第14競争 日本ダービー
親は親戚の家に行ってるから夜まで帰って来ないのに、今日に限って
でも伝えたら伝えたで色々と聞かれるのもなぁ
「舞さ。今日は部活ないの? 」
「雨降ってるから筋トレくらいだし、家でやれば良いよ」
「友だちと出掛けてくるとか? 」
「えぇ やだよ。雨の中、外に出たくないし」
「カ カラオケとか? 」
リビングのソファで雑誌を読んでいる舞は明らかに面倒臭そうな顔をしている
「だるっ 舞が家にいたら行けない理由あんの? 」
「えっと、あるっちゃある……」
「あっ
テレビからの声に反応したのか雑誌のページを捲る舞の手が止まりテレビに視線を向ける
星宮さんが毎週日曜日に出てるローカル番組か
『うん。サックサクのタルトにラズベリーの甘酸っぱさと白桃の甘さが調和されてますね。ラズベリーと白桃なんてアタシのフルーツの推しカプですよ、もう口の中でイチャついて幸せになってます。ホント美味しいです』
『空ちゃん。推しカプ? なにそれ?? 』
「やだぁ。知らないんですかぁ? 推しカプは……」
日曜の昼前から何の話をしてるのか、テレビ用の星宮さんは、スタジオのMCと快活かつ軽妙な掛け合いを行いつつも、ショッピングモールにある地下フードコーナーのケーキを滑舌良くリポートしていた
普段の星宮さんとやっぱり違うなぁ こっちはこっちで素敵だけど、普段の星宮さんの方が好きだなぁ
「美味そう、食べたい。ってか星宮 空が可愛すぎるよぉ。なんであんな小顔でスタイル良くて顔も猫顔美人なの? 良いなぁ」
友だちをフルネームで呼び捨てにされるのは嫌だけど、褒められてるのは嬉しい。
でもなぁ、いまだにお互い苗字に『さん付け』だもんね
親しくなればなるほど抵抗も感じてくるよ
『そら』頭の中で星宮さんの名前を呼び捨てにしてみた 星宮さんはいつもの屈託ない笑顔で返してくれる
『そら』かぁ
「ねぇ、スイ姉。いい加減に前に星宮 空と一緒だった理由教えてよ。いつも曖昧にするしさ」
「う〜ん。もう、時間もなくなって来るから言うけど、今日来るよ」
「来るって何が」
「星宮さん」
「星宮さんってだれ? 」
「え? だから星宮 空」
テレビに映ってる星宮さんを指差しながら言ってみた
「んなバカな。家に来る理由なんかないでしょ」
「日本ダービーを一緒に観るから」
「にっぽん……だーびー? 競馬?? 」
「そ 競馬の祭典『日本ダービー』」
「はあぁぁぁぉ」
まぁ こうなるよね。それにしてもそんなに口を大きく開けなくても
「スイ姉が競馬辞典? 読んでたのは知ってたけど、どういう事? 全然わからない」
「4月に星宮さんと一緒のクラスになって誘われたのよ」
「誘われた。って競馬に? 」
「うん。『競馬愛好会』」
「『けいばあいこうかい?? 』 」
いくらなんでも驚き過ぎでしょ? まばたきするの忘れてるし
「女子校で? 」
「女子校で」
「競馬? 」
「競馬」
「愛好会?? 」
「愛好会」
「アイドンノー」
「That’s too bad」
「ごめっ。スイ姉のネイティブ過ぎて本当に分からないや」
簡単な英語だと思うけどスポーツ推薦で行けると思ってるから、全然勉強してないなコイツ
「とにかく。14時前には星宮さん来るから。で、リビングの大きいテレビで観たいから、舞は部屋にいてよね」
「生の星宮 空。見たい! 間近でなんて見れないもん」
「やだよ。アンタ変な事しか言わないじゃん」
「挨拶だけして喋らないようにするもん! 」
もう。だから嫌だったのに
なんで今日、雨降るのよ!
いつにもまして真剣な舞の表情に負けてしまった
「じゃあ、挨拶だけだよ。あと掃除するから手伝いなさい」
「了解です! 」
ビシッと敬礼する舞 ホント調子いいこと
「ちなみにサインとかぁ……」
「ダメ!! 」
「了解です」
しょんぼり声の舞だけど先に言ってくれて良かった
妹が星宮さんにサインねだるとか恥ずかしいだけじゃない
※※※
「良し。掃除も終わったし後はっと」
紅茶とクッキーを用意してるとチャイムがなった。
もう14時過ぎてたの? 星宮さん来ちゃったかな?
