第17競争 ソルト&シュガー
調理室に初めて入ったけど、クッキーの型作りの種類多すぎじゃない?
牛乳パックで作ったんだろうけどオリジナルの型が多い。さすがは調理部
緑化委員の集まりだから仕方ないけど、エイルちゃんにもクッキー食べさせて上げたかったなぁ
「ミズキ見てみて、サラブレッドの形だよ。こっちはボクだって」
型を両手に持ち一ノ
「へぇ。良かったね」
「調理部の部長が作ってくれたんだ」
「それより、生地をラップで包んで冷蔵庫に入れてくれない」
「は〜い」
相手にしてもらえず
外からだとクールな人って見えてたけど
和の中に入っちゃうと分かりやすい人だよね
それで周りからはけっこう勘違いされてそうだけどね
「平地さん。ラップに巻くときって空気を抜いて包んだ方が良いんだよね? 」
「うん。乾燥しちゃわないように」
クッキーの生地をラップで包んでいく星宮さんから、生地を受け取り冷蔵庫に閉まっていく
6月に入って衣替えになったからか、ブラウスの上にスクールベストを着ている
エプロン姿も可愛いし、皆と同じ感じなのに薄着になったから、スタイルの良さが余計に目立っちゃってるよ
袖も腕まくりしてるから見えちゃってるけど
改めて見ると手首ほっそ!!
骨格が細いのかな?
前に抱きしめられた時は華奢だけど胸の感触とかあったしKissされた時は……
意識しないようにしてたのに!!
えーい消えろ 消えてしまえ!
出てくるなKissシーン
星宮さんが普通に接してくる以上は、わたしも普通にするんだ
「何で平地さん。顔の前で両手をバタバタさせてんの? 」
「あ 暑いなぁ。って」
「バターペースト状にしたり、薄力粉混ぜたり力いるもんね」
その力はわたしあるんですよ
あなたにされたKissを思い出しちゃって熱くなってるんですが
「ひらっち。って左利き? 」
相変わらず調理台に置いてある色々な型を摘まんでは眺めてる火山さん
「左利きってか両利きだけど」
「良いなぁ。両利きもだけど左利きって格好良いよね」
「でも不便だよ。今は左利き用の文房具とか色々あるけど小さい頃、親に右利きに治されたから」
生まれつき左利きだったわたしは、何故か親から箸や鉛筆などの持ち手を右にさせられた
最初は苦痛だったし嫌だったけど慣れれば何てことはないし、今では両利きになったのだから、結果的に良かったんだろう
「左利きと言えば、日曜にやる『安田記念』だが」
何で左利きが『安田記念』と繋がるのよ、一ノ瀬さんの事だから何かしら関係あるんだろうけど
「マイル王の『ドラゴンブレイブ』圧勝するだろうな」
「だろうね左回りは大得意だし」
「右回りでも強いが左回りは馬券外ないし圧倒的に左巧者だな」
左回り……あれ? そう言えば日本ダービーも左回りだったけど、皐月賞は右回りだった気がする。
福島競馬場行ったときも全レース右回りだったよね
「もしかして競馬場によって右回りか左回りってある? 」
「あるけど、平地知らなかったっけ? 」
首を縦に振る。そんなの気にして見てなかったもん
「中央競馬だと、東京、新潟、中京の3つが左回りで、それ以外は右回りだ」
「えっと。新潟って函館とか福島と一緒でローカルだから中央じゃないんじゃないの? 」
「中央競馬はJRAが管理してるってこと。新潟も函館も福島も中央競馬が管理してる」
はて? じゃあローカル競馬ってのは??
一ノ瀬さんはそのまま話し続ける
「中央競馬が管理する競馬場は全部で10場ある。そのうち東京、中山、京都、阪神。この4つが主にG1競争したり、主要レースをするから中央開催って呼ばれてて、他の競馬場は裏開催とかローカルって呼ばれる」
「でも平地さん。中京でもG1あるし、札幌でやる札幌記念とかは、出走してくるメンバーがG1級揃っちゃうから、スーパーG2って呼ばれたりレベルは高いんだよ」
もう分からないけど、とにかく東京、中山、京都、阪神がメインってことね。それ以外は中央競馬だけどローカル。って事で合ってるのかな?
