第31競争 夢への通過点

 はぁ~ やっと書き終わったよ

 反省文1200文字 用紙3枚分



 競馬愛好会としては、大盛り上がりだし大成功だったけど

 放送委員や文化祭実行委員とか色んな人に迷惑掛けちゃったし仕方ないよね

 上村先生の口添えもあって反省文だけで済んだのが救いなのかな

 元は上村先生の過失から始まってるんだけど



「スイ姉。入っていい?」


 舞はやっと最初にノックする事を覚えたのか

 しっかりとドアの前でわたしの返答を待っている



「良いけど」


 入ってくるなり原稿用紙が目に入ったのか

 ウシシと不気味な笑みを浮かべ近付いてきた


「優秀なお姉さまが反省文ですか。いやぁ〜、これは内申書に響きますぞ」

「内申書って、エスカレーター式だよ。よほどの事がなければ大丈夫」



 舞は「どれどれ」と、言いながら

 わたしの反省文を読もうとするも


「……な事と捉えずに……受け止めます……」

「『些末さまつ』『真摯しんし』不出来な妹で、お姉ちゃん悲しいよ」

「漢字読めなくても、舞ちゃん推薦決まってるから良いもん」

「高校の授業、最初から付いて行けなくなっちゃうよ」



 わたしの事をからかいに来たにも関わらず、自分が責められる事に納得が行かないのか頬を膨らます舞



「今はスイ姉の事だよ! せっかく褒めて上げようと思ったのに」

「褒める? なにを?? 」

「友だちが文化祭で初めて競馬みたけど、迫力とか疾走感あって興奮したってさ。特に先頭でゴールした黒い馬とか」


「『テネブラエ』じゃん! さすが分かる子は分かるのね、あの孤独な天才、漆黒の怪物のイケメンさが」

「早口になってるから。それにスイ姉の事も美人だね。って言ってたよ」



 言われ慣れてないから反応に困るよ


「その子は高校もスイ姉と一緒になると思うから『競馬愛好会』に誘っちゃえば」

「興味持ってくれて凄い嬉しいけど、愛好会は他の子にも聞かないとだね」


「でも、ホント変わったよね。スイ姉は」

「自分じゃ分からないよ」

「確かに綺麗になった。ってか、大人っぽくなった」



 空と釣り合い取るのは無理だろうけど、空が恥ずかしくないように

 メイクとかファッションとか勉強したもんな……



「彼氏でも出来たな」

「出来……てない」



 心がズキンとした

 そうだよね。『彼氏』って聞くに決まってるよね

 女の子は男の子と付き合うのが当たり前って思っちゃうもんね


 舞に付き合ってるのは『女の子』だよ。って言ったら、どんな反応するんだろ?

 お母さんは? お父さんは??


