第11競争 個人馬主とクラブ馬主

「ラッタッタ〜♪ ラッタッタタ〜♪ 」


 上村先生が借りてきたレンタカーの車内。

 わたしの横でさっきからゴキゲン良く口ずさむ星宮さん

 今日の天気と一緒くらい晴れ晴れしちゃってるよ


「そらっち……テンション高いね」

「そりゃ。もう楽しみ過ぎて夜しか眠れかったもん」

「そっかぁ。ボクも楽しみ過ぎて朝も起きれません……」


 実際に45分も遅刻した火山ひやまさんは車内でもウトウトとしていた

 一ノいちのせさんが家まで行って無理矢理に着替えさて連れてきたらしいけど


「さぁ。今日はレンタカー代に高速代、先週の分と稼ぐに稼ぐわよ」


 そのままガッハッハと豪快に笑いそうな勢いで上村先生はアクセルを強く踏むと、助手席の一ノ瀬さんから「ヒャッ」と普段は出さないような声が聞こえた


「先生、法定速度は守って下さいよ。それにレンタカー代と高速代は割り勘しますって」

「守ってるじゃない。風間かざまさんと一ノ瀬さんが逆だったら軽でも良かったんだけど」


 エイルちゃんは子どもとしてカウント出来そうだもんね


「すみませんデカくて」

「うっ。アタシも反論出来ない」


 170センチはある一ノ瀬さんに

 167センチの星宮さん


 ビジュアルと相まってモデルでも通じそうだもんね。って、星宮さんはモデルもやってるか

 天は何物を与えるなんて不公平だわ


 車を走らせる事1時間ちょっと9時過ぎに福島競馬場に着いた


 ガラス張りで覆われた外観は競馬場ってより大型のショッピングモールに見え、駐車場に車を停めて降りると、意外と若い人やカップルらしき人の多さに驚いた



「土曜日で時間も時間なのに、結構人は多そうね」

「数少ない福島での重賞レースの日ですもん」

「それもそうね。じゃ、入りましょっか」


 後ろにいる一ノ瀬さんと火山さんに声を掛けるも火山さんは顔色が悪そうに見えた


「ボク、少し気持ち悪い……」

「ニコ。薬飲んで来なかったの? 車酔いでしょ」


 苦しそうに頷く火山さんを心配そうに見つめる一ノ瀬さん


「時間経てば治ると思うから少し休んでたい」

「もう少しで席に着くから、そしたら少し眠って休みな」 


 上村先生と星宮さんの後に続いて場内に入る


「ここがベビールーム。チャイルドコーナーで、こっちが競馬メモリアルコーナーね」


 歩きながら星宮さんが説明してくれる

 開放的でおもちゃが沢山置いてあるチャイルドコーナー。

 色々な展示品が置いてあるメモリアルコーナー。

 凄い綺麗でわたしの競馬場のイメージとは違かった。


 たんに馬券を買う所とレースする所しかないと思ってたし


「馬主席って5階だったかしら? 」

「いま、エイルに連絡してみますね」


 星宮さんはエイルちゃんと話し終わると

 

「『5階まで来て良い』って言ってます」

「じゃ、行きましょ」 


 5階まで上がるとロビーの椅子に座るフランス人形発見!

 黒と白のツートンカラーのドレスを着たエイルちゃん!

