うまじょ!!
ちーよー
第1章 競馬愛好会
第1競争 ゲート・イン
心地良い居場所なんて何処にもなかった
いるのかいないのか中途半端な存在
見上げる空はどんよりとくすんでいた
青空も景色もモノクロに見えた
重く息苦しく感じていた
ただ時間が過ぎ去っていくだけの高2の春
前触れもなく運命を変える
競馬なんてオジサンやギャンブル好きな人がやってるだけだと思っていた。
怒号やヤジが飛んでて汚い競馬場
自分とは一生関わることないはずだった
そんな競馬を通して
心から大切にしたい
※※※※
背中に少し温かい感触が伝わってくる 手を誰かに添えられたのなんていつぶりだろ?
神経を背中に集中してしまったのか、久しぶりの事で過敏になっているのか胸が変に高鳴る
「ここだよ。みんな先に来てるはずだから」
声音も雰囲気も明らかに友好的なんだけど、 離れの空き教室まで何でわたしは連れて来られたんだろ?
胸の高鳴りは落ち着きを取り戻し冷静になると今度は置かれた状況に困惑する
帰りたい 新学年早々ホント面倒臭い
バレないように面倒臭さと一緒に小さく息を吐いて扉に手を掛けた
この扉を開けたら怖い先輩が沢山いてお金取られるとか……さすがにないか
ローカルタレントやってる
「どうしたの? 扉の建付け悪い?? 」
わたしの顔を覗き込む様に顔を近付けてくる星宮さんのピアスが輝く。シルクの様な長い髪が肩からサラッと滑り落ちた。
少し茶色がかった蠱惑的な瞳に言葉通り吸い込まれる。
後からほんのりと花の甘さの様な香りが漂って来た
クラスメイトが良く使う安物のキツくて不快な甘いだけの匂いじゃない それは何となくわたしの好きな匂いだ
『さぁ……コーナー周って一気に後続も……詰めてきたが2歳……スリズィエはまだ……』
なに!? この音? ドアの向こうから漏れてくるテレビ音?にハッとして思わず扉に掛けた手を引っ込めた
「大丈夫、
わたしの名字は
『内で抜け出したカレンキュート。直線200を切って大外から一気にやってきたスリズィエ! これは凄い脚だ』
何これ!? 大画面に大音量のせいで視覚と聴覚がジャックされる
競馬!? 空き教室で競馬観てる?
いったいどういうこと??
『外から襲い掛かるスリズィエ。並んだ並んだ! 交わそうとするが2歳女王の意地カレンキュートも内で粘る』
「おぉ 昨日の
独り言の様に星宮さんは呟く。
桜花賞? 何かスポーツニュースでやってたような……
『2頭並んだ。内か外か? 外か内か? 桜の女王はどっちだ!! 2頭並んだままゴールイン! 最後は首の上げ下げ』
凄い。本当にどっちが勝ったのか分からない
ってか競馬なんてちゃんと見たこともないけど
「さっきRainした。新しい子連れてきたよ。これで5人になったし愛好会から部へ昇格出きるじゃん」
嬉しそうにニコニコしながら中へと入っていく星宮さんを見て少しホッとした
ここが危ない場所じゃないのは分かったし
「星宮。前も言ったけど愛好会すら認められてないのに部になるわけないだろ」
ソファーからこっちを振り返りぶっきらぼうに言い放つのは……一ノ瀬さん??
「って、あれ? 新しいメンバーって
「え?
訂正する間もなかったんだけど笑ってごまかす事にする。
一ノ瀬さんの隣でこっちを見てる子は
こんな大音量で良く寝れるなぁ それにあんな金髪に染めてる子なんて学校にいたかな?
「
顔の前で両手を合わせてから、テヘへと申し訳なさそうにペロッと舌を出した星宮さんに、あざとさを感じながらもキュンとしてしまった。
ローカルタレント恐るべし
『ただいま写真判定の結果待ちですが長いですね~』
テレビからは先ほどのゴールシーンが繰り返し流れていた
「さっきの校長の話しも長かったけど。じゃあ自己紹介しよう自己紹介」
一ノ瀬さんの隣で手をパンと鳴らして火山さんが立ち上がる
「2年2組の
火山さんってちゃんと観たことなかったけどボーイッシュな感じで、ブラウンショートの小顔美人だなぁ 小柄だから余計に顔が小さく見える
「同じく2年2組一ノ
早口で一気に喋られた上に聞き慣れない言葉が多すぎ。
こんなに喋る人だったの? 1年の時に同じクラスだったのに、あまり喋ってるの観たことないよ……人の事を言えないけど
「次はアタシ。平地さんと同じ2年1組の
う~ん。聞き覚えがあるようなないような、それに馬の目って区別出来るの?
あれ? 何でわたしここにいるんだっけ??
「エイルは寝てるから。後でで良いや。じゃ、平地さんの番ね」
どうしよう。わたし競馬なんて好きでもないし知らないんだけど
何でこうなった?
何で星宮さんに連れて来られたんだっけ??
「あの……わたし何で連れて来られたんでしょ? 」
「え? だって平地さん。競馬好きでしょ?? 」
さも当たり前の様に星宮さんは口にするけど……そんな話したっけ?
「どうしたの? 」
「え? あぁ……良く知らないから……」
「良く知らないから自己紹介してるんだよ。そんなに緊張しなくて大丈夫だって」
火山さんはわたしの緊張を解すかように優しく微笑んでくれた
イケメンだなぁ。先輩後輩にも王子呼ばれてるのも分かる
もう 正直に言おうかな。別にわたしが悪いわけじゃないよね
「じゃなくてね……えっと、その何と言うか」
シーンとしちゃってるけど何か空気悪くなってない? 私が悪いのこれ??
「本当は競馬に興味ない? 」
一ノ瀬さんが訝しげに聴いてくる。
えーい 思いっきり言っちゃえ
「え えっと! 最近興味持ち出したばかりだから、まだ分からない事だらけなんだ。あっ 2年1組
あれ?? 何で自分に嘘付いたんだ私!?
「そうなんだ。じゃ、一緒に『うまじょ』になろうね」
うまじょ? 星宮さんはそう言って、眩しいくらいの微笑みを浮かべながら両手でわたしの手を握ってきた
昔から距離感が近い子は苦手だったけど、不思議と嫌な気持ちがしないのは何でだろ
すぐに思わず手を引っ込めたのは汗ばんだ手を知られたくなかったからだ
こうしてわたしは『うまじょ』を目指して行くことになっていく
これが俗に言われる『ひょんな事』……なのかな
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