「舞が出る」
「ちょっと、止めてよ」
ソファから立ち上がる舞を何とか制しインターフォンを確認する。
『雨、凄いからタクシーで来ちゃった』
『今、下のドア開けるね』
エントランスのオートロックを解除し星宮さんが入るのを確認してから切った
「どうしよう。スイ姉緊張してきたよぉ」
「だったら部屋に行ってなよ」
「でも、間近で見たいし」
「アンタ、くれぐれも中学の友だちに言ったりしないでよ」
「なんで? 」
「なんでも! 」
ピンポ~ン
もう、舞のせいで心の準備出来ないままになっちゃったじゃない
洗面台で髪と服を急いでチェックしてから、タオルを手に取りドアを開けると、さっきテレビで見たままの星宮さん
「いらっしゃい。これ使う? 」
「お邪魔します。ありがと、さすが気が利く、平地さん」
受け取ったタオルでバッグやスカートについてた水気を払ってから靴を脱ぐ星宮さん
何か星宮さんを招き入れるって照れくさいな
「入って入って」と促しリビングへと向かう
「それにしても平地さんのマンション凄いね」
「そうなのかな? 良く分かんないけど」
「高層マンションってやつ? アタシ一軒家しか住んだことないからマンションに憧れるんだよね」
リビングのドア開けると何故か舞は床に正座でスタンバっていた
「お足元悪い中、よくぞ平地家にお越しくださいました。いつも姉が下世話しております、妹の『舞』と申し上げます」
深々した丁寧な土下座になってるけど、無理して難しい挨拶しようとするから余計にバカになってるじゃない!
「下世話にはなってないから大丈夫だよ。星宮 空です『舞』ちゃん宜しくね」
ズルい! あんな笑顔で返された上に、何で舞は初対面で平地さんから『舞』って呼ばれるのよ!!
「はぁ。神々しい……テレビで観るより目映いばかりです」
星宮さんはアハハと笑いながらわたしと視線を合わせる
「舞ちゃん。可愛いし面白いね」
「こんなんで良ければ、もう上げるよ。手遅れだろうし」
「良いの? それって、お姉ちゃんも付いてくる? 」
「え? お姉ちゃんって」
「ん? 平地さんも付いてきたらなって。あっ、これお土産だよ」
ど どどど どういう事なのかな? 別に深い意味はないよね?
ドギマギしながらお土産を受け取ると、星宮さんがリポートしてたケーキ屋さんのロゴが見えた
「うわぁ。さっき食べてらっしゃったタルトですよね? 」
「だね。4号だから3人だと少ないかもだけど」
「ありがと星宮さん。舞は挨拶済んだでしょ。部屋に戻りなさい」
見るからに膨れ顔の舞だけど、これ以上は星宮さんに平地家の恥を見せるわけにはいかないわ
「別に良いんじゃない。舞ちゃんも一緒に食べて日本ダービーみる? 」
「ハイ! めちゃくちゃ見たいです。頂いたタルト切り分けますね」
ここ何年かで1番スッキリとした『ハイ』を聞いたよ 普段は率先してやる事ないくせに『切り分けますね』とか、さっきまで競馬? みたいに言ってたくせに
星宮さんも星宮さんだよ。最初から今日は2人だけだったのに
「ミズちゃんは女の子の日がキツくて自宅で見る言ってたし、ニコちゃんはミズちゃんいないなら自宅観戦で良い。言ってるし、エイルはお祖父様と現地観戦だし、ダービーは皆で観たかったけどね」
ズキンと心が痛んだ……『皆で』その言葉は『わたし』が星宮さんに取って特別ではない事を表してるから
わたしも皆でいるのは楽しいし好きだけど、星宮さんと2人だけで会えるのはもっと
「スイ姉、紅茶入れといてよ」
「分かってるわよ」
つい口調がキツくなってしまう
妹に嫉妬する日が来ようとは……
タルトと紅茶を用意すると、ちょうど競馬番組が始り、ヘリ中継なのか上空から府中競馬場を映している
『世代の頂点を決める日本ダービー。ここ府中に選ばれし精鋭18頭が集結しました。強くなってきた雨の中、14時時点での観客数は11万人を超えております』
「すごっ! 競馬ってそんなに人が来るの?? 」
「だよ。晴れだったら15万人位は来たんじゃないかな」
くっ 妹と星宮さんが普通に話してるのが何故かイラッと来てしまう
テレビ画面は府中競馬場から『テネブラエ』の過去レースに切り替わっていた
『雄大な漆黒の馬体は常に後方から睨みを利かせ、ゴール前では常にその背中を見せ続けて来た。大差勝ち、衝撃のデビュー戦。上がり3ハロン32.7、直線だけでの15頭抜き。コースレコード1分57秒6、異次元の
スローモーションで流れるテネブラエのレースシーンにナレーションが加えられている
『4戦4勝。負けを知らない者に取っては、過酷な2400メートルの旅路もただの
画面には大きく日本ダービーのロゴが映し出され
スタジオへと移っていった
あぁ テネブラエがイケメン過ぎる 雨に濡れた筋肉質な漆黒の馬体とかエロ過ぎでしょ! まだ3歳でしょ? 人間で言ったら、わたしたちと同じ位の年齢なんでしょ? どんだけ色気醸し出してるのよ
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