第5競争 種付けとブラッドスポーツ
日本競馬の『クラシック』とは
皐月賞、ダービー、菊花賞を勝った馬はクラシック3冠馬と呼ばれるが日本競馬史上、成し得たのはわずか8頭のみである。
なるほどねぇ、クラシックの意味がやっと分かったわ。
この前やってた桜花賞ってのもクラシックレースなんだ。あれ? 桜花賞に勝ってもクラシック3冠馬にはなれないの??
「スイ
「ちょっと、ノックしてから入って。って、いつも言ってるじゃん」
机に広げていた競馬辞典を慌ててノートで隠すも、目ざとい妹の
「ノックしたし。後、これ返すね」
「ノックと同時に入って来たら意味ないでしょ。って、また人の本を勝手に持ってくな」
「別に良いじゃん。で、いま隠したのは新しいBL本ですか? 読み終わったら貸してね」
わたしの部屋から持ってった本を机の上に置いたかと思うと
「やっぱり障害が多い恋って良いよね。伝えたいけど伝えられず葛藤しながら悶え苦しみ、隠しながらもつい、態度と言葉に出ちゃってて、それに気付いて最初は嫌嫌ながらも段々と受け入れて行く……」
「まだ続く? 」
「うん。とにかくムカつくヒロインもあざといヒロインも出て来なくて最高だよ。尊い、ひたすら儚く尊い。BL本だらけの部屋で一生を過ごしたい。あぁ狂しい!! 」
鼻息荒く目を輝かせながら、どんどん早口になっている
わたしの影響とは言え、中3の受験生なのに大丈夫かコイツ?
「で、スイ姉。そちらのBLはどの様なシチュで? 」
条件反射で隠しちゃったけど別に隠すもんじゃないし良いか
被せてたノートを取り払う。
「これは違うって。友だちから貸して貰った競馬辞典だよ」
一気に困惑顔になる舞。たしかに突然競馬辞典なんて見せられたらそうなるよね
「スイ姉……友だちいたの? 」
そっちでの困惑顔かよ。
そっか。わたしは自然と『友だち』って言っちゃてたんだ
「でも、競馬なんて女子高生らしくないね」
「アンタの思う女子高生らしさってなによ? 」
「もちろん『
ん? え? えぇ??
えぇぇぇぇ
「あれ? そう言えば『星宮 空』ってスイ姉と学校同じじゃなかったっけ? 見たことある? やっぱり生でも可愛い?? 」
「あ、うん。可愛い……かな」
「良いなぁ。うちの学校の女の子たち、みんな憧れてるよぉ。仙台じゃなく東京で芸能活動すれば良いのにって」
「へ、へぇ〜」
「星宮 空が出てる土日やってるローカル番組の話で月曜日話題になるし、ロケで行ったお店は混雑しちゃうし」
「ふ ふ〜ん……」
「今度伝えといてよ。『いつも可愛くて面白くて元気貰ってます、ありがとう御座います。これからも憧れさせて下さい』って」
その憧れてる子から借りた辞典なのだけど、何か星宮さんのイメージの為にも言わないほうが良いだろうな。言ったら言ったで面倒くさそうだし
「まぁ。スイ姉が星宮 空とお近付きになる事なんてないだろうけど」
「そうだね言えたら言っとくよ」
「競馬に興味持ち出すようなスイ姉には一生ないない。新しいBL買ったら教えてね」
「教えても貸さないけどね」
「なんだかんだスイ姉、舞ちゃんに甘いの知ってるから。おやすみ」
無邪気な笑みと妹特有のわがまま甘え上手を発動させてから、片手をひらひらとさせ帰ってった舞。
なんだろう? 間違いなくスタイル良いし可愛いしオシャレだよね
舞から聞いた星宮さんの印象と、わたしの感じる星宮さんの印象が絶妙に合わなくて気味悪い感じは……
「星宮さんいつも可愛くて面白くて元気貰ってます、ありがとう御座います。これからも憧れさせて下さい」
「あ ありがとう。って、入って来るなり突然どうしたの? 平地さん」
「これ、妹が星宮さんに伝えて欲しいって」
「妹さんいたんだ。じゃ、妹さんに『ありがと。逆にいつも元気貰ってるし、憧れさせるのでこれからも応援してね』って、ウインク付きで伝えて」
「え? それはさすがに嫌かな。妹にウインクでその言葉はレベル高いもん」
