第2.0章 恋をしたとして

第16競争 何でわたしにKissしたの?

 自分の唇を人差し指で軽く押し当てなぞらせてみた


 固いし薄っぺらいし全然違う。

 星宮さんの唇はもっと柔らかくてグミ……マシュマロ? かな。

 感触も脳もKissをした事は記憶してるのに

 星宮さんの顔がぼんやりとしか思い出せない

 何とか頑張って思い出してみるものの


「スイ姉、洗濯物持って来たよ。って、鏡の前で何してんの? 」

「だから、ノックしてから入って」


 いつもいつもまいに邪魔される

 Kissをされた後もトイレから舞が戻ってくると、何事もなかったかのように星宮さんは普通にしていた

 こっちの気持ちなんてお構いなくだ


「スイ姉も。舞ちゃんの姉なんだから、顔は良いのに服とか小物とか、もう少し可愛いの持ったら」

「アンタ学校で虐められてない? 大丈夫?? 」

「なんでそうなるのよ! これでもけっこう告白とか受けるんだから」


 姉びいきを察し引いても舞は可愛い部類だろう。

 その上、根っからの妹体質で甘え上手のコミュ力お化けだ

 中学校での舞を知ってるわけじゃないけど、人気があるのも分かる気はする


「アンタ、Kissしたことある? 」

「な 何、突然」

「女の子同士でKissしたことある? 」

「どうしたの? 小学校の低学年の頃とか良くやるでしょ」


 だよね。わたしも小さい頃はした事もされた事もあるけど


「でも、仲良くて可愛いな。って思ったら、雰囲気ってかノリでしたくなる事はあるんじゃない? チュ。って軽い感じの」


 雰囲気もノリも一緒でしょ。そんなもんなのかな、仲の良い女の子同士……あれが軽い感じではない事くらいわたしにも分かる

 星宮さんからしたら軽い感じなのかな?


「洗濯物ありがと。もう寝るから、おやすみ」

「おやすみ〜。また、空さん来るとき教えてね! 絶対に家でスタンバってるから」

「はいはい。次、下世話になってる。とか言ったら本気で怒るからね」


 キャハハと品のない笑いをしながら部屋を出ていく舞

 ホントにモテるのか疑わしい

 それよりナチュラルに『空さん』言ってるのに嫉妬してしまってる自分がいる


 ベッドに入ると余計に色々と考えてしまう

 星宮さんのKissはノリでやっちゃったのかな

 わたしに嫌な気持ちは全然ないけど、何か変な罪悪感が付きまとう。

 星宮さんが普通にしてる以上、聞きにくいし


『何でわたしにKissしたの? 』


 ダメだ……聞けるわけない。答えを知るのも何か怖いもん

 モヤモヤするよぉ

 あぁ こんな事で悩むなんて初めてだし

 もう 何でKissなんかしちゃうのよ

 いや、嬉しいよ。違うか、嬉しいとも何か言葉が違う 

 当てはまる言葉や感情なんて探しても見付からない 

 わたしもわたしで星宮さんに対する感情が分かってないからだ


 もう無理。寝よ……うん、寝るぞ…………って、星宮さんの面影ばかり探すのは何でなのよ

 今までは思い浮かべれば出てきてくれたのに!!



 ※※※※


「RINE入ってたけど、今日はそらっち休みなんだね? 」

「あっ。うん、何か風邪ひいたみたいだね」


 エイルちゃんと一緒に競馬愛好会の部屋に入るなり、火山さんに言われたけど、わたしにはRINEは来てなかった

 エイルちゃんから教えてもらったんだ。

 何で星宮さん、いつもみたいにRINEしてくれないんたろ


「星宮は『昨日雨に濡れたからかな』って言ってたから少し心配だな」


 一ノ瀬さんにもRINEしてるって事は私だけ来てないのか


「でも、そらっちから『小等部の頃に学校休んだらさ、そこまでの熱じゃなければ寝ながら教育番組みるじゃん。皆は授業受けてるのに自分は寝ながらテレビって背徳感がたまらない』って来てたから大丈夫だと思うよ」

「星宮は小等部の事を高等部になってもやってるのか。私の心配した分を返せ」

「まぁまぁ。大した事なさそうだから良かったじゃん」


 わたしにKissした事には背徳感ないのだろうか

 もしかしてKissなんてなかった?

 錯覚? 記憶違い?? 


「すぅ、元気ない。悩み事ある? 」


 普段はボーッとして我関せずなのに、やたら鋭すぎるよエイルちゃん。名探偵もびっくりだよ


「ごめん。何か授業で疲れちゃって」

「ひらっち。真面目だもんね、ノートとか凄い凝って書いてそうだし」

「ニコが取らなすぎ! いつも私に貸してもらえると思うなよ」


 ソファに座っていつも通りタブレットをイジる一ノ瀬さんの後ろに回り「えぇ。良いじゃん、ボクとミズキの関係だし」と一ノ瀬さんの首に腕をまわす火山さん  


 もしかしたらこの2人なら適切な答えが出てくるのでは……

 って、もうホッペにキスしてらっしゃる!


