第33競争 クリスマスイブ②

 わたしの部屋に来れたのが嬉しかったのか珍しかったのか

 そらは本棚や置いてある小物などを物色し始めた



「空。もう17時になるよ」

「そろそろ出よっか。また、今度お呼ばれするよ」

「うん。空なら、いつでも良いよ」

すいが1人の時を狙ってね」



 最近の空はあからさまな言葉が多くなってきたと思う

 わたしの反応と言うか様子をうかがっている?


 空からキス以上の事を求められたら……拒否はしないと思う

 拒否はしないと思うけどやっぱり何処か怖い

 最後の最後で空を拒絶してしまったら……


 どこまでも中途半端な自分が嫌になる

 受け身で相手任せにしてる癖に

 責任も相手に押し付けようとしてる



「アタシ色欲魔じゃないから、無理強いとかはしないよ」



 わたしの表情を読み取ったのか

 空はどこか不機嫌そうに見えた


「分かってる。ただ、自分の事が少し嫌になっただけ」

「なんで? 彗はもっと自分に自信持った方が良いって」

「わたしに持てる程の何かがある訳じゃないよ」



 空ならビジュアルとかセンスの良さ。周りを巻き込んで明るくしてくれるカリスマ性

 一ノ瀬さんなら頭の良さやみんなをまとめる力

 分かりやすく周りから評価されやすい才能をわたしは持ってない


 火山さんや舞ほどの努力さやストイックさもない

 そのくせエイルちゃんみたいに周りの目を気にせず

 堂々生きていく事も出来ていない


 つくづく半端だなぁ



「『星宮 空』に好かれてるんだよ。それだけで自信になるじゃん」

「何で好かれたのか分からないから不安になる」


「う〜ん。それはアタシも分かんない」

「ほら、分かんないんじゃん」

「まぁまぁ。準備出来たし行くよ」

「トイレ行ってくる」



 トイレに行きたかったのは少しだけ気持ちの整理をしたかったからだ

 空と付き合うようになってから少しの事が大きく感じる、嬉しさも悲しさも。

 自分に自信が持てれば、もっと空と素敵に付き合えそうだけど、いつになるやら

 使ってないペーパーと雑念を水に流しトイレを出た






 仙台駅西口、クリスマスイブの土曜日

 分かっていたけど人混みはやっぱり苦手だ


「彗、気を付けなよ。ペデストリアンデッキって滑りやすいから」

「知ってる。転校してきて間もない頃に、雨の日だったけどすべって転んだから」  



 福島から仙台に越してきて最初に驚いたのが

 仙台駅を中心に色んな所に繋がるペデストリアンデッキだった


 高架部分から枝状に階段が伸びる造形美

 日本でも最大規模らしいペデストリアンデッキは

 案内版を見てもまず現在位置を探すのに苦労するくらいに広かった



「空、火山さんのプレゼントって決めてあるんだよね? 」

「あるよ。ってか、実はもう家に届いてる」

「もう買ってあったの? 私、お金払ってないよ」

「後で貰うから大丈夫」


 含み笑いする空だけど


「か 体で払う。とかはなしだよ」

「それも考えたんだけど」

「考えたの? 」

「2割冗談だって、通販で買ったほうが安かったから、先に買ってたんだよ」



 8割ってけっこう本気なんだね。って言葉は呑み込んだ



「何、買ったの? 」

「アスリートが良く付けてるやつ。電流が何とかで運動能力が向上する。みたいな」

「ネックレスみたいなのか、火山さんにピッタリかも。じゃ、私も空にプレゼントしたいから雑貨屋行こうよ」

「アタシも彗にプレゼントしたいから、今から行こうと思ってた」



 PARTOに着くも、どのお店に行けば良いか分からない

 そういえば私って空の欲しいものとか何も知らないや


「空は欲しいものある? わ わたし以外だよ」


 お約束な事を空は言いそうだから先に潰しておこう


「彗は、良くそんな恥ずかしい台詞言えるね」


 むっかぁ〜 わたしが言わなかったら絶対に『彗が欲しいかな。キャハ』みたいに言って、わたしの反応を楽しんでたくせに!



「特にないんだよねぇ。彗は欲しいものある? 」

「そ 空が欲しいかな」


 ここでわたしが、こう言うとは思わなかっただろうな

 逆に空の反応を楽しんでやる


「良いよ。裸にエプロン? 裸にリボン? 裸にサンタコス?? 彗のお好みは? 」

「ないないない。その選択肢にはないよ! 何で裸が枕詞まくらことばになってるの? 」


「彗もそんな顔を赤らめて言わないでよ。アタシの裸を想像したでしょ」

「してない! 」

「だから、1割冗談だって」


 もうほぼ本気じゃない

 それにわたしが少し大きい声を出しちゃったから

 同年代っぽいカップルとか女友だちでいる人とかに『星宮 空』だ。って言われちゃってるじゃん



(こういう時は良いよね)


 空が声をひそめる


(なにが?)

(女の子同士だと、気にせずにデート出来る)



 わたしは見られ慣れてないから少し嫌だけど

 男の子とのデートだったら空は、色々と面倒くさい事が多いんだろうな




 お互いに欲しいものが特になかった

 空がいつもしてる星型ピアスが可愛いから、それにしようかとも思ったけど、いまさら穴を開けるのを躊躇ためらった


 結局可愛くデフォルメされた馬の絵が書いてあるマグカップだけを買う事にした

 ペアで色違いだけど



「いつか、これが並んで置いてあると良いな」


 空は買ったばかりのマグカップを大事そうにバッグにしまう


「それってわたしと空が同棲してる。って事? 」

「もしくは通い妻? 」



 どっちが妻なのだろうか?