皐月賞当日。13時30前なのにエイルちゃん以外が揃っているなかでの開口一番わたしから出た言葉だ。
午前のローカル番組の生放送を終えた星宮さんの私服姿は、清楚系ピンクのワンピース。
制服姿も可愛いけど美少女にオシャレ私服の掛け合わせは、確かに同性でもキュンとしてしまう。
「ボクの弟もそらっちLOVEだからね」
「ニコちゃんの弟さん可愛いよね」
「まだ5歳だし。そらっちが近付くと真っ赤になって俯いちゃうからね。それに可愛いって言ったら、そらっちのワンピース似合ってて可愛いよ」
「ありがと『テネブラエ』が大外の8枠だから合わせたんだ」
「8枠は騎手の帽子がピンクだもんね」
「そ 大外から豪脚一閃上がってくるピンク帽の『テネブラエ』ってね。あっ 平地さん紅茶淹れるね」
「自分でやるから良いよ」
「良いから良いから。今日は八大競走で特別茶葉だから」
八大競走? 特別茶葉?? また知らない言葉が……特別茶葉は競馬と関係ないか。
しかも枠によって帽子の色って決まってるの初めて知った。その枠に服の色を合わせてくるとは、さすがはクラシックレース。
無駄に覚えたての言葉を使いたくなったけどわたしも知らずにテンション上がってるのかな。
一ノ瀬さんはいつも通りタブレットとにらめっこしてるけど
「まずいな。ここまでのレースだと思ったより内側の馬場状態が悪くないみたいで、逃げ、先行も粘ってるな」
「じゃあ。大外の『テネブラエ』キツイじゃん」
紅茶を淹れながら星宮さんが心配そうに呟く
「いつもより前目で競馬するか、もしくは一か八かでイン突きするか」
「大丈夫大丈夫。マクリ気味に大外ぶん回しても余裕で届くでしょ。全レースで上がり32秒後半から33秒前半で来てる馬だよ」
クッションを膝とお腹の間に挟みながら体育座りするような体制でソファーに座る火山さん。
イケメンがこじんまりとしてて可愛い
「2戦は東京の高速馬場だった時で、前走はハイペースだったからな」
「そこはペース読みの上手い畑騎手だから大丈夫だって」
「始まる前から凄いドキドキする。平地さん淹れたよ」
話に付いて行けず、星宮さんに礼を言って差し出された紅茶を口に入れると
初めての味に感動してしまった。
こんなのに慣れてしまったら、普通のティーパックの紅茶が飲めなくなりそう。
八大競走だからこそ飲める紅茶らしいけど
「おはよ。15時になったらお越して」
扉が開いたかと思うと眠気眼のエイルちゃん登場
何でエイルちゃんはジャージを着てるんだろ? と言う疑問を口に出す前に、トコトコ歩いては定位置のソファーですぐ横になるエイルちゃん。
「寝る子は育つっていうけど、アレ嘘だね。ボクも睡眠は取ってる方だけど」
「まぁ。エイルだし」
「しかし風間は何でジャージなんだ? 」
「まぁ……エイルだし? 」
流石にジャージまでは予想出来なかった星宮さんの疑問形に思わず笑ってしまった
「星宮さんのワンピとか、すぐに季節分かるけどエイルちゃんは季節感0だね」
「平地さん。服装から季節感感じるタイプか」
「え? 衣替えとかもあるし普通じゃない?」
「もちろん。それもあるけど、クラシックレース来たら春で、ローカル競馬来たら夏で、連続G1始まってきたら秋で、2歳G1来たら冬。だなって」
「そらっち。競馬あるあるだね」
あぁ わたしは競馬愛好会にいたんだ。と思わせる季節の感じ方だ。
「まっ 今みたいに仔馬が産まれてくる季節が春ってのは分かるがな」
珍しく声を出して笑う一ノ瀬さんだけど
「馬って春産まれが多いの? 」
「あぁ。南半球だと違うが日本では、3月~5月に種付けして11ヶ月後に産まれる」
「じゃあ牧場の人たちは、今の季節大変そうだね」
「1年中大変だろうがな。種付けの時は特に注意しないと馬が事故で死ぬ場合もあるし」
え? 死ぬって……種付けってアレだよね?あの事だよね??
