第32競争 クリスマスイブ
東北地方では比較的雪が少ない仙台でも
朝からサラサラとした雪が舞っていた
どうりで寒いわけだよね
ストーブを付けてから窓を少し開け手を伸ばしてみる
雪は引き寄せられる様に手のひらに落ちると
すぐに溶けてしまった
良かった。これくらいなら積もらないかな
窓を締め部屋に飾ってあるカレンダーに目をやる
空色で書いた星マークが輝いて見えた
今日まで呆れるほどに何回もみた数字だ
12月24日
普通の青色ではなく『空色』にこだわったのは好きな人の名前が付いてるから
星マークにしたのは好きな人の名字が『星宮』だから
思ったより自分が乙女な事に恥ずかしさを覚えるけれど、イブに会える特別さに気付けばニンマリとしてしまう
昼過ぎには来るって行ってたし
まずは部屋を片付けてだね
空とのデートは夕方までわたしの部屋で過ごし、夕方に街中まで出て、騎手試験に受かった火山さんのお祝い物を買って
仙台の冬の風物詩『光のページェント』を観ることになっていた
遅めの朝食を取ろうとリビングに向かう。
ちょうど
「スイ姉おはよ、舞ちゃん。19時までには帰ってくるよ」
「おはよ。わたしだって、今日はいつ帰ってくるか分からないよ」
「……ほほぅ、イブにお泊りとはやりますなぁ」
「だから、それも分からないって」
ダンマリとする舞は
わたしから目をそらさずに
不敵な笑みを浮かべたまま玄関へと向かって行く
「痛っ!! 」
「ほら、前見て歩かないからでしょ」
リビングのドアに見事にぶつかる舞だけど
最後までわたしに対して不敵な笑みを向けてきた
なんなのよ。言いたい事あったら言いなさいよ
何かいけない事してるみたいじゃない
※※※※
ピンポーン
インターホンが鳴り画面には空の姿が映し出されている
そのままエントランスのドアを開ける
今が15時だから17時前に家を出れば良いのかな
玄関のチャイムが聞こえ空を迎えに行く
「いらっしゃい」
「お邪魔します。寒すぎて下のコンビニで買っちゃった」
片手でブーツを脱ぎながらコンビニ袋を渡してきた
「温か〜い。肉まん? 」
「そ、
「気にしはしてないけど、ありがと」
肉まんの温かさが心地良いのと
空に会えた嬉しさで
コンビニ袋を宝物みたく大事に両手で抱えた
スリッパに空は履き替えると
いつもの含み笑いをしてくる
「手袋してても、これだもん」
「冷たっ」
「彗のホッペあったか。癒やされる〜」
コンビニ袋を持ってるからガード出来ないの知ってて
空は冷たくなった両手でわたしの両頬を挟んでくる
自然とどちらからともなく
見つめ合い
目を閉じて唇を重ねる
一瞬か数秒か
唇が離れる気配を感じて目を開けた
「空の唇も冷たいじゃん」
「だね。だから、もう1回」
何回でもして上げたいけど
いつもイジワルされてるから
たまにはイジワルしたい
「ダメだよ」
空の反応を楽しもうとしてたのに
「彗のダメは、オネダリ。でしょ」
悪戯に笑い掛けてくる
両頬からなぞるように優しく移動した空の両手で両耳を塞がれた
もう1度唇を重ねるとキスの音と鼓動だけがダイレクトに脳と心を揺さぶって来る
空がわざと音を立てるキスをして来るから余計に内側から響く
わたしの熱を吸い取るような空のキス
「これで彗と同じ体温になった」
唇を離したかと思うと優しく抱き締められる
「玄関でこうしてるより部屋に来たほうが温かいよ」
「だね。彗の部屋に行こ」
部屋に招き入れると空はベッドに近付いていく
ど どうしよう……『おいで』って言われたら、わたしはどうすれば良いの? 寝てれば良いのかしら??
でも、先にシャワーって浴びるよね?
あれ?? こういう時って2人で浴びるのかな?
どうしよう、浴室は掃除してないよ! じゃなかった。明るい所で己の全裸なぞ見せられるか!!
ヤバイよ。どうしたら良いの……
って、わたしのベッドの下を覗き込んでるけど
「空、何してるの? 」
「ベッドの下ってさ」
男の子ならエッチなものとか隠してるから、わたしのBL本があると思ってるのかな?
「良く殺人犯がいたりするじゃん」
「いや、いないよ! 映画とかドラマの中だけだよ。勝手にわたしの部屋をサスペンス劇場にしないで」
「クリスマスに起こった
「もう、起こってるじゃない! 犯人は誰よ!? 」
「犯人はボッチのクリスマスに怒ったサン・ゲキさん」
「誰それ。何処の国の方かも分からないよ」
あんな情熱的なキスしといてベッドに向かうから
押し倒されたらどうすれば良いんだろ? とか、無駄に考えちゃったじゃない!!
