第12競争 パドックと馬券
「はぁ〜。福島ってやっぱ難しいわ、もうずっとリフレッシュルームにいようかしら」
お昼ゴハンも終えて久し振りに馬主席へと戻ってきたかと思えば、世界を飲み込むかの様な大きいため息を吐いてから机に伏せる上村先生
「福島は荒れやすい競馬場で有名ですから。私のAI予想も微妙ですが、先生は今日の回収率どのくらいですか? 」
「ふん。そんなの教えないわよ」
「ひなちゃん先生。その言葉と態度で教えちゃってるよ。もう騎手で買えば」
車酔いが治った
「あながちニコの言ってる事も間違いじゃありませんよ。福島巧者って言われてる渡辺騎手は、7レース中4レースで馬券に絡んでますし」
「そうね。石田よりは使える騎手よね。って、あれ
上村先生が指差した方を見ると2階にあるパドックの真ん中に星宮さんとエイルちゃん
私たちを見上げながら手招きして呼んでるみたいに見える
「そうか。もう福島牝馬ステークスのパドック始まるのか」
「でも、普通パドックの外から見るよね? なんであの2人中にいるの? 」
取り敢えず私たちも訳の分からないままパドックに向かう事にした
「風間さんが馬主だからでしょ。あそこは競馬関係者と馬主さん位しか入れないのよ」
「そんな所にボクたちも入って良いのかな? 」
火山さんが言うように馬が周回してる外側には、お客さんが沢山いて馬の調子とか確認してるっぽいけど、周回より中にいる人たちは正装してるし、お上品に話してそうだし何か普通のお客さんとは違うんだけど
パドックの中へ行くには専用通路があり、迎えに来てくれたエイルちゃんに案内されるがまま付いていく
パドックに出ると壁に馬の名前や騎手の名前が入った応援幕が隙間なく貼られていた。
「おぉ。パドックの真ん中にいるよボクたち」
「ニコ。私たちやけに見られてないか? 」
「言われてみれば」
わたしも自意識過剰かな。とも思ったけど、やっぱり見られてるよね? 観客にいる人たち馬よりもわたしたち見てない?
「アタシたち可愛い女子高生が、こんなとこに集団でいたら目立つもん」
星宮さんに聞きたいけど『たち』にはわたしも含まれてるのかな? 含んで頂いて良いのかな??
「え?『たち』って、先生も含まれてるかしら。もう、高校なんて卒業してから7.8年は経つのにぃ。もぅやだ〜」
「ひなちゃん先生は。どう見ても保護者でしょ」
「火山さん帰り歩きね」
冷たく言い放つ上村先生の目が怖いのですが
「あっ。『カザマエタンテル』きたよ。可愛い」
ちょうどわたしたちの前を周回していく『カザマエタンテル』
鍛えられた馬体に繊細な脚、ツヤの良い毛並み。
サラブレッドは人間が作った芸術品とも言われてるみたいだけど、まさにその通りだと思った。
間近で見ると思ってたより大きいけど、耳があちこち動いて可愛いなぁ
「サラブレッドって近くで見ると綺麗でやっぱり大きいね」
「でしょ、綺麗だよね。でも『カザマエタンテル』はサラブレッドにしては小柄で410キロ位だよ。牡馬は480位で牝馬は470位が平均体重って言われてるから」
星宮さんが『カザマエタンテル』の頭を撫で撫ですると、プルッと首を少し振ってからスリスリと顔を星宮さんに擦る『カザマエタンテル』
他の馬をよく見てみると確かに一回り小柄かも。
まるでエイルちゃんみたいじゃない!