 悪い事してるつもりもないのに

 ごめん。付き合ってるのは『女の子』なんだ。って、最初に謝ってしまいそうになる

 空は『女の子どうしでも大丈夫だよ』言ってくれたけど

 何でだろ? 後ろめたさがなくならない……



「スイ姉? どしたの?? 固まっちゃって」

「え? あ、うん。何でもない」


「文化祭でのシナリオとか擬人化してストーリーとか作ったのもスイ姉何でしょ? 」

「そうだけど、その話は辞めて。恥ずかしすぎて記憶から消したいよ」

「舞ちゃんは良かったと思うよ。面白かったし、イメージ浮かんだし」



 そう言ってくれた人は多かったし、わたしも書いてて楽しかったのは事実だ

 でも、みんなにあんな事思ってるのか。とか、凄い妄想してる。って思われるのは本当に恥ずかしい



「舞ちゃんも、スイ姉の学校にしようか少し迷ってた時もあったんだけどね」

「だってアンタは陸上があるでしょ」



 血の繋がった姉妹にも関わらず

 わたしは平均的な運動神経なのに、舞は小さい頃から足が異様に早かった

 同い年の男子でさえも舞より早い子は少なかった位だ



「実は陸上が嫌になった時があってさ。もう高校では辞めちゃおう。って思ったんだよね」

「そんな事言ってなかったじゃん」

「うん。まぁ、記録が全然伸びなくて周りからはサボってる。みたいに言われてさ」



 話好きな舞は部活や大会の事をすぐ、わたしに言ってくるのに

 今喋ってることは初めて聞く内容だった


「良くさ『努力は誰かが見てる』って言うけど、1番近くで見てるのは自分だよね。だから自分に嘘つきたくないから限界まで頑張ろう。って思うじゃん」 

「意外な所で妹のストイックさを知ってしまったわ」


「やっぱり舞は陸上が走ってるのが好きなんだ。って分かったからさ。周りに何て言われようと、自分が1番自分を知ってるし、雑音は気にしない事に決めたの」



 わたしが勝手に思ってる星宮さんとの関係みたい

 付き合ってる事に、周りがいい顔しなかったり反対したとしても

 自分の気持が大事なんだ

 外から言われてなくなる想いなら最初から前に進みたい。なんて言わないよね

 半端な覚悟しかなかったんだ、わたしは



「そしたら、また記録が伸び始めて、記録が伸びたらさらに陸上が楽しくて好きになったんだ」

「それで、わたしの高校に行くのは辞めたのね」

「中学では果たせなかった全国1位、高校では取っちゃいますから」



 笑顔で強いVサインをしてくる舞は、わたしなんかより強くて格好良いと思った

 高校に入れば舞は寮生活になる

 舞とこうして話せるのもあと半年もない


 わたしは高2にもなって目標も将来やりたい事も見付からなくて

 何となくエスカレータ式の大学に行くだけだ



「応援するよ舞! 全国1位!! 」

「ありがと。スイ姉とこうして毎日話せるのも、後半年もないね」


 やっぱり姉妹だ


「舞。久しぶりに一緒にお風呂入ろっか」

「えぇ。何か恥ずかしいんだけど」


「ほんの2.3 年前は、良く一緒に入ってたじゃない」

「そうだけど、スイ姉長風呂なんだもん」

「いっぱい話そう。お姉ちゃんも話したい事あるし」



 まだ舞には空と付き合ってる事は言わないつもりだ

 舞が高校で寮生活になったら打ち明けても良いと思った

 舞の反応がどうであれ、空と別れる気は全然ないけど

 もし少しでも、万が一にでも、舞に嫌がられたら

 毎日顔を会わすのが怖くて辛いから








「うぅ。寒いよぉ、すい


 いつもの帰り道

 空は風でほどけそうになるマフラーをガシッと掴んでは首をすくめた


「だって、もう12月も中旬だよ」

「早いなぁ。あとG1で楽しみなのは有馬記念かな」

「年末にやるから盛り上がるもんね」


「有馬記念やる時って、サラリーマンの人とかはボーナス時期とかぶるから、年間で1番有馬記念が馬券の売り上げ良いらしいよ」

「それ、絶対に上村先生にも当てはまるよね」

「だね」

 


 空と笑い合ってると一ノ瀬さんから電話が 掛かってきた



「一ノ瀬さんからだ」

「あっ。アタシのスマホにも、さっき掛かってきてたわ。気付かなかった」

「空が出なかったから、わたしに来たのかな? とりあえず出るね」



 スマホを通話に切り替える



「平地! そこに星宮もいるか!? 」


 え? 今までにない位に一ノ瀬さん興奮ぎみなんだけど


「え? うん。一緒だけど」

『やったぞ! 受かった!! 』

「なに? 何が受かったって? 」

『ニコだよ!! 夢への通過点。騎手試験に受かったんだ! 』


 あまりの出来事に一瞬だけ意味が分からなかったけど


「ええ! 凄い。凄いよ!! 火山さんはいないの? 」

「家族に伝えに言ってる」


 ってことは、自分の家族よりも1番最初に一ノ瀬さんに伝えたんだ


 隣で空が(なに? 何があったの??)と、せがむ様にわたしの袖を引っ張る


「火山さん。受かったんだって騎手試験! 」

「エエエェ 凄い! 合格率5%もないのに、ホント凄いよニコちゃん」


 ヤバっ。空にかまってたら一ノ瀬さん無視してた



「一ノ瀬さん。皆でお祝いしようね」

『あぁ。これで5人で過ごせるのもわずかだな……盛大に祝おう』


 一ノ瀬さんの声は寂しそうな声音がしたけど、すぐにいつも通りに戻った


「あっ。ちょっと、空」


 わたしからスマホを奪うと空は嬉しそうに話し始める


「おめでとう! ミズちゃん。え? ニコちゃんもだけど、最高の景色を見せてもらうんでしょ」



 わたし抜きで盛り上がってるのが何か悔しい

 人のスマホを勝手に奪っといて!


「有馬記念の日ってクリスマスだし、そこで祝おうよ! 」


 クリスマスかぁ。有馬記念はテネブラエが出るから凄い楽しみだし、皆でお祝いするのも賛成だけど

 空と2人きりのクリスマスもしてみたかったなぁ


 一ノ瀬さんとの通話が終わると空は小悪魔そのもの、蠱惑的こわくてきな笑顔と一緒にスマホを返してくる


「イブは一緒に過ごして、そのままクリスマスはニコちゃんのお祝いね」


 わたしの返事を聞こうともせずに決めてしまう空


 わたしはもちろん力強く頷いた

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