第24競争 ニコイチ
お昼休み、エイルちゃんと一緒に屋上で
「アタシも前は2人をなるべく一緒にさせない方が良いと思ったけど。もう徹底的に話し合いさせようよ」
「出来るなら良いけど、あの2人は、一緒に行動もしないじゃない」
「今日の放課後は大切な話あるから顔出して。って、RINEする」
「不安しかないけど、エイルちゃんはどう思うの? 」
パックのイチゴミルクを小さい両手で挟むように持っているエイルちゃん
可愛い子が可愛い仕草で可愛い飲み物を持っている
ナデナデしたいなぁ
「ん、甘さが足りない」
「イチゴミルクの話じゃないよ。エイルちゃん」
「それに、エイルのイチゴミルク、けっこう甘いでしょ」
「ん、練乳が良かった」
「えぇ。アタシ練乳苦手、何か舌触りが変じゃない」
「空もなんだ。わたしも少し苦手……違う!
本当にこの2人は火山さんと一ノ瀬さんと仲良いの?
「ん、上村先生」
「上村先生がどうかしたの? 」
「上村先生に相談」
エイルちゃんにしてはまともな意見だけど
「そう言えばさ、ニコちゃん。前から事あるごとに上村先生に用事ある。って言ってたよね」
「それは火山さんの担任だからじゃない? 」
「もちろんそれもあるだろうけど、上村先生もやたらアタシたちに付き合ってれくれてるじゃん」
「だって、一ノ瀬さん脅してたし」
空はスマホをいじりながら納得してない顔をしているけど、上村先生は前から火山さんに騎手になりたい。ってのを相談されてて、わたしたちに付き合ってくれてた。って言いたいのかな?
「2人にRINEしちゃった。今日来てね。って」
「本当に大丈夫? 」
「大丈夫だって、アタシたちいたら邪魔になるから、部屋入って2人と少し話したら、適当に理由付けて部屋から出て隠れてよう」
「もぉ ドキドキするよぉ」
「じゃ、チューする? 」
「そのドキドキじゃないし、しない! 」
じゃ。って、何よ? じゃって。
エイルちゃんもいるのに
放課後になり3人で競馬愛好会に向かってるけど
これから起こるであろう事を考えると気は重い
「ねぇ。また言い争いになって、火山さんボルケーノになるんじゃないの? 」
「本当にヤバイな思ったらアタシたちが出ていく」
「ん、上村先生もいる」
エイルちゃんはそう言うけど、上村先生が来たところで意味あるのかな?
それに火山さん小柄だけど
わたしたちより絶対に筋力も体力もあるから怖いんだけど
あぁ 嫌だよ。怖いよ。帰りたいよ。
競馬愛好会の部屋にもう着いちゃうよ
絶対他に良い案があったと思うんだけどな
「170センチある一ノ瀬さんに、運動神経抜群の火山さんだよ? 」
「ミズちゃん黒髪前髪パッツンでオリエンタルだしパリコレ出られるよね」
また空は適当な事言って話を逸らす
「ほら。着いたし、入るよ」
「取っ組み合いになったらどうすんのよ。止められないよ」
ドアを開けた空に続いて中に入った
「ほら 取っ組み合いしてるじゃん! どうすんのよ、空……」
えぇ ちょっと待って!
本当に火山さん一ノ瀬さんの胸ぐら掴んでるけど
それに真っ向から視線をそらさず立ち向かってる一ノ瀬さん
「
「そうだけど早く止めないと」
「ん、ダメ! 」
わたしが止めに入ろうとするとエイルちゃんに片手で制された
しかもエイルちゃんの大声とか初めて聞いた
「昔、いじめられてた私に言ってくれたよね『ボクが守る』って」
一ノ瀬さんの声は震えていたけど火山さんから目を逸らさない
「私、ワガママだから」
「知ってる」
「ずっと守っててよ。私は強くなんかない」
「知ってる」
「ニコが言ってくれたんだよ。『ずっと一緒だよ』って、それを信じてそれに縋って生きてきたんだ私は」
「ボクは離れたとしてもミズキとは『ずっと一緒』だと思ってる」
爆発しそうな感情を抑えようとしてるのか
火山さんは声を押し殺そうとしている
「そんなの『一緒』じゃない! 」
「ねぇ、ミズキ。ボクは騎手を目指す事を誰になんと言われても反対されても良い。でも、ミズキにだけは応援されたかった」
「出来る訳ない! 今までに中央で活躍した女性騎手なんていない。良くて4.5年しか持たなかった。落馬や怪我のリスクだって常に付きまとうのに……」
一ノ瀬さんの泣き顔を初めて見てしまった
それは見てはいけないようなものを見る感じがして
一ノ瀬さんから目を逸らしたくなってしまう
「騎手にならなくたって乗馬で良いじゃん。ニコが怪我したら嫌だ。辛い思いをニコがするのも嫌だ。受かったら高校すら一緒に卒業出来ない。私は嫌だ」
言い終わると強く唇を噛む一ノ瀬さん
普段は自分の感情や想いを言わない人だからこそ
わたしの胸にも強く突き刺さる
上辺だけで応援するよ。とか、期待してるね。何て事はいくらでも言える
心から火山さんを心配してる一ノ瀬さんは 自分のプライドも捨ててるんだろうと思えた