「ダル絡みしてくるな、ニコ」

「ダルくなかったら良い? 」


 首元に回された腕を解く一ノ瀬さん。火山さんはソファーの前に周ると向かい合う様に一ノ瀬さんの膝上に座る


「タブレットが見えん。さらにダル絡みされてるんだが」

「ボクの事は見えるでしょ」 


 この2人が文句を言いつつイチャついてるのは慣れたけど


「ひー。やらしい」

「そうかな。普通じゃない、ボクがやらしいなら、ミズキはどうなるのさ? 」


 火山さんは一ノ瀬さんの膝から降りるとそのまま隣に座りなおした。


「みーは。やましい」

「私の何処かだ何処が!? じゃあ、平地は?」

「ひーは。やさしい」

「ずるっ。ひらっちだけ良い感じじゃんか。そらっちは? 」

「くーは。やかましい」

「「間違いない」」


 一ノ瀬さんと火山さんがハモる。合わさる所は合わさる2人はホントに相性が良いんだと思う


「女の子同士でKissってする? 」


 キョトン顔にしちゃったよ、質問が唐突過ぎたかも!


「えっと。さっき火山さんが一ノ瀬さんのホッペにしてたじゃない? だから、女の子同士でもするのかな。って」


 顔を見合わせる一ノ瀬さんと火山さん


「ボクたちは幼馴染み。ってのもあると思うけど普通にするけどなぁ」

「ニコがKiss魔ってだけだろ」

「えぇ。ボクだけのせい? Kissしたくなっちゃうんだからミズキのせいだよ」

「どんな理屈だ! 」

「ホントは嬉しいくせに」

「みー。やましい」

「うぅ。うるさいうるさいうるさい」


 あ〜あ。いつものになっちゃったよ聞いた相手を間違えたな


「エイルちゃんと星宮さんも幼馴染みだよね? やっぱりするの? 」

「しない。子どもが出来るから」


 冗談だよね? 冗談で言ってるよね? 笑うところだよね??

 でも、エイルちゃんだし本当にそう思ってるって事も

 でも、一応は授業でもやるし、でもエイルちゃん授業はちゃんと聞いてなさそうだし、でも……


「すー。笑うとこ」

「あははは」


 乾いた笑いしか出なくてごめんねエイルちゃん。

 そのまぁるい瞳で見つめられても上手く笑えなかったよ許してね。


 結局は誰に聞いても分からないよね、、私が分かってないんだし

 友達の上って親友? 親友と恋人って、どっち上??


 わたしは星宮さんの何?

 星宮さんはわたしの何?


 1番近いのは『友達』だ……よね


「ね。来週の月曜日って、ひなちゃん先生の誕生日なんだよ」 


 そうなんだ。高校卒業して7.8年って、前に言ってたから26.27くらいかな?

 普通にしていれば清楚で綺麗な先生なのに、競馬が絡むと典型的な競馬狂のヤジ将軍だもんね

 アレだけギャップがある人もいないよ


「じゃあ。お世話になってるし、夏休みも北海道に一緒に行くから、お祝いしないとだね」

「そうなんだよね。で、ひらっちってクッキー作るの上手い? 」


 クッキー? お菓子作りにハマってた事もあるけど


「上手かは分からないけど作った事はあるよ」

「良かった。ニコちゃん先生、クッキー好きなんだけど、ボクもミズキもサッパリだからさ」

「料理は出来るぞ。お菓子作りをした事がないだけで」


 そっか。クッキーとかブラウニーとか家庭科の授業でもやるような気もするけどな

 それに上村先生の好きなクッキーも調べないといけないよね。ってエイルちゃんは……


「食べるの専門」


 うん、知ってた。そんなまぁるい目をキラキラさせなくてもね


「じゃあ、金曜日に調理室借りたい。ってのはボクが調理部部長に言っておくよ」

「調理部の部長はニコの事が大好きだからな、ニコの言う事なら何でも聞くだろ」

「あれ? ミズキ妬いてる?? もしかして妬いちゃってくれてる? 」

「や 妬いてない! 」


 一ノ瀬さんを知れば知るほど、本当はクールでも強くもなく、照れ屋で打たれ弱くて可愛い。って事が分かった。

 星宮さんの事をもっともっと知れば、答えに辿り着くのかな?

 わたしは答えが欲しいのかな?


「みーもひーも。焼くのはクッキー」

 

 いや。だから、そんな可愛いまぁるい目を、宝石より輝かしても


「「あはは」」


 3人とも乾いた笑いしか出て来ないから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る