第36競争 あと1ヶ月
月1に集まる事になった競馬愛好会
何でもない日に部屋に向かうのは久し振りではあったけど
誰かが来てるなんて思ってなかった
「
何かを書いていたのかノートを慌てて閉じるように見えた
「ひらっちじゃん。ボクはほぼ毎日来てたからね」
「え? そうなの」
「ここに来られるのも、あと1ヶ月くらいだし」
火山さんがいなくなる事に実感がまだわかないや
わたしのイメージでは火山さんは皆のバランスを上手く調整してくれる人だ
場の空気が悪くならない様に常に気を配ってくれて
明るい言葉を掛けてくれる
「火山さんがいなくなると、一気に寂しくなっちゃうね」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ。ひらっちこそ『競馬愛好会』に入ってくれてありがと」
「この1年は凄い楽しかったし、充実してたもん。何年経っても忘れないよ」
「ボクもだよ。皆にはミズキとの事で迷惑掛けちゃったし」
「びっくりしちゃったけど、全然迷惑じゃないよ」
恥ずかしそうに笑う火山さんは突然頭を下げてきた
「ミズキの事、宜しく頼むね」
「そんな。一生の別れじゃないんだし」
「ミズキは少し誤解されやすいから」
確かに普段はぶっきらぼうだし、周りと壁を作るタイプだと思う。
わたしと似てるかな。って思ってたし
火山さんは本当に一ノ瀬さんが大切なんだろうな
「ボクって小さい頃から男勝りって言うか喧嘩っ早いとこあってさ」
「何となく聞いたことはあるよ」
「そっか……それが原因で周りと上手く馴染めなかったんだ」
今の火山さんからは想像が出来ない 誰に対しても優しくて笑顔が耐えないから
「でも、ミズキだけは何故か懐いてくれてね。幼稚園の頃はミズキの事良く、からかってたからね」
「……今もからかってると思うけど」
「そうなのかな。昔はわざとミズキが嫌いな虫を服の中に入れたり、隠れんぼしてる時に勝手に1人で帰ったりしてたけど」
それはイジメじゃない。って言おうか迷った末に黙っておいた
火山さんがまだ話しそうだったから
「そんな事してもさ。ミズキはボクから離れないんだよ」
「火山さんのこと好きだったんだろうね」
「どうだろね。ボクは好きだったから、からかってたんだと思うけど」
その『好き』が恋愛感情なのか知りたくもあったけど、聞く勇気はなかった
「ボクが色んな子と揉めて喧嘩するとミズキ怒るんだよ。ものすごく怖いんだよね」
言葉とは裏腹に笑みを浮かべる火山さん
「だから……ミズキに怒られたくないから、だんだんと我慢する事を覚えちゃった」
「一ノ瀬さん凄い。火山さんを手懐けたんだ」
「そうだね。ミズキからしたら凶暴な犬を
確かに火山さん犬っぽいかも
普通にしてるとキリッとしてて格好良いけど、笑うと人懐っこそうだもんね
「それからは本気で怒ったのは1回だけだよ」
「1回って、一ノ瀬さんがイジメられてた時? 」
「ひらっち、知ってたんだ」
「あっ……うん」
火山さんは『長くなるかも』って言うと紅茶を淹れてくれた
普段プロテイン飲んでるのしか見ないから、紅茶を飲む火山さんが新鮮に映る
「……でさ。ボクは塾に行かせられてたから、全然そんな事になってるって分からなかったんだ」
当時を思い出してるのか表情が険しくなっていく
「何で言ってくれなかったのか。怒っちゃったんだよね」
「一ノ瀬さんに言うのも酷だとは思うけど」
「今ならそう思えるよ……その時はボクを頼ってくれなかった事に腹が立ってたんだ」
「心配掛けたくなかった。とか」
一瞬鋭い目付きに火山さんはなったけど、すぐに戻る
「そこが1番嫌だったし。ミズキに取ってボクはその程度の存在なんだな。って」
「どういうこと? 」
「ボクはミズキのお陰で、周りと上手く付き合えるようになったのに、ミズキは頼ってくれなかった。そう思わせてしまった自分にもムカツイたよ」
確か小6の頃の出来事だよね
小学生なら上手に解決出来なくて当たり前なのに
どうやって解決したんだろ?