「ミズキは頭が良いから先を読むことも出来るかも知れない。あれこれ事前に策を練る事も出来るかも知れない。でもボクはバカだ、先を読むことも事前に策を練ることも出来ない。いつでも全力でその場を戦って行く事しか出来ない」
掴んでた一ノ瀬さんの胸ぐらを火山さんは一気に引き寄せると、2人の顔がくっつきそうになる
「ミズキに見えてる未来を変えてやる! ボクが変えてミズキにも最高の景色を見てもらうんだ! ボクと一緒に」
もう涙で顔もぐちゃぐちゃになってる一ノ瀬さん
「最高の景色? 」
「あぁ。ミズキが思う最高の景色ってどんなの? 」
「そんなの……そんなの
引き寄せていた胸ぐらをパッと離すと火山さんは、弾けるような笑顔を浮かべた
「でしょ。その最高の景色をミズキに見せるって約束する。ボクは騎手になってリーディングジョッキーになって凱旋門賞を取る」
「……凱旋門賞なんて日本人で勝った人いないよ」
「ボクが初めての日本人騎手になる」
「無理だよ」
「無理じゃない。ミズキ小6の頃に言ってくれたじゃん。もう一回言ってよ、ボクも自信になるから」
一ノ瀬さんは手のひらで涙を拭うと深く息を吸った
「ニコは誰よりも強くて誰よりも優しくて誰よりもヒーローなんだ」
「ボクは皆のヒーロー何かにならなくていい。ミズキだけのヒーローになりたい。だからミズキの言う最高の景色を1番近くで見ててよ。……ね」
火山さんに抱き締められた一ノ瀬さんは
はぁ〜。と、大きく息を吐いてから小さく頷いた
ってか、間近でこんなもん見せ付けられてわたしが恥ずかしいんだけど
隣を見たら空も泣いてた……
「私がこれだけ言っても揺るがないんだね……仕方ない、ニコ頑固だし。誰も応援してくれないと思うから誰よりも応援する。
抱きしめ合いながら2人は言葉を囁い合っていた
わたしたちには聞こえなかったけど、それは2人にしか分からなくて良いことだ
「ん、まだ合格してない」
ああぁぁ エイルちゃん
最後まで我慢出来なかった?
薄々、わたしも思ってたけど
それは今、言うことじゃないよ!
「風間、合格するよ。だって本気になった
初めて見る一ノ瀬さんの素の笑顔は子どもっぽくて愛らしかった
「それもボク知ってる」
「調子に乗るな」
一ノ瀬さんに叩かれる火山さん。
でも火山さんの顔は凄い嬉しそうだ
「騎手試験で勉強とか実技の乗馬が忙しいのは分かったから、特別に2次試験終わるまで、取ったノートは貸してあげる」
「わーい。ミズキ大好き」
「それは知ってる」
いやぁ 良いものを見させてもらった
2人が仲良くなって良かった良かった
ニコイチは周りが騒いだとしても2人だけでしっかり答えにたどり着けていた。芯では信頼関係があるからた
感動に浸ってたら、勢いよくドアが空いた
「遅くなったけど2人とも落ち着いて……あら? 風間さんどういうことよ? 」
「ん、もう終わった」
2人の取っ組み合いを見て上村先生に連絡してたみたいなエイルちゃん
「ひなちゃん先生。もう、大丈夫! ボク絶対に合格するよ」
「そ。何か分かんないけど良い顔になったわね火山さん」
もしかして本当に上村先生は火山さんの為に福島競馬場とか北海道とか付き合ってくれたの?
「上村先生もやはりニコに肩入れしてたんですね」
「火山さんが騎手になりたがってたのは昔から知っていたわ。でも、肩入れでも
「なんのですか? 」
「火山さんが騎手になった時に直前の馬の調子や作戦とか教えて貰おうかと」
「それ、完全に違法ですよ」
「…………冗談よ」
なに、今の間は?? 違法行為する先生とかわたしも嫌だよ
「まっ。風間さんも2人を心配して先生を呼んだんだろうし、風間さんにも感謝しなさいよ」
「ありがとうエイルっち。そうだ、ミズキTシャツ着よう」
「Tシャツ? 風間のお土産のか」
「うん。エイルっちからのお土産、着てないでしょ」
「それはそうだが」
「着よう。感謝の意味も込めて」
エイルちゃんが買ったのは2人がTシャツを着て並ぶと、日本国旗になるオリジナル言ってたやつだったけど
「ミズキ。これ意外と着心地良いね」
「だな」
後ろ姿を見てるわたしたちには
2人が並ぶとハート型になっていて一ノ瀬さんの方にはアイラブニコ
火山さんのは方にはアイラブイチノセと書いてあった
しかもご丁寧に横並びになると、上手い具合に『ニコイチ』になる文字配置にしてあった
笑いながら空が『ダッサ』と言っていたけど
センスのないわたしから見ても本当にどうしようもなくダサかった
でも並んだニコイチの文字を見るとそんなのどうでも良いと思えた
この2人がいつまでもニコイチなのは変わりないのだから
2.5章 完 3章に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます