第37競争 メリーゴーランド
「
「だね。寒さもあるけど眠気が一気に吹っ飛んだよ」
午前9時30分……開けている
朝6時前に起きて始発の飛行機で新千歳空港に着いた。
そのままエイルちゃんの手配してくれた車で『アイラブエイル』のいる牧場までやって来たは良いけど、着いてすぐに馬房の掃除をさせられている
「隣の馬房を掃除してるニコイチはニコちゃんが乗馬クラブで慣れてるだろうけど、アタシらで大丈夫なのかな? 」
「大丈夫じゃないけどやるしかないよ」
「まさか、アタシらが馬房の掃除をするとはね」
お馬さんが
水桶と飼桶を洗い場に運び綺麗にしてから馬房に戻り
今度は落ちているボロを取る
厩務員さんって凄いなぁ
これを毎日やってるんだもんね
馬って綺麗好きらしいしちゃんとやらないと
悪戦苦闘しながら空とボロを取り終わり、汚れた藁と綺麗な藁に分ける
綺麗な藁はそのまま馬房内に置いておき、汚れた藁を捨てる
仕上げに床を
「こんなもんでしょ。綺麗になったじゃん」
早く終わった火山さんは馬房の外から、わたしたちにレクチャーしてくれていた
外の新鮮な空気が早く吸いたかったので急いで外に出た
深呼吸をすると冷たい空気と一緒に春の息吹を感じられる草花の匂いも香ってきた
「ニコちゃん。臭いし床もあちこち湿ってるし、綺麗だと思ってる藁からボロが出たり、辛かったよ〜」
「お疲れ様。お馬さんは綺麗好きだから快適に過ごしてもらうようにしないと」
「どちらにせよ。牧場内にある寮に、ただで泊めさせて貰うんだ。これ位はしないとな」
「そうだけど……」
一ノ瀬さんの言葉に納得してないのか空は少し口を尖らせていた
よほど空には馬房の掃除が辛かったんだろうね
「ん、ただいま」
「あっ エイルちゃんお帰り」
お馬さんと一緒に帰ってきたエイルちゃん
厩務員さんはわたしたちにお礼を言うと馬房内まで、お馬さんを連れて行った
「ねぇ、エイル。『アイラブエイル』は予定日いつなの? 」
「ん、獣医さんは2週間後って言ってた」
エイルちゃんが言うには、お腹の大きくなったアイラブエイルは隔離された馬房にいて、馬房の外にはファンからの安産祈願のお守りが沢山置いてあるとのこと。
みんなアイラブエイルの子どもが楽しみなんだ
初めて知ることだらけだったけど、繁殖牝馬には繁殖牝馬の適切な管理ってものがあり、馬房内の照明の明るさや照明時間とかが細かく決められている
「ん、シャワー浴びて着替えたら少し遊ぶ」
何処で遊ぶのか分からないけど、シャワーを浴びてボロの匂いをしっかりと落として、エイルちゃんに皆で付いていくと放牧地の隣に小さいメリーゴーランドが置いてあった
「風間。なぜ、馬が沢山いる所に『メリーゴーランド』が置いてあるんだ」
「ん、牧場にいるスタッフさんで作った。小さい頃からあった」
すごっ! なんの為に作ったかは知らないけど
エイルちゃんは昔に乗ったことあるんだ
「エイルっち。これ回るの? 」
「ん? スイッチ分かる」
「じゃあ。ボク乗ろう、ミズキもだよ」
「私は良いって」
「ボクの卒業旅行でもあるのに? 」
ジト目で一ノ瀬さんを見つめる火山さん
「嫌な言い方だな。ニコは」
「さすがミズキ」
一ノ瀬さんは諦めたようにため息を吐くと、火山さんと一緒にメリーゴーランドに向かって行った
「ん、乗る」
エイルちゃんも行っちゃったけど
「
「うん。乗ったら寒そうだし、3人分っぽいから乗れなさそうだし、空は? 」
メリーゴーランドは小さく、乗れる馬も3人分しかなかった
「アタシも同じ理由。それにもう定員埋まっちゃったし。馬だけに」
「……空のせいで余計に寒くなった」
「その言葉を待ってました」
わたしに思いっきり抱き着いてくる空
冷え性で寒がりな2人だけど少しだけ温かくなった
「ってか、あの3人何してんの? 」
「そっか! エイルちゃんしかスイッチ分からないんだ」
メリーゴーランドが動かないので、3人がただ馬に跨ってるだけのシュールな