 ふわふわのスカートに、いつもツインテしてるけど、今日はハーフアップしてお団子にしてるのね


 可愛すぎる。フランス人形も負けを認めちゃうよ

 マリー・アントワネットがいるよ


「ん、お菓子持ってきた? 」


 あぁ 着いてそうそうお菓子の話なんて、本当にマリー・アントワネットの生まれ変わりなんじゃない


「持ってきてわよ、後で上げる。それよりエイルいつもだけど、今日はすっごく可愛いじゃん」

「ん、ナイス。馬主レディの身だしなみ」


 スカートの裾を掴みちょこんと頭を下げるエイルちゃん 

 ツムジまで可愛いなんて可愛いの天才だわ


「席はペアで3つ取ってある」

「じゃ。平地さん一緒に座ろ」

「エイルちゃんじゃなくて、私で良いの? 」 

「エイルは挨拶周りとか色々あるもんね」

「ん、後で『カザマエタンテル』の調教師せんせいに会ってくる」

「じゃあ。こうしましょ、先生と風間さん。平地ひらちさんと星宮さん。一ノ瀬さんと火山さん」


 上村先生の提案により席に着く

 わたしたちの前に一ノ瀬さんペアで右に上村先生ペア


 ペア席にはドリンクホルダーはもちろん、コンセントにモニター画面。紫色の高級感ある椅子。

 そして、なんと言っても



「凄い!凄いよ!! こっからレースが観られるなんて 」


 星宮さんがはしゃぐのも無理はない。ガラス張り大パノラマの向こうには、綺麗な芝と砂のコース場 

 あまりの大きさに感動してしまった。

 初めての競馬場でなかなか来られない馬主席なんて

 ついスマホのカメラを向けてしまう


「もう、第1レースのパドック始まってるじゃない! 先生は間近で見たいから2階に行ってくるわ。火山さんの事頼んだわよ」

「言われなくても頼まれますよ」



 先生は新聞と赤ペン。それに数枚のマークーシート?を手に持って2階へと降りていった


「さすがガチ勢、ここからでもパドック観られるのに」


 いつもの様にタブレットを取出しデスクに置く一ノ瀬さん。

 火山さんは……うん、車酔いで座るなり眠り姫、眠り王子になっていた。 

 せっかくの馬主席なのに周りに失礼じゃないかな? 見回してみると明らかにお金持ちそうな人もいれば、本当に馬主なの?って若い人もいる


「ここにいる人たちって、みんな馬主さん何だよね? 」

「あぁ。個人馬主もいれば一口馬主ひとくちうまぬしで来てる人もいるだろうがな」

「一口馬主? 」

「馬主と言っても、馬を個人で所有する場合は個人馬主。風間のお祖父様とか本当の金持ちしか出来ないしJRA(日本中央競馬会)の審査もあるし馬主会に入ってないといけない」


 個人で所有するのって普通なんじゃないの?


「あとは競争馬を法人クラブが所有して、その競争馬たちを一口○万円で会員を募る。ってのがクラブ馬主だ。この場合はクラブが定めた金額を払えば誰でもなれる。元は投資目的が多かったが今は自分も馬主になってみたい。って人が多いからな」

「じゃあ、あの若そうな人とかも」


「おそらく法人クラブが良くやってる会員向けの馬主席に抽選で当たった。とかだろ、今じゃ馬主の賞金獲得の上位4位までが法人クラブで独占してるからな」

「へぇ。法人クラブの方が主流なんだね。お金持ちじゃなくても競走馬って所有出来るんだ」


「一口馬主の場合、馬主会には入れないから本当は『馬主』とは呼べないんだ。出資者と言う方が妥当だろうな。例えば1億の馬を一口20万円で募集すると単純計算で1頭に500人の馬主が出来てしまい馬主だらけになってしまう」

「だから出資者なのね。何口買っても良いの? 」


「人気ある馬は注文が殺到して抽選になるから、買えるかは分からないし、稼いだ賞金も当たり前だが買ってる口数で配当額は変わってくる。大体はマイナスになるだけだぞ、一口20万する1億の馬が、仮に生涯獲得賞金5000万稼いだとすると5000万÷500人で10万だろ」

「一口20万払って、返ってきたのは10万だけってこと? 」


「あぁ。しかも5000万以上稼ぐ馬もほんの一握りだ。だから活躍しそうな馬には注文が殺到するから抽選漏れになる。逆に人気ない馬は注文も通りやすいが活躍しにくいから儲けも出ない」

「上手く出来てるなぁ」

「稀に安い馬が大活躍して、一口7.8万が900万円の配当になった例もあるが、お金より自分の馬。みたいな感覚が嬉しいんだろ。仔馬の親が応援してた競走馬だったから、その仔馬に出資したいとか」


 確かに自分の馬みたいな感覚なら可愛いだろうし、想い入れのある競走馬の子どもなら応援にも熱が入るだろうな


「それに平地さん。一口馬主でも出資してる馬がレースに勝ったら、そのレースのパネルとかオリジナルのレースDVDとか記念品とか色々貰えるみたいだよ」

「じゃあ。配当目当てってよりも、そっちの方が嬉しいのかもね」 

「ね、エイル。もしも『カザマエタンテル』勝っちゃったら口取り式はどうするの? 」

「ん、皆で行って良いってお祖父様に言われてる」


 小さくガッツポーズをする星宮さん。


「やったぁ。じゃあ事務所に許可貰わないと」

「星宮まだ早い。半日後の話だぞ」


 パネルにフリック入力しながら呆れる一ノ瀬さん

 口取り式では勝った馬と一緒に記念撮影をするらしい

 それで事務所に許可とか言ってたんだ


 初めての競馬場は初めて知ることが沢山あって 覚えるだけで大変です

 1ヶ月前までは競馬の事なんて全く知らなかったのに

 この広い競馬場の空気感、インドアだけど、わたし嫌いじゃないかも

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