 通い妻。言う位だから行く方だよね?


「アタシ声優になるなら東京の事務所にするから彗が来てね」

「わたしが通い妻なのね」

「『通い』付けなくても良いよ」

「さらっとプロボーズされた」


 言いながら東京のお洒落なワンルームマンションで空と週末に過ごしてる自分をイメージしてしまった

 南向きの部屋で観葉植物とか買っちゃいそう



「彗。青山か表参道ら辺のお洒落なワンルームマンション想像したでしょ」

「え? 何で分かったの!?」

「クフフ。アタシも想像したから」


「観葉植物あった? 」

「あったあった。南向きの部屋の出窓に、ハート型のウンベラータが、優しい陽の光を気持ち良さそうに浴びてたよ」

「いや。わたしより具体的だし」


「で、裸にエプロン……彗が」

「今すぐ脳内から消して! 肖像権の侵害だよ‼ 」

「妄想にも法が介入してきたら、全員犯罪者だね。アタシは前科何億犯なんだろ」

「そんなに妄想してたの!? 」


 くだらないけれど大切な時間を過ごしつつ定禅寺通じょうぜんじどおりに向かう

 さらに人混みが増してきて、歩くのもスムーズに行かなくなってきた


 集中しないとすぐに人とぶつかりそうになるし、本当に空と離れてしまいそうになる


 わたしが上手く前に進めず困ってると少し先から手を引っ張られる



「女の子同士だから誰かに見られても平気だし」


 空と手を繋いだまま向かう


 ケヤキ並木が何処までも続く真ん中の遊歩道を歩く

 夜を照らすオレンジ色の無数の煌めき



「初めて来たけど凄いね! 」

「光がオレンジ色だから。心も明るくなるよ、何かクリスマスって感じ」

「分かんないようで分かる。クリスマスって感じだ」



 見上げながら歩くとケヤキ並木から降り注ぐ光が幻想的で

 自分が何処にいるのか感覚が分からなくなってくる


「彗が迷子にならないように」



 空と繋いだ手は恋人繋ぎに変わった

 空がギュッと握ってくれば

 わたしもギュッと握り返す

 それが1回だったり2回だったり

 ギュッとしてくる時間を速めたり遅めたり

 全部に空の真似をして返す

 言葉を交わさなくても通じ合ってると思えた 

 空の隣は居心地が良い

 



 ケヤキ並木を見続けていると違和感に気付いた

 最初は見間違いかな。って思ったけど


「ねぇ、空。あそこの光だけピンクじゃない? 」

「え!? 何処どこ?」

「あの、少し高い欅の真ん中らへん」



 ピンクに光ってる部分を指差した


「わっ! 本当だ。噂には聞いてたけど、アタシもピンクの光は初めて見た」

「噂? 」

「何か毎年、60万以上ある電球の中に1個だけピンク色の電球がある。って言われてて」


 60万分の1って凄い! 

 わたしたち、めちゃくちゃ運良いじゃん


「それを見付けたカップルは幸せなれる。って都市伝説あったけど本当にあったんだ」

「何か凄い得した気分。ラッキー」

「だね。明日のテレビで言おうかな」



 そっか、明日は日曜日ってことは空も午前は生放送あるのか

 お泊りはなしだね

 ホッとしたような残念なような


「やっぱ辞めよ」

「なんで? せっかく見付けたんだから言えば良いじゃん。盛り上がるよ」

「もったいないし、言ったら幸せも飛んでっちゃいそう」

「なにそれ」



 言葉とは裏腹に言わないで欲しいと思った

 2人だけの秘密にしたかったから



 定禅寺通りを過ぎるとケヤキ並木も終わり

 祭りの後のような寂しさと

 夜、本来の暗さが襲ってきた


「終わっちゃったね」

「だね。彗と来れて良かった」

「わたしもだよ。こんなに素敵なら去年も来てればよかった」



 多分、来てたとしても空とじゃなかったら こんなに素敵には思わないよね



「アタシと来年も来ようね」

「もちろん」



 名残り惜しかったけどそのまま帰る事になり

 家に着くと彗からRINEが入っていた


『本棚の上から2段目右から3番目』


 うん? これしか書かれてないけど

 言われた通りの本を手に取る

 何処にでも売ってるミステリーの文庫本だけど

 パラパラと捲ると『だ』の文字と

『壁時計の裏』って書いてあるメモがはさまっていた


 壁時計の裏……なんだろ?

 時計を外すとセロテープで紙が貼り付けてあった

『い』の文字と『テネブラエ』の下


 テネブラエを入れてるショーケースを持ち上げると

『す』の文字とベッドの下と書かれてるメモ


 なにこれ? めちゃくちゃ恥ずかしい事をしてない??

 空っぽくないよ



 ベッドの下を覗くと水色のお洒落な便箋があった


 便箋を開けると想像どおり『き』の文字に

 夏に空とウエディングドレスのモデルをした時の写真に

 彗星? 水色の綺麗な星型に尾っぽがついてるイヤリングが入っていた


 写真の裏には取った日付と『彗星の様に長い旅路をアタシと∞に』って書かれていた


 ぜんっぜん空っぽくないじゃん!

 めちゃくちゃ嬉しいけど!! 



 さっそくイヤリングを試着し

 わたしのキャラじゃないけど

 ∞の上に♡をでっかく書き足しておいた

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