第26競争 文化祭①

 すっかり日も暮れた競馬愛好会の部屋では

 時計の針がチクタクチクタクと響いていた


 話し合っても結論に達しず

 文化祭での出し物候補を1人1枚、紙に書いて一ノいちのせさんに提出する事にした


「読み上げるぞ」


 一ノ瀬さんは一枚ずつ紙を開いていく


「焼きそば」


 あっ わたし書いたやつだ。

 簡単で需要もあるし無難だけど失敗もする事も少ないから良いと思うけどなぁ

 衛生検査が厄介だけど


「ビューティーメイク」


 これはそらだね メイクをして上げるのか、流行りのメイクや化粧品を紹介するのか分からないけど

 空がするなら人は集まりそう


「ネットカフェ」


 一ノ瀬さんかな

 絶対に面倒くさいから受付だけで済みそうな楽なのを書いたわね


「模擬裁判」


 ……エイルちゃんでしょ

 何で文化祭で模擬裁判なんてするのよ 何を裁くのよ



「模擬裁判って絶対にエイル書いたでしょ? 」

「ん、証拠は? 」

「いや、証拠って。そんなの書くのエイル以外いないでしょ」



 空に向かって言い掛かりだ。と、でも言わんばかりに強気なエイルちゃん

 空は少したじろいてはいるけど負けずと言い返す


「だって、『焼きそば』がすいで、『ネットカフェ』がミズちゃん。アタシは『ビューティーメイク』だし」

「ん、ただの予想」

「そうだけど、普通に考えたらそうじゃん」 


 わたしもそう思うし誰だってそう思う


「別に誰が何を書いたかはどうでも良い。ここからどれを選ぶかだ」

「そうだね。ミズちゃんはどれが良いと思う? 」

「私は」


 一ノ瀬さんが言い終わる前に片手を上げるエイルちゃん


「ん、異議あり。裁判長」  

「やっぱ。エイルじゃん」

「ん、被告人はダマって」

「何でアタシが被告人なのよ」



 こんなのばっかだから先に進まないんだよ

 もう19時になっちゃうよ

 無駄な時間も青春と言えば青春かも知れないけど

 あまりにも時間が勿体ない

 今日はまとめて買った新作のBL本が届く日なのに


「今日はもう帰ろ。また、明日決めようよ」

「平地から切り出すのは珍しいな」

「でも、彗の言うとおりだね。帰ろ」


 空が立ち上がり帰ろうとすると


「ん、被告人退出」  


 エイルちゃんはあくまでも模擬裁判やりたいんだね

 空の舌打ちだけ聞こえてきたよ

 普段は舌打ちなんてしないのに





 翌日も翌々日もなんの進展もないまま週が開けてしまい

 騎手試験を受けていた火山ひやまさんが競馬愛好会に復帰してきた

 試験の事はみんなあえて聞かなかった

 本気で挑んだ結果がどうであれ、試験を終えた火山さんの顔は晴れ晴れとしていた



「そんなの簡単じゃん。悩む必要ないよ。ボクたちにしか出来ない事があるでしょ」

「アタシたちにしか出来ない……」

「ん、世界征服」

「いや。アタシたちに出来たら、もう誰かやってるから」

「ん、世界制服」


 制服の襟を掴むエイルちゃん

 何かが閃いたのか

 パンっと両手を空は叩いた


「世界の女子高生の制服展示会! いろんな国や宗教や民族あるから、制服も色んなのあるし。女子高生のアタシ達が1番合ってるね」


 目を輝かせ熱弁を振るう空


「彗にも来てほしい制服あったんだよね。似合うと思うよ」


 何か空の言い方がイヤらしいのは気のせいなのかな


「全然違うよ! 競馬だよ、ケ・イ・バ」

「ん、ゲ・イ・バ・ー」

「ボク、ボルケーノになるよ」


 だんまりを決め込むエイルちゃん。エイルちゃんの口から、そんな言葉が出て来た事に驚いちゃうよ



「ニコ。競馬って言っても表向きは『イマドキ同好会』だぞ」

「だから? 『イマドキ同好会』で競馬を紹介すれば良い」

「アタシが言うのもおかしいけど、ここの生徒もだし女子高の文化祭に来る人たちとマッチしないよ」


 普通は空の言うとりだと思うけど、火山さんの案は凄い良いと思った


「でも、わたしも最初は競馬に全く興味なかったよ。キッカケさえあれば好きになってくれる人は絶対にいると思うな」


 一ノ瀬さんは俯いて険しい顔をしながら「競馬の紹介……」と呟いたかと思うと顔を上げた 


「たんに競馬の紹介だけじゃつまらない。日曜は菊花賞の生観戦をして、私たちにしか出来ない競馬の魅力を伝えよう」


 菊花賞って言ったら、わたしの推しメン『テネブラエ』の無敗3冠が掛かった大切なレースじゃない!


「まず競馬の魅力を伝える為の動画を作る。これは私が編集する。で、競馬の魅力を伝えるシナリオを平地が書いてくれ」

「わたし? 何でわたし?? 」

「現国の成績が私の次に良いから」

「え? そんな理由」

「後は初心者目線だったりで書けるだろうからな」



 確かに初心者と言うか何も知らない人たちに向けて作るんだから、1番競馬歴が浅いわたしが適任なのかも


「分かったけど、どんな動画を作るかは教えてよ」

「もちろんだ、2日で仕上げる。で、星宮は平地が作ったシナオリに声を入れてくれ」

「ナレーションってこと? アタシやった事ないよ」

「調子に乗るから言いたくないが、星宮の声は聞きやすい」

「あぁ。良く言わ」

「で、ニコと風間は他にやって欲しい事があるが、それは土曜の人の集まり次第だな」



 一ノ瀬さんに遮られシュンとしている空だけど

 空の声は聞きやすいし可愛いからね。みんな聞き惚れるよね 分かるよその気持ち

 顔も声も可愛いとか、ホント反則だよね  

 さすが私の好きな人だ


「水曜までに動画は編集する。平地は悪いが金曜の夜までに動画に付けるシナオリを書いてくれ、そのまま金曜の夜に星宮に声を入れてもらう」

「アタシ達も、もう1週間前に決められてれば少しは余裕あったのにね」

「風間が模擬裁判とか言ってたからだろ」

「ん、異議あり」



 エイルちゃんが喋った所で笑い出す火山さん


「たった1ヶ月位離れてただけなのに、やっぱりボクここが好きだなぁ」


 騎手試験に受かってしまえば、火山さんは騎手学校での寮生活になっちゃう

 わたしたちがこうして一緒にいられるのも、あと半年もないかも知れないと思うと寂しくなってしまう


「だろ、ニコ。まずは『イマドキの女子高生』は競馬も嗜む。って事を教えて上げよう」

「あぁ。ボクたちにしか出来ないね」



 火山さんの提案により『イマドキ同好会』で『競馬』を紹介すると言う おそらくは女子校史上、前例のない文化祭での催しを決めたのでした

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