「不思議そうな顔してるがセッ○スして何故死ぬのか考えてるのか? 興奮した牝馬が
慌ててソファーで寝ているエイルちゃんの耳を塞いだ
「ま まだエイルちゃんには早いから」
「いや、風間は寝てるし同じ年齢だ。それでなくても馬主の孫娘で学んでるから知ってるはずで、平地の顔が赤いのだが」
「だ だって2ヶ月で200回って……1日何回も」
「あぁ。1日に3頭位に種付けするのも珍しくない」
「1日に3回も……」
頭の中では腐女子の性なのか、男同士で絡み合って脳内変換されてしまう
「馬主さんや牧場サイドの考えで、持ち馬の牝馬全頭に同じ種牡馬を充てがう事もあるからな」
「同じオス……」
ま まさかの総攻め……
「ブラッドスポーツ。血統が全てだからな、1流の血が欲しいのは何処も一緒だ。種牡馬も血を残すのが使命であり本能だから、ヘトヘトになりながらも頑張るんじゃないか」
「ヘトヘトになりながら1流のオスの……」
両手を拘束されたエリートサラリーマンのメガネが少しズレ、ネクタイは緩んでいた。エリートサラリーマンは苦痛に顔を歪めながらもギシギシと……
「大事な仕事だから、携わる人間も細心の注意を払い無事に終わるように見守る。そして次の世代へとバトンタッチされ、競馬ファンは親の面影を追いながらレースを見守る。って訳だが平地? 」
ハッ いけない。エリートサラリーマンにトリップしてした
「ねぇ、平地さん。攻めの反対ってなに? 」
「え? 受け。でしょ」
星宮さんの質問の意図が分からない。何が聞きたいんだろ?
「何が『普通』かは分からないが『守り』『防御』って答える人が多いだろうな」
真顔の一ノ瀬さんがタブレットに視線を戻す。
あれ? 攻めの反対は受けだよね?? わたしも何が普通か分からなくなっちゃった
「ひらっち。別にBL好きって多いし、隠そうとしなくても大丈夫だよ」
「星宮の質問にあんな簡単に『受け』って答えるとは思わなかったがな」
「わたしも興味あるから今度、平地さんのBL本で朗読会しようよ朗読会」
「黙読で良いだろ。やるなら星宮1人でやれ。私を巻き込むな」
「ボクも読むのは良いけど朗読は嫌だよ」
「えぇ。良いじゃん朗読! 」
こんなにもあっさりと受け入れられるとは思ってなかった
しかも星宮さんが1番乗り気なんだけど
「ほら。テレビ始まったぞ星宮」
「朗読面白そうなのに。エイル起こさなきゃ」
エイルちゃんを起こすと星宮さんは私の隣に座り直し耳元に手を添え囁いて来る
「面白そうじゃんね。今度、2人で朗読会しよ」
朗読の何がそんなに面白いのか分からないけど、香水の甘い匂いと耳元のくすぐったさに思わず目を瞑った。
テレビからは今回の大本命『テネブラエ』の紹介が聞こえて来たけど、それ以上に自分の心臓が一気にバクバクと暴れ出した
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