第18競争 もう引き返せない

 まさかいもうとにファッションチェックしてもらう日が来ようとは


「良いじゃんない。可愛いと思うけど、夏なんだからミニスカでも良かったのに」

「やだよ。生足とか体型が出るようなのは嫌だ」

「えぇ。スイ姉スタイル良い方でしょ、もったいない」


 アンタほとんどわたしと身長も体重も変わらないよね? スリーサイズだってほぼ一緒だったし、遠回しに自分はスタイル良い。って言ってるみたいなもんよ。

 それに、わたしの隣を歩くのは星宮ほしみや そらだぞ

 読モもやってる星宮 空

 星宮さんがミニスカだったらどうすんのよ


「で、そんなお洒落して彼氏でも出来たの? 」

「出来てない。気分転換」

「妹としてはお洒落に目覚めた姉を持つのは嬉しいよ。今度、その服貸してね」

「すぐ、そればっか」


 嬉しいよ。って、わたしの服も着られるって都合良いだけじゃない。

 普段着なんて着心地優先でユルユルのトレーナーとか多かったから借りられないしね



 鏡の前にいるわたしは、ワイドな黒のオールインワンにピンクのインナーにキャップにスニーカー

 ネットで見付けたモデルさんが着てたものを、そっくり通販で注文したから、服装の組み合わせは悪くないのだろう


「わたしがピンクっておかしくない? 」

「オールインワンが黒だし、ピンクと黒は定番だから変じゃないよ。キャップとスニーカーで甘めってよりカジュアルになってるし」


 そうなのかなぁ 鏡に映る見慣れない自分

 星宮さんはどう思ってくれるのか? にしか意識が向かない


 ようやく夏休みになったのに明日から星宮さんは、仕事と祖父母の家に泊まりに行くって事で仙台離れちゃうんだよね

 それも10日間も会えなくなるのかぁ

 お盆とか長期休みの度に仕事をたくさん入れられる。って、言ってたもんね。だから早めに祖父母のの家に行くって事も

 2年になってから10日間も会わなかった事ないし 仕方ないけど

 やだなぁ……


「スイ姉、時間じゃない? 14時だよ」


 え? 待ち合わせって仙台駅に14時30だよね?? ギリじゃん!!


「行ってくるね」

「急いで急いで。デート頑張ってね」 

「デートじゃ……行ってくるね」

「さっき聞いたよ」


 大丈夫か?って感じで見送ってくれた舞の言葉で思っちゃったけど


 デートなのかな?

 調理室でのKissから2ヶ月くらい経つのに あれから1度もKissして来ないし

 わたし1人で盛り上がってる?

 キスフレ??

 星宮さんが何考えてるのか分からない  

 星宮さんからしたらKissに意味なんかないのかも

 複雑だ……星宮さんが男だったら遊ばれてるだけ。とか、付き合う。とか、いくらでも簡単に答えは出せるし見付かるのに

 モヤモヤは増すばかりだ





「ごめん。少し遅れちゃった」

「大丈夫、アタシも来たばっかだし……平地さんいつもと違う。可愛い」


 ズルいなぁ。さっきまでわたしはわたしなりに色々と考えてたのに、星宮さんの笑顔1つで、どうでも良くなっちゃったよ

 それに星宮さん。ハイウエストのミニスカで降臨してるよ 脚なっが!そして、ほっそ!!


 良かったわたしもミニスカじゃなくて


「あ ありがと。普段こういうの着ないからさ。変じゃないかな……って」

「良いよ。凄くいい、そそるねぇ。じゃ、上から脱いでこっか」


作った指フレームから覗き込むように見てくる星宮さん。

その仕草の星宮さんが何か逆にお洒落で絵になるんですが


「エロカメラマンがいる」

「アタシのパパ、フリーのカメラマンだからね」


 星宮さんの両親の話って全然聞いたことなかった

 フリーのカメラマンとか響きがもうお洒落


「後で話すけど。取りあえず、行こっか」


 黄色の印象的な袋を持った人たちとすれ違い、わたしたちは駅前ロクトに入った


 今日の目的は北海道旅行に行くための必要品を買うことだけだから、1時間ほどで買い物は終わり、そのままロクト内にある、星宮さんの知り合いのCafeに入る



 店員さんに案内された席に着くと、周りからはほとんど死角になってるのが分かる


「この席アタシ好きでさ。いてればいつも案内してくれるんだ」

「何か周りの雑音とか入りにくいし、邪魔されないかんじだもんね」     


 頼んだルイボスティーとアイスミルクティーはすぐにやってきて

 わたしたちは喉を潤した  



「パパはフリーカメラマンって言ったじゃんか」

「あ、うん」


 さっきの話の続きかな

 星宮さんはルイボスティーに挿したストローをクルクルといじる


「昔はグラビア専門でやってて、そん時に撮ったのが新人グラビアアイドルのママで、パパが一目惚れしちゃって撮影を口実に口説きまくったらしいよ。ママを妊娠させちゃって、仕事の契約の事とかでママの所属事務所やパパの上司の人たちに、裁判一歩手前まで行ったらしいし」