サン・ゲキさん。とか、ホントどうでも良いよ
「彗。肉まん冷めちゃうよ」
「そうだね! 」
わたしの想いは覚めないだろうけど何かムカつくなぁ
空といると自分のペースがいつも狂わせられる
「ダービー以来だから半年ぶりに来たけど、馬の本とかグッズ凄い増えたね」
「でしょ。コツコツ気になったの集めてたからね」
競馬愛好会に入る前は定期入れに『ナツクララ』のプロマイドを入れていたくらいだけど
今じゃ血統本やら名馬列伝やら競馬の本がBLの次に多くなったくらいだし、競走馬のぬいぐるみも沢山並べている
お気に入りはなんて言っても
ダービー限定品で抽選で当てた『テネブラエ』だけとね
このテネブラエだけはショーケースに入れて飾っちゃってるし
「何か、凄い嬉しいよ。彗がここまで競馬を好きになってくれて」
「まだまだ、皆には負けるけどね」
「そんな事ないよ。『好き』って数字で表したり簡単に言葉で表せないけど、この競馬に囲まれた部屋を見れば分かるよ」
「いつの間にか、こんなに増えてたけどね」
「最近はブログも書いてるんでしょ? 」
「うん。競馬に関する思った事とか、ホント簡単な内容だけど」
文化祭が終わってから、わたしは競馬に関するブログを書き始めた
それはわたしのシナリオや擬人化した話を面白いって言ってくれた事も関係あるけど
わたしみたいに全く競馬に興味なかった人でも、興味を持つ何かしらのキッカケになってくれたら嬉しいから
今は女性の競馬ファンも増えたけど、知らないだけで競馬を知ったら好きになってくれる人は絶対に沢山いると思う
「彗はさ、進路調査何て書いたの? 」
「え? 普通に内部の持ち上がりで大学だけど……空は違うの? 」
「う〜ん、悩んでる。彗には最初に言うようにするけど」
「悩んでるって、タレント1本で行くこと? 」
もしかしたら大学行かないかも。とは思ってたけど
実際に一緒じゃなくなると嫌だ
「アタシさ。声優になりたい」
「はい? 声優って、あのアニメとかの?? 」
「アニメに限らず吹き替えとかあるけど、まぁ、そうだねアニメかな」
「かな。って、曖昧な。どうして声優なの? 」
空が珍しく恥ずかしそうに言いあぐねている
「わたしは何であれ応援するし、声優良いと思うよ」
背中を押された事で話しやすくなったのか「笑わないでよ」と釘を刺される
「前に彗のシナリオとか競馬実況したじゃん」
「文化祭の時だよね? 」
「うん。あのときアンケートで、けっこう声褒められたし、良かった。って言ってくれる人が多くて」
空の言ってるとおりでアンケート結果は、火山さんの王子やエイルちゃんのゴスロリ姫よりも
空の実況やシナリオを褒めてくれる人の方が多かった
「空は声だけじゃなく、タレントとか読モとかでも褒められてるでしょ」
「それはそれで凄い嬉しいけど、声だけで大勢の心を揺さぶれる。って凄いなって」
別に声じゃなくても女優さんなら演技。アスリートならスポーツ。
色々あるとは思うけど、空には『声』で感動してもらえたのが新鮮だったのかもしれない
「じゃあ。大学に行かずに声優になるの? 」
「もちろんそんな簡単じゃないと思うよ。でも、挑戦してみたい。ニコちゃんより本気なのか? 覚悟してるのか? 言われたら正直、『ハイ』って言える自信はないけど」
「他の声優さんが、どの位本気でどんな覚悟を持ってるか分からないけど、空なら成功するよ」
空の背中を押してあげたい気持ちと一緒に大学に行ってほしい気持ちがせめぎ合っている
でも競馬学校の寮に入って、ほとんど3年間は会えない一ノ瀬さんと火山さんに比べたら
私と空は会おうと思えば会える訳だし
空のやりたい事は応援して上げたい
「でも、彗とキャンパスライフしたい気持ちもあるんだよなぁ」
「それはわたしもだけど。わたしが足枷になって、夢とか目標を諦めたり止めたら怒るよ」
「怒ったらクリスマスの惨劇になっちゃう。
もし、離れたとしたら、久し振りに再開した時さ、キスの嵐になっちゃうね」
「まぁ……受け止めましょう」
「受け止めたいくせに」
みんなが悩んで真剣に考えてる将来のこと
高校2年の冬……わたしも進路をしっかり決めないと
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