第19競争 お願いごと

 ついに飛行機で新千歳空港までやって来ました

 上村先生の都合もあって1泊2日の旅行とはいえ

 みんな大好き北海道! 

 そして先入りしてるわたしが大好き星宮ほしみやさんとの再開!!


「イェイ。みんな」


 満面の笑みで手を振りながらこっちに向かってくる星宮さん。

 最後は小走りになっちゃってるけど、夏のせいでテンション上がってるじゃない

 ってか、わたしも小走りで駆け寄っちゃってるけど


平地ひらちさん元気だった? 早く会いたくてテンション上がっちゃった」

「元気だったよ。それ、わたしも」


 笑い合いながら両手を取り合う、こうやって触れる事で星宮さんを認識出来る。

 10日間良く我慢したなぁ。わたし


「星宮さん、毎日RINEくれたね」

「そうでもしないと、アタシの顔忘れちゃうかな。って」

「テレビでもたまに星宮さん観てたし大丈夫」

「そ。アタシは忘れそうだったから、良く見せて欲しいな」


『欲しいな』の『な』で、下から覗き込むように顔を近付かせて来る


 良い匂いするし麦わら帽子に白ワンピース姿での美少女の上目遣い


 なに 幾重にも重なるこの可愛いの重ね掛けは


 どうしよう? 

 わたしってこんなんだったっけ?

 星宮さんと出会ってから自分が自分じゃなくなってくみたい


「あなたたち。随分テンション高いわね。火山さんを見てみなさいよ」

 

 上村先生に言われ後ろの火山ひやまさんを見てみると

 一ノ瀬さんにおんぶされていた


「うぷっ 気持ちわるっ」 

「トイレはあっちよ。待ってるから行ってらしっしゃい」

「ミズ……キ。ボクに構わず先に行って、うぷっ」

「ニコ! 喋るな。もう少しだから我慢しよ、頑張れニコ。頑張れ〜」


 口をハンカチで抑える火山さんにダッシュで上村先生が指さした方に走り去ってく一ノ瀬さん 

 乗り物酔いする人は大変だね


「さてと。先生はレンタカー借りてくるわ。火山さんが落ち着いたら向かいましょ」


 歩いて行く上村先生に星宮さんと一緒に「お願いします」と言い終わると2人だけになった  


「エイルは前泊して、牧場にいるんだっけ? 」

「うん。なんだかんだエイルちゃんも全国を飛び回ってるよね」

「エイルの場合は外国も多いし、世界だね」

「大物だエイルちゃん」

「小さな巨人『エイル』」


 2人で小さく笑ってから会話が途切れる

 わたしの小指に星宮さんの小指が絡みついてくる


「くすぐったいよ」

「……だね」



 わたしは星宮さんの口癖である「だね」の言い方が好きだ

 受け止めてくれてるような言い方に甘えたくなってしまう

 甘え方なんて知らないけど


「上村先生戻ってきたね」


 わたしが言うと

 小指をギュッと握られ一気に心と小指に熱が高まった


「だね」 


 言うと同時にパッと星宮さんの指が離れていく。

 今度は一気に心も小指の温度も下がって行くのを感じた


 ずっと繋いでて欲しかった


「鍵、借りてきたけど、あの2人はまだなの? 」


 車のキーを見せるように手で持ちながら向かってくる上村先生


「あっ。戻ってきました」 


 駆け足でこっちに向かってくる2人


「遅くなってすみません」 

「先生は構わないけど、火山さん大丈夫? 」

「……はい」


 まだ具合悪いのか、いつもの元気さがない火山さん

 それに何となく涙の跡が見えた。

 吐いたら涙が出ることもあるけど「ごめん。もう大丈夫だから行こ」いつもの笑顔に戻る火山さん。

 星宮さんも何か感じたのか思わず2人で顔を見合わせてしまった





 ※※※※



「おぉ。見えてきた『ホウザンホースパーク』凄い広そうだねミズキ」

「あぁ。ここに『アイラブエイル』もいるのか」   


 一ノ瀬さんもウキウキしてるし、いつも以上に楽しんでる感じだよ……ね?