「一ノ瀬さんのイジメはどうやって解決したの? 」
「イジメてた奴ら全員ボコボコにした」
え? 凄い当たり前に言ってるけど、仕返ししようとして一ノ瀬さんに止められたって聞いたけど
「嘘だよ」
「その顔で言われると本当だと思っちゃったよ」
「イジメてた奴らを呼び出して、『ミズキを傷付けて良いのはボクだけだ』って凄んだら、パッタリとなくなったよ」
「なんて言っていいのやら」
「誰だって自分のものが知らない間に傷付けられてたら怒るでしょ」
ハハハ 苦笑いしか出来ない
もっと言い方あるだろうし、本気で火山さんに凄まれたら怖いもんね
小さい体全てが爆弾みたいなオーラたまに出ちゃってるし
「そっからだよね。ミズキが壁作って親しい人としか話さなくなったのは。そらっちとエイルっちも最初は凄い苦労してたもん」
「そうなんだ。でも、わたし競馬愛好会に入った時から話してくれてたような」
「それは、そらっちがずっ〜と話してたからね」
「話してた。って何を? 」
「ひみつ」
ほくそ笑む火山さん
一ノ瀬さんも前にそんな事を言ってたけど、
「だから、ミズキが『東大に行く』って言ったときは凄いビックリしたよ」
「まぁ。東大だもんね」
「そこもだけど。見知った世界からミズキ1人で飛び立つなんて思わなかったから、ビックリしたけど嬉しかった」
「火山さんの騎手になる。ってのに触発されたのかもね」
お互い刺激になって高め合える存在
わたしと空はそうなれてるのかな?
「ボクも騎手になる為の覚悟はしてるけど、一緒に卒業したかったよ」
卒業かぁ……あと1年あるけど火山さんとはあと1ヶ月くらい
何か皆でやって火山さんを送って上げたいけど
「火山さんって入寮するのは4月から? 」
「うん。その3日前くらいからはバタバタしてるだろうけど」
「じゃあ、春休み入ってから1週間位は空いてるんだね」
不思議そうに頷く火山さん
せっかくわたしを『競馬愛好会』に迎え入れてくれたんだ
今度はわたしが送り出す番だよね
スマホを取り出してグルチャに打ち込んだ
すぐにテーブルに置いた火山さんのスマホも点滅する
「え? ひらっち。『卒業旅行』って書いてあるけど」
「うん。火山さんの1年早い卒業旅行」
わたしはグルチャに『3月20〜27の何処か1泊2日で旅行しよう。火山さんの卒業旅行』って打ち込んだ
わたしから何かをしよう。って皆に向けて言うのは初めてかもしれない
でも高校生として最後にみんな揃って何かしたくなったんだから仕方ない
「早っ! もう、ミズキとそらっちからは日程来てるじゃん。しかも同じ25日」
「わたしはもちろん、その日でオッケーだけど」
「ボクもだよ」
後はエイルちゃんか。
エイルちゃん何気に長期休み入ると、おじい様にくっついて忙しくしてるから難しいかな?
「エイルっち。すごっ! 」
わっ ホントにエイルちゃんは凄いよ!!
『了解した』の文字と一緒に『アイラブエイル』の画像と日付の入った北海道行き航空券が5枚
もう航空券取ったって事だよね?
仕事が早すぎる
出来る女過ぎだわ
「『アイラブエイル』子ども産まれる時期だもんね」
スマホを嬉しそうに見つめながら優しく笑う火山さんにキュンとしてしまった
ごめんね、空。でも火山さんの笑顔がイケメン過ぎなんだもん
わたしは悪くないと思う
3年生では皆が決めた道を進むために集まる機会は少なくなる
何より5人揃っての旅行は高校生活最後だ
競馬愛好会に入る前はこうして誰かと旅行に行くなんて考えられなかったけど
今ではそれが凄い楽しみになっている
皆で想い出作るぞ!
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