「で、地方競馬ってのもあってだな、競馬場のある都道府県とか市町村が管理してる。有名な所だと大井、川崎、船橋、浦和。他にも帯広、盛岡、園田、姫路などで、確か15くらいあったかな」
「いっぱいあるんだね。全然しらなかったよ」
「昔はもっとあったらしいが採算合わずに消えてった競馬場も多い。今は交流レースも盛んで中央所属の馬が地方のレースに出たりとか。逆もあるがな」
「しかも地方競馬は中央競馬とかぶらないように、平日開催とかナイター開催が多いんだよ」
「レースかぶると馬券の売上も分散になるから? 」
「早く言えばそうだね。だから、土日は中央競馬やって、平日は地方競馬やれば、毎日が競馬だよ!! ナイターもやってるし、正月もやってるし365日!! 」
凄い笑顔で言う美少女女子高生の台詞じゃないんだけど
アイドルとか推しのライブや舞台に抽選で良い席が当たった。みたいな顔してるよ
盛り上がっちゃってるけどそろそろ
「生地取り出して良いんじゃない」
「生地? あっ あぁクッキーの生地ね」
慌てて冷蔵庫に向かう星宮さんだけど、一ノ瀬さんも火山さんも。「そう言えば」みたいな顔してるし、競馬が入るとダメになる人たちだ。
取り出したクッキーをクッキングシートに挟んで5ミリくらいの厚さにめん棒で作っていく
伸ばした生地に
「じゃあ。好きな型を使って、型抜きしよう」
わたしはどれにしようかな。って
「何でわたしの裾を掴むの星宮さん」
「『好きな方』を使って。言うから、じゃあ平地さんかなって」
ゴフッ わたし鼻血出してないよね? 破壊力に気付いて星宮さん! 首を傾げながら両手で裾を掴んで来ないで
冗談っぽく大袈裟にしてるから良いけど、シリアスモードで言われたら、どうして良いか分からないよ
「ひらっち。こっちのオーブンも予熱させといたんだけど、使って良いよね? 」
「え ええ。大丈夫だと思うけど、そんなにクッキー焼くの? 」
「うん。170度で15分くらい焼けば良いんだよね」
凄い上機嫌にオーブンに天板を入れてるけど火山さんは一体何をしようとしてるのかしら
「平地。私と星宮も並べたぞ」
ウサギとかパンダの動物シリーズにヒト型にクローバー
まぁ。上村先生に差し上げるには無難よね
「じゃ。こっちも焼きましょ」
焼きムラがないかチェックしながら休憩していると、バターの匂いがしてきた、タイマーもなったし
「もう良さそうだから取り出すね」
「凄いバターの良い匂い」
オーブンから取り出すと香ばしい匂いが辺りを包み込む
「クッキー出来た」
突然ドアが開いたかと思えば、待ってましたとばかりにエイルちゃん登場
「エイル。委員の仕事は終わったの? 」
「ん、終わった。良い匂いする」
鼻をヒクヒクさせながら歩いてくるエイルちゃん
「皆見てみて、こっちのクッキー」
天板からお皿にクッキーを移し替えてる火山さん
そっか。火山さんだけ別なオーブン使ってたんだっけ
お皿ごとこっちに持ってきてるけど
「じゃーん。ココア入れたココアクッキー」
お皿には黒っぽいハート型のクッキーが並んでいた
「へぇ〜。珍しくニコちゃんのデレが出たのかな」
「エヘヘ。ミズキはココア好きだからね。しかも特別にハート型だよハート型」
「べ 別に嬉しくない」
一ノ瀬さんも無理にツン発動しなくても
「ひー。貸して」
エイルちゃんがハート型のクッキーを1個だけ取ると、パカッと割ってしまった
「エイルっち。何するのさ」
「ん、生焼けじゃないか確かめる」
大事な事だけど今じゃないかなぁ。食べる専門のエイルちゃんの目付きが厳しいこと厳しいこと
「うぅ。せっかくハート型の作ったのに」
そりゃハート型割られたら何か嫌だよね。ちょっと火山さん可哀想かも
エイルちゃんに悪気は全く感じられないから余計に何て言ったら良いか
「ん、大丈夫。中までサクサク」
「風間。これ返してもらうぞ」
エイルちゃんが割ったハート型のクッキーをくっつけた状態で口に入れる一ノ瀬さん
「お 美味しい……じゃん」
声が小さいよ一ノ瀬さん!
俯かないでよ、自分の上履きをじーっと見てないでよ
ツンが下手過ぎよ⁉
なに、そのツンになりきれてないツンは??
嬉しいのか口元緩んでるじゃん
もうデレで良いよ
無理してツンなくて良いから
こっちが恥ずかしくなってくるよ
「えへへ。初めてにしては美味いでしょ」
屈託なく笑う火山さん
イケメン過ぎてカワイイ
カワイイがイケメンなのかな
星宮さんに肩をつつかれ耳打ちされる(ニコちゃん砂糖と塩間違ったぽい)
星宮さんが促す方を見てみると火山さんが使ってたテーブルには塩しか置いてなかった
それで一ノ瀬さん声が小さくなって俯いちゃってたのかな
「美味しい」って、今は珍しく笑いながら食べてるけど、塩クッキーじゃなくて塩が多いだけのクッキーよね
「ね、平地さん。アタシも1個だけ作ってたんだよね」
皆から見えない様に調理台の後ろにしゃがみ込む星宮さん
ちょいちょいとわたしにもしゃがみ込む様に。ってジェスチャーをして来た
隠れるように2人で身を寄せ合う。
ハート型のクッキーを口にしたかと思うと
「ほい」
そのまま口移しされた
思わず口を開いてしまったけど、一瞬の事で何が何だか分からない
「シュガー多めかも」
イタズラっ子の様にわたしの反応を試そうとする瞳に吸い込まれ
サクサクとした食感は
口の中で甘さへと変わっていく
「ホントだ甘いね」
「だね」
クスッと笑い声が漏れると
シィっと鼻に人差し指を持ってくる星宮さん
視線がからみあう
ニコッと笑い掛けてくると星宮さんは手だけを伸ばして、調理台に置いてあったペットボトルの水を口に含む
星宮さんの赤い唇が濡れて淫美に見えた
もう1度唇が触れ合う
マシュマロみたいな感触と口の中に流れ込んでくる水がクッキーの甘さを溶かし心にジワジワと染み入ってくる
パチパチっと何かが私の中で弾けた
触れ合っては離れ
離れては触れ合う
星宮さんの唇から滴る水が興奮させる
いけないことをしてるみたいで……
何度目のKissからか分からないけれど
二人の隙間をなくすようにピタッと抱きしめ合う
わたしはこうしたかったんだ
ホントははじめから知っていた
星宮 空に恋してたことを
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