「ん、くぅ。そこにあるスイッチ押して」
エイルちゃんが指差した配電盤に近づき電源を空が入れると
ゆっくりとメリーゴーランドは動き出した
「さぁ。先頭は小さな巨人エイル号。それを見る形でオリエンタルビューティ、ミズちゃん号。最後方から未来のリーディングジョッキーのニコちゃん号」
空は楽しそうにメリーゴーランドに乗る3人の実況を始めた
「直線入っても逃げる逃げるエイル号。全く差は縮まりません」
「星宮。当たり前だろ! 差が詰まったら、それはそれで怖いだろ!! 」
「ん、先頭は譲らない」
「おぉっと。ここで最後方からニコチャン号が必死に鞭を入れている!! 」
メリーゴーランドであんな綺麗な騎乗フォーム見たことないよ
火山さんは騎手さながら鞭をメリーゴーランドに入れる仕草をしつつ手綱をしごいていた
「ニコチャン号、必死に追うが全く差は縮まらない!! 」
「くっ ボクは諦めない! 」
何なの? 火山さんのスイッチが入ったのか、さらに早く鞭を入れる仕草をしつつ、先程より強く手綱をしごく もう本当の騎手が競走馬に乗ってるみたいになってるよ
火山さんだけ見れば本物のジョッキーだ! って感動するかも知れないけど
馬が可愛らしいメリーゴーランドだからね
そのギャップに笑ってしまう
「ちょ、ニコ! 追い方が怖いから」
後ろを振り向き珍しく慌てている一ノ瀬さん
「エイル号。見事逃げ切ってゴールイン!! 2着にミズちゃん号。3着にニコちゃん号」
「ん、当然の勝利。完璧」
最近のマイブームなのか、わたしと空に横ピースを決めて通過していくエイルちゃん
「くそっ! ボクが最初から最後まで最下位なんて有り得ない!! もう1回勝負だ」
「有り得ないのはニコの頭だ! 星宮、次は最初にニコの名前を言ってやれ」
空は電源を切ってから両手で○を作った
呆れつつ一ノ瀬さんも、もう1回やってあげるんだ
「さぁ。第2回『メリーゴーランド杯』今、スタートです」
空がまた電源を入れると同じようにゆっくりとメリーゴーランドが動き出す
「さぁ。各馬順調なスタートです。ニコちゃん号が最後方」
「くそっ ボクはスタート出遅れたか!? 」
悔しそうに下を向いて拳を握る火山さん
「馬鹿か星宮! 」
「な 何よ!? 最初にニコちゃんの名前言ったじゃない」
「『先頭』って言えって事くらい分かるだろ。ニコも星宮が『各馬順調なスタート』言ってただろ、出遅れとかないから! 」
「ん、絶対に先頭は譲らない! 」
後ろを振り向いて珍しく大きい声を出すエイルちゃん
「風間も普段、そんなに負けず嫌いじゃないだろ!? 何故、闘争心剥き出しなんだ!! 」
前に後ろに横に一ノ瀬さんも突っ込むの大変そうだ
「……ニコちゃん号、1着でゴールイン」
半ば無理矢理に空は最後で火山さんを1着にした
「ん、八百長だ八百長」
「まだまだ、こっからだエイルっち」
火山さんは分かるけど、エイルちゃんも馬の事になると熱くなるのかしら
空がスイッチを押して止まってるのに、2人はメリーゴーランドに跨ったまま必死に前を見ていた
「無駄に疲れた。平地もずっと笑ってないで助けてくれても良かったのに」
「ごめん。外から見てる分には、あまりにも可笑しくて」
「ったく。外から見てるのは私の役割だったのに、寮に行ってるぞ」
「でも、ミズちゃんも凄い楽しそうだったよ」
空に言われた一ノ瀬さんは恥ずかしそうに『誰がだ』って呟くと早足に去って行った
メリーゴーランド1つでこんなに盛り上がれるって凄い
笑いすぎてお腹痛いし寒さも忘れるくらいだったよ
ようやくエイルちゃんと火山さんもメリーゴーランドから降りてきたので寮に戻る事にした
午後には『アイラブエイル』の馬房に特別に行くことも出来るみたいだし
あの
金髪の綺麗な毛並みのアイラブエイル
半年ぶりの再開だね
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