「ん、『今日は良いとこみせる』言ってる」
「エイルが言うんだから『カザマエタンテル』期待だね」
エイルちゃんにも顔をスリスリとしてから周回に戻る『カザマエタンテル』エイルちゃんなら本当に馬とも会話してそうだね
「良いもの見せてもらったし、後は戻って予想するだけよ」
「ひなちゃん先生、お金大丈夫? 」
「次で勝つから大丈夫よ」
「ボク。ひなちゃん先生の経済観念が心配だよ」
エイルちゃんだけを残して馬主席へ戻ると、早速競馬新聞を広げマークシート?を取り出す上村先生
「風間さんの馬も出るし。先生とあなた達の予想したのを合わせて買いましょう」
「倫理的に大丈夫何でしょうか?」
「法を犯してる訳じゃないし、真面目なのは一ノ瀬さんの良いところでもあるけれど、少し生きづらいわよ」
「それで良く苦労してます。では、せっかくなので。ちなみに予算はどの位までですか? 」
「今日はこれまでに6000円勝ってるわ。その6000円全部に決まってるじゃない」
本当に上村先生の経済観念が心配になる
「わーい。アタシ自信あるんだよね。先生はもう決まってるんですか? 」
「秘密よ」
手際良くマークシートにチェックを入れていく上村先生。何か色が違うマークシートが沢山あるんだけど
「このマークシートって、全部違うんですか? 」
「ボクも気になってたんだよね。何でこんなにあるの? 」
「
「うん。騎手には興味あるけど馬券は興味ないし」
「そっか」と言いながら一ノ瀬さんはマークシートを集め始めた
「マークシートの種類は色分けされてるんだが、全部で6種類ある」
集めたマークシートを1枚1枚見せてくれる一ノ瀬さん。
確かに赤や緑と色は分かれてあった
「緑が一般的なもので1点ずつ買うもの。青は『流し』で
後の2つの前でもう何を言ってるかわかりません
「覚えて慣れれば難しくはないが、喜本は緑のマークシートだな」
緑のマークシートを手に持つ一ノ瀬さん
「で、買い方も10種類ある」
え? そんなにあるの? マークシートも一杯あって、買い方も一杯あるの??
馬券買う人って頭良いの??
「まぁ。2種類は特殊だから基本の8種類からだな。まずは『
枠連は最大8つの枠に振り分けられた番号を当てるってことか
3枠5番とか8枠16番。の3枠とか
8枠の『枠』の部分よね
馬連は番号だから、3枠5番の『5番』8枠16番の『16番』の『番』の方ね
多分大丈夫だと思うけど、曖昧な笑顔とともに火山さんと一緒に頷いた
「『
分かったような分からないような。着順通りピンポイントで当てるか組合せかの違いなのかな。似てるようで違うし難しい
「で、この馬券の種類を最初に言った『1点ずつ』買うか『流し』で買うか『ボックス、フォーメーション』で買うか。だ」
ごめんなさい。やっぱり分かんないです
「私も最初は全然分からなかったけど、そのうち自然と覚えた」
「ミズちゃん。いつも色んな馬券の種類のオッズ見てるもんね」
「当たった場合に払い戻しが、いくらになるかは気にするだろ」
「でも馬券買えないのに当たったら、余計に悔しくない? 」
「後学の為だ」
競馬ってもっと簡単だと思ってたのに、買い方だけて何種類あるのよ!
「風間はいないから、ここにいる5人で、1人ずつ決めた馬の番号を3連単ボックスで買う事にしよう。5頭のボックス買いは60通りの組み合わせを買ってる事になる。で、100円ずつ掛ければ、ちょうど6000円だ」
「そうだけど、ミズちゃん。3連単なんて当てるの1番難しいじゃん」
「その代わり配当もデカい。今までの最高配当は2983万だ100円が2983万だぞ」
え? もう意味が分からない。100円が何でそんな大金になっちゃうの??
3連単でボックス……たしか3連単は1.2.3着を着順通りに当てるのよね
ボックスは組み合わせで買うって事だから
選んだA.B.C.D.Eの5頭のうち3頭が3着までに来れば当たり。って事だよね?
ちょっと待って! 上村先生の競馬新聞見たら福島牝馬ステークスは14頭出るみたいなんだけど
14頭を3着までに着順通りに当てるとなると何通りあるのよ!!
「ちなみに今回のレースは14頭立てだから、3連単で当てるとなると2184通りある、確率に直すと約0.046%だ」
一ノ瀬さんのタブレットには計算機アプリが映っていた
「ミズちゃん。そんなの当たる訳ないよ」
「今回は5頭のボックス買いだから60通り分を買ってる事になる。つまり60/2184となる。2.747%まで上がる」
「それでも難しいじゃんか」
「まぁ。ひなちゃん先生のお金だから良いんじゃない」
「それもそうだね」
「星宮さん。納得するの早いわよ。この6000円が0になるか大金になるかは、あなた達に掛かってるのよ」
思い思いに選んだ馬の番号をマークシートにチェックし、上村先生が購入した馬券を握り締め戻ってきた
エイルちゃんの『カザマエタンテル』も、もちろん組み込んだ3連単。不安しかないけど当たるのでしょうか
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