最終競争 そして
久し振り……でもないよね?
お正月に皆で会ってるから2ヶ月ぶりくらいかな
今日も
「
「うん、
わたしは3月産まれだから未成年だけど
4月産まれの空は成人してるもんね
わたしも来月の誕生日迎えたら上村先生と飲みたいな
「ん、くぅは? 」
「アタシは外れたよ……だって、ミズちゃんが絶対に5番だ。言ってたし」
咳払いして黙り込む
東大に行っても相変わらずデータ集めはしてるのに当たらないね
前に水季ちゃんが雑誌に寄稿した血統の話は凄い勉強になったし面白かったのに
「水季ちゃん。雑誌に載ってた血統のコラムは勉強になったよ」
「馬ゲノム研究してると、血統の奥深さや妙が凄い面白いんだよ」
「ミズちゃん、ストップ。話長くなるから、前も遡って100年前までの色んな血統を延々喋ってたし」
それは疲れる
2人は東京に住んでるから、しょっちゅう会ってるみたいだもんね
良いなぁ わたしも東京の大学受ければ良かった
「エイルちゃんは大学良いの? 」
「ん、フリーダム」
「それって、イギリスの大学がフリーダム何じゃなくて、エイルがフリーダムなだけでしょ? 」
「ん、人生は長い」
「相変わらずエイルはエイルだね。イギリス人も戸惑っただろうね」
エイルちゃんは何にも属さない風みたいだもんね
風の吹くまま気の向くまま
「いつ来ても、この『ウンベラータ』綺麗に手入れしてるな」
「あぁ エイ……それは特別だから」
空が微笑みながらわたしに目配せしてくる
このハート型のウンベラータは空が引っ越す時にプレゼントしたものだ
ちゃんと南向きの出窓に飾っている
内緒だけど2人の間ではウンベラータを『エイル』って呼んでいる
後から知った事だけど『ウンベラータ』の花言葉は『永久の幸せ』『夫婦愛』だった
その事を空が最初から知ってたのか分からないけれどプレゼントした時に『彗からのプロポーズだ』って言いながら抱き締められた
「皆、聞いてよ。情報解禁になったから言うけど、アタシ夏アニメの準ヒロイン決まりました」
わたしは昨日言われてたし、空の出てる雑誌や記事は、どんなに小さくてもスクラップしていた。
水季ちゃんもエイルちゃんも自分の事のように喜んでくれてる
「やったな星宮! ちょいちょい名前のある役やってたけど、遂に準ヒロインまで行ったか」
「ん、どんな役? 」
「何か5人組の地下アイドルが異世界転生するやつ」
「良く分からんが、おめでとう!! 」
一ノ瀬さんもどんな顔していいか分からなくなってるじゃない
原作は人気ラノベなんだけど一ノ瀬さん知らないだろうし
「ん、もうそろそろ」
時計を見ると15時になろうとしていた
「もう、こんな時間なの? 時間経つの早すぎるよ。空、TVつけるよ」
リモコンを手に取りTVをつける
上村先生も入ってる競馬の有料チャンネルだ
空もマンションに越してきてすぐに契約した
「ミズちゃん。ドキドキするね」
「べ 別に。まだレースに出る訳じゃないし」
水季ちゃんって本当に強がるよね。誰が見ても緊張してそうなのに
前の番組が終わりTV画面には
『特別版、新人騎手インタビュー』
のテロップが出てきた
「おぉ。ニコちゃんだ! ニコちゃんがいるよ」
「そりゃいるだろ! 騎手になったんだから」
今日、皆で集まったのは、3月1日に騎手免許が交付されデビューする、新人騎手のインタビュー番組を観るためだ
騎手学校の前で並ぶ7人の中に
興奮気味に空が口を開く
「この世代って、もう『花の40期生』って呼ばれてるよね」
「ニコと、あと1人女の子いるし、畑騎手の息子や有名調教師の息子にイケメン双子いるから注目度は高いみたいだな」
凄い同期生たちだよね。
新煌ちゃんは騎手学校1年目の正月に帰省して来たとき
東大に向けて猛勉強中の水季ちゃん抜きで今日みたいに集まったけど、新煌ちゃんは途中からわんわんと泣き始めた
新煌ちゃんが弱音を吐いたり泣くなんて、それまでは考えられなかったから、どうして良いか分からず猛勉強中の水季ちゃんに頼ってしまった
新煌ちゃんは男子との体力差や筋力差を感じて騎手としてやっていけるか、眠れない日々をずっと過ごしていたんだ
水季ちゃんが新煌ちゃんに何て言ったかは分からないけど
騎手学校に戻るときの新煌ちゃんはスッキリとした顔をしていたのは覚えてる
『では、次に5年ぶりの女性騎手となりました、火山騎手。意気込みと目標をお願いします』
「みんな。しっ ニコちゃんの番だよ」
じっとテレビを皆で見つめる
こっちまで緊張して来ちゃったよ
『1日も早く勝ち星を上げること。目標はリーディングジョッキーと凱旋門賞ジョッキーです』
記者さんたちから『おぉ』と言うどよめきと同時に失笑も聞こえてきた
女性騎手が中央で活躍出来るとは思ってないのと、凱旋門賞ジョッキー何て馬鹿げてる。と思ってるんだ
「普通なら失笑だろうが、火山新煌は最強なんだ。絶対になる」
水季ちゃんの言葉は自分自身にも言い聞かせてるみたいに思えた
画面の中の新煌ちゃんからは、強い眼差しと強い意志が感じられる
わたしも絶対にリーディングジョッキーと凱旋門賞ジョッキーになる。って信じてるよ
『なんか〜。こっちの人より1勝でも多く勝って〜。こっちの人よりも早く〜。凱旋門賞ジョッキーになる。みたいな』
なにこの女の子!?