「え、何て言うか。1つの文章でおぎなえる情報量じゃないよ情報過多だよ」

「だね。で、もちろん干されたパパは独立したものの、仕事らしい仕事もなくてママとお腹の中のアタシを育てなきゃ行けないから」


 頑張って嫌な仕事もやったのね。

 とんでもないパパだけど偉いよ


「競馬で稼いだのよ」 

「競馬で? 」


 嘘でしょ? プロのギャンブラー?? 

 とんでもないパパだよ


「『競馬で』ってのは、語弊ごへいあるけどね。競馬のレースやサラブレッドの写真を撮って競馬雑誌に載せる。ってのが数少ない仕事だったんだ」

「そういうことね」

「だから家には現役の競争馬たちの、お父さんお母さん世代とか、おじいちゃんおばあちゃん世代の写真やパネルが沢山あるんだよね。それをパパが、どういう馬だったかって説明してくるんだよ」

「なるほどね。星宮さんが昔の馬に詳しいのもそういう理由だったんだ。良いお父さんだね」


「今じゃ人脈とかも増えて、あっちこっち行ったりで忙しくしてるけどさ。嫌なのがパパもママもアタシの前でも凄いイチャつくんだよ。ホント困っちゃうよね。親のイチャコラを見せられてる娘の気持ちも考えろ。ってね」

「でも、素敵だと思うよ。年数が経っても変わらずに出来るってのは」

「だね。そんな相手を見付けられたのは羨ましいかな」


 その続きの言葉を待ったけど、何も出て来なかった

 わたしと星宮さんの関係は、結局何になるんだろ?

 付き合うって意思表示もなければ、あれ以来何もない。


 わたしは何処かで期待してたんだ。もう1度Kissされる事を


「明日から平地さんに10日間も会えなくなるよぉ」


 わたしだって同じ気持ちだ


「会えなくてもRINEとかメッセ送ってくれたら返すよ。ってか、送って欲しいかな……でも、忙しかったら」

「送るよ。平地さんにちゃんと送る」

「前はくれなかった」

「まえ? 」 


 ヤバっ わたし何言ってんだろ


「星宮さんが風邪で休んだとき」

「……あぁ。あれは……そこまで風邪も酷くなかったから心配させたくないな。って」

「連絡ない方が心配した。だって、みんなにはRINEしてた」


 何かわたしダメだなぁ

 重い女みたいじゃない  


「妬いちゃった? 」

「そんなんじゃない。心配してたの」

「ありがと、次からは何かあったら1番に連絡する」

「べ 別に1番じゃなくても」

「もぅ。平地さん以外と面倒だね」


 呆れ顔で氷をストローで突っつく星宮さん


 うっ ですよね……自分でも思います 

 色々と聞きたい事はあるのに言い出せない

 多分、星宮さんも同じ気がする


 わたしたちって普通なのかな?


 普通ってなんだろ。哲学的な話なんかじゃなくて

 星宮さんとわたしの関係は友だちとして普通なのだろうか

 ダメだ脳に糖分が行ってないから、変な事ばっか考えちゃうんだ

 少し脳に糖分を与えよう


 わたしが手を伸ばすのと「味変しよ」と言いながらシュガーポットに手を伸ばす星宮さん

 安っぽい少女漫画みたいに手が触れ合った

 そのまま星宮さんに手を握られる

 少し汗ばんでるのはわたしも星宮さんも一緒だ


「わたしと考えること同じだね」

「だね」


 わたしが笑うと優しく微笑み返してくれた。

星宮さんの微笑みとそんな些細の『同じ』が何故かすごい嬉しかった


 Kissされた時と同じように視線が絡む

 死角になってる席で


 でも何も起こらない

 10日間も会えないのに


 あえて何もして来ない事で

 星宮さんは今ならまだ引き返せるよ。

 って言ってるように思えた。


 グラスから氷がパキッと割れる音が響く


 そんなの本当にズルい

 わたしはもう引き返せないから

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