 火山さんも大丈夫そうかな


 そのまま車を停めて入り口に向かう

 

「ん、道中お疲れ様」

「エイル、久し振りじゃん」 


 エイルちゃん可愛いよぉ

 動きやすい格好にしたのかブカブカのオーバーオールと、首に巻いたタオルに何故かホッペに付いてる泥が小学生みたいだけど、アイラブエイルだよ


「ん、北海道は」

「どうした風間? 」

「北海道は? 」


 エイルちゃんは左手を腰に当て右手で拳を突き上げる

 これは『北海道はでっかいどう』をやりたいのでは? 昔に流行ってたのは知ってるけど

 みんなも感じ取ったのか、上村先生と一ノ瀬さんは『私もやるの?』って顔をしていた


「エイルっち、もう1回! 皆でやるからさ。お願い。ね、ミズキ、ひなちゃん先生」

「分かったわよ。やれば良いのよね、やれば」

「ん、仕方ない。ジャンプしながらやる」  


 上村先生も一ノ瀬さんも小さくため息を吐いてるけどやってくれるみたいだし


「北海道は? 」

「「「でっかいどう!! 」」」


 照り付ける太陽。吹きふける心地良い風

 北の大地で勢い良くジャンプしながら一斉に拳を突き上げるも 

 周りからクスクスと笑い声が聞こえる


「ちょっと、エイル! 何で1人だけスタスタ先に行ってんのよ!! 」


 え? エイルちゃんは言うだけ言って1人ホースパークの中へと入っていた


「ん、言ってみただけ」


 あぁ フリーダム過ぎる。 

 何処までも自由なのエイルちゃん。可愛いから許すけど

 可愛く産まれた事に感謝するのよ


「ひらっち。何か目が怖いよ」

「アハハ」


 笑ってごまかすけど、皆でブーブー言いながらホースパークに入る


「何処に向かってるのエイル? 」

「厩舎」


 エイルちゃんの後に付いていくと厩舎がいくつかあって中に入ると


「え? 凄い天春てんはる勝った『アドガイアジュピタ』に名ステイヤーの『トリプルカムイ』」

「星宮、こっちにはダートG1馬の『バロンナイト』に『サーミリオン』だぞ」

 「ヤバッ。地方中央合わせてG19勝した砂の王者じゃん!! 」

「あらぁ、ホント凄いわね。ここにいる馬たち全部合わせたら総獲得賞金どの位かしら」



 今日イチでテンション上がってる星宮さんと一ノ瀬さんに上村先生


「ボクはその馬に乗ってた騎手を思い浮かべちゃうけどね」


 みんなそれぞれ思い入れがあるんだ。わたしもそのうち出来てくるのかなぁ



 エイルちゃんが立ち止まり厩務員さん? と何か話し始めた


「ん、ここ。いつもは別な所にいるけど、今日だけ特別」


 馬房に向かうと顔をヒョコッと出してる可愛らしい馬が見えた 

 少しアンモニア臭がするけど思ってたよりは臭くないし、馬房に敷き詰めてある草の匂いの方が強く感じる

 