新煌ちゃんの次にインタビューを受けた
ポニーテールの可愛い顔した女の子は、新人騎手には似合わない気怠げな喋り方だった
後で教官とかから怒られるでしょ
絶対に騎手学校入る前はギャルだったね
今にも欠伸しそうなんですが
良く3年間も厳しい騎手学校にいれたわね
「
「え!? このギャルだった。みたいな子が。畑騎手の息子や調教師の息子もいるのに?」
空も同じ印象だったのね
「ん、この子の父親もジョッキー」
「そうなのエイル? 」
「ん、八百長疑惑で干された」
エイルちゃんの話を聞くと、一条 優那の父親は、大井競馬場のトップジョッキーだったけど、八百長疑惑で干され、フェードアウトするように騎手を辞めてったらしい
もちろん八百長の証拠もなかったから事件性にもならず
娘も中央の騎手になることが出来た
八百長があったかどうかは本人たちしか知らないだろうけど
干された事が原因で騎手をフェードアウトした事実は消えない
新煌ちゃんも本当に凄い同期ばかりだね
一生懸命応援しないと
「じゃ。ニコのインタビューも観たし帰る」
「ん、また来る」
「気を付けてね。エイルもちゃんと大学行きなよ」
「ん、善処する」
玄関まで水季ちゃんとエイルちゃんを見送った
水季ちゃんとは、すぐ会えるだろうけどエイルちゃんと会えるのはお盆かな?
「彗。もう21時過ぎだけど泊まってくよね? 」
「うん。明日の昼くらいに帰るよ……キスマーク付けたら怒るよ」
「付けた。んじゃなくて、付いた。んだもん」
「『付いたんだもん』じゃないよ。隠すの大変なんだから」
この前泊まった時にキスマークを首に付けられていた
「だって。付けとかないと、また
「高校と大学だから、そんなに会わないって」
「4月からは同じ大学じゃんか」
わたしの首に腕をまわして抱き着いてくるけど
遠距離になってからやたらと空は焼き餅を焼くようになったな
「テレビ見えないし、テーブルに置いてあるマグカップ落ちちゃう」
「見なくて良いって」
マグカップも2人で3年前に買ったの
まだ一緒に使ってるもんね
空は腕だけを伸ばしマグカップを
テーブルの奥へとずらした
もう ちゃんと見ずに押しちゃって
逆に危ないじゃん
そのままソファに押し倒される
わたしのオデコ、鼻、頬、耳の後ろ
首すじ 鎖骨……
優しいキスが降り注ぐ
少しずつ溺れ行く感覚の中で
視界の端っこに映ってたのは
「あっ! 新煌ちゃん。また出てる」
「……午後に観たインタビューじゃん」
「ほら、今度は『アイラブエイル』の子どもの『オンリーワンエイル』の話題だよ」
「アタシらが出産に立ち会った仔馬でしょ。今年のクラシックの主役だって、凄いね。ますます応援しないと」
「おぉ 次は『テネブラエ』の初年度産駒特集だって。どれも格好良いし可愛い。さすが『テネブラエ』の子どもたちだ」
おあずけされてる事に我慢が出来なくなって来たのか
頬を膨らませる空
「アタシとテネブラエ。どっちが大事なの? 」
「そりゃ……」
言わせる気ないじゃん
わたしの言葉は空の唇で塞がれた
もう何回キスしてきたか分からないけど何回だってしたくなる
テネブラエも好きだけど
わたしを競馬に出会わせてくれた1番大好きな人
これからもずっとずっと ず〜〜〜っと
大好きだよ 空
完
うまじょ!! ちーよー @bianconero
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