来そうだがな」
「そ そんな事ないよ! まずは彗に行ってからだもん。ね、彗」
笑いながら頷いたけど
上手く笑えた自信はない
喉を潤したくて飲んだレモネードはとても冷たく感じた
家に帰ってパソコンを立ち上げる
『闇の日曜日』『日本競馬の損失』『悪夢のクリスマス』『第3コーナーの悲劇』
テネブラエが故障した有馬記念の記事はTVニュースでも流れ、一般紙にも載るほどだった
騎乗していた畑騎手は、
今日も一ノ瀬さんが落馬や怪我には気を付けて。って火山さんに言ってたけど騎手も命懸けの仕事だと改めて気付かされた
テネブラエは奇跡的に命こそ救われたものの、競争能力喪失により引退、競走馬登録を抹消された
多くの競走馬の体重は400kg~500kgくらいだ
ただ立っているだけで、あの細い脚1本に100kg以上の負荷が掛かっている。
転倒による怪我で1本の脚が使えなくなると残りの3本の脚で全体重を支えないといけなくなる。
当たり前だけど、他の怪我をしていない脚にその分の負荷がかかる事になり、他の病気を発症する場合がある。
症状が悪化すれば最終的には衰弱死に追いやられるか、痛みによるショック死が起こってしまう。
だからこそ、治療が難しいと判断された段階で痛みに苦しみながら死ぬ前に安楽死という方法を取る事になる。
テネブラエも本当なら予後不良で、すぐに安楽死処分になってもおかしくなかった
最先端技術の手術による外科措置と、厩務員さんらの寝ずの看護により、奇跡としか言えない驚異的な生命力で、ボルトで骨折箇所を固定させ、自力で立ち上がれるようになった
記事に目を通すと自然に涙が出てくる
雄大な漆黒の馬体に艷やかな長い
見るのもを魅了する圧倒的な強さ
独特な前傾姿勢でのフォーム
競争成績は8戦7勝
無敗の3冠馬 漆黒の怪物
わたしが1番最初に好きになって競馬を教えてくれた偉大な競走馬
無事に
4年後の自分が大学3年生でどう将来を見据えてるかは分からない
分からないけれどテネブラエの子どもを必死に応援してる姿は想像がついた
お疲れ様テネブラエ
初めての競馬がテネブラエで良かったよ
本当にありがとう
ゆっくり休んで、子どものデビュー
楽しみに待ってるね
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