「『アイラブエイル』だぁ。相変わらず綺麗な栗毛だね」

「しかも『アイラブエイル』の場合は珍しい栃栗毛だからな」 

「頭に赤いリボンしてる可愛い」


 わたしも撫でようかなって手を伸ばすのと


「すぅ。気を付けて」


 エイルちゃんに言われ訳も分からず慌てて手を引っ込めた


「それは噛み癖あるって目印」


 エイルちゃん、早く言ってよ。

 頭に赤いリボンは噛み癖あって尻尾に赤いリボンは蹴り癖のある馬だとエイルちゃんから教えてもらった

 競走馬にも付いてるみたいだから、今度注意深く見てみよう


 エイルちゃんは慣れてるんだろうな

 アイラブエイルの方からエイルちゃんの頭をハナでツンツンしてる『アイラブエイル』

 たてがみと尻尾が金色なんだ

 エイルちゃんの髪も金髪だし

 凄い可愛い


「平地さん。栃栗毛とちくりげって珍しいから、色と名前の可愛さに実力もあって『アイラブエイル』大人気だったんだよ」

「『アイラブエイル』がフェアリーステークス勝った時に、日本に戻ってた風間も口取式くちどりしき参加してたが」

「凄いバズったよね。『アイラブエイル』の隣にいる、めちゃくちゃ可愛い女の子は誰だ。ってね」

「あぁ。風間は次の日にはフランスに戻ってたから知らないだろうけど」  


 そりゃ。こんな綺麗な馬の隣にあんな可愛い女の子がいたらバズるよね 

 当の本人は人参を『アイラブエイル』に上げてるけど、どっちも可愛いなぁ


「『アイラブエイル』無事に産んでね。シークワイエットとの子ども楽しみにしてるから」


 星宮さんの顔は本当に楽しみにしてるようで、わたしまで笑顔になってしまう

 皆でアイラブエイルの安産と健康を願った 



「1日があっという間だったね」

「だね」

「ボクたち、アイラブエイルに会ってから、ポニーショーを観て、ランチして、ホーストレッキングで乗馬を体験して、パークゴルフして。って、そりゃあっという間だよ」


 残念ながらエイルちゃんだけそのまま残り

 私たちは泊まるホテルに向かっていた


「火山さん。当たり前だけど乗馬上手かったわね」

「でしょ。トレッキングコースも自然に癒やされるし、馬上からから見る木漏れ日も綺麗だったよね」

「いいなぁ。乗馬するならワンピなんて来てこなかったのに」


 服装NGで乗馬が出来なかった星宮さん 

 ふくれ顔も可愛い



「明日は札幌行って観光してから、帰りましょ」

「じゃ、ミズキ。白い恋人パーク行こう」

「え? アタシも行きたい行きたい。白い恋人大好きだもん」 

「皆で行けば良いだろ。上村先生良いですか? 」

「良いわよ。17時の飛行機に乗れば良いから、他にも行けるわよ」

「土日だったら札幌競馬場でも良かったけど……後で考えとこっと」


 火山さんも本当に楽しそうだし、午前は体調がキツくて暗かっただけなのかな



 少しすると目的地のホテルに着いた。

 エントランスもロビーも黒を基調にした一目で分かる高級そうなホテル

 さすが65万を当てると、こんなホテルも予約出来ちゃうのね



 カウンターからカードキーを受け取る上村先生


「こっちが火山さんペア。で、こっちが星宮さんペア。どっちも5階ね」

「ひなちゃん先生は」

「先生は高層階に泊まる人しか入れないバーカウンターに行きたいから14階」

「良いなぁ。アタシもバーカウンターとか行ってみたいよぉ」

「そうね。星宮さん、早く大人になって一緒に飲みましょ。何かあったら連絡してね、明日は10時にここロビー前集合よ」



 わたしたちは全員で颯爽と高層階用エレベーターに乗り込む上村先生の後ろ姿を見送った  


「何か、ひなちゃん先生。凄いイイ女風にエレベーターに乗ってったね」

「まぁ。競馬がなければ実際に上村先生は綺麗な先生だろ」

「確かに。ボクたちも行こう」



 5階で降りて火山さんたちと別々な部屋に入る


 すごっ 何この壊したら破産しちゃいそうな美術品に飾り屏風は


「星宮さん。日本美って言うのか和の雰囲気凄いね」

「だね。こっち来てよ5階でも景色良いよ」


 隣に行こうとすると星宮さんのスマホが鳴った

 星宮さんはスマホを手に取ると


「ごめん。パパだ、ちょっと電話してくるね」


 部屋を出ていく星宮さん

 別にここで話しても良かったのに。ってか、カードキー持っていってないじゃん  

 案の定5分ほど立ってから

 わたしのスマホに電話が掛かってきた


 星宮さんを迎え入れようとドアを開けると   

 両手を組んでお願いのポーズをしてる星宮さん 


「平地さん。お願いあるんだけど」

「良いよ」 

「え? まだアタシ言ってないよ」

「星宮さんのお願いなら断らないもん」

「良いこと聞いちゃった。別なときに凄いお願いしちゃおう。っと」


 お父さんからの電話って事は、身内に何かあった。とかかな


 部屋で星宮さんのお願い事をちゃんと聞いてみた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る