第24話 裏切り者
「イッ、ッー」「当たり前だろ、よくもまあこの程度で済んだもんだ。しかしお前糸を使ってこんな真似出来たのか?」
都市に帰ってきた真は、いの一番に壁も床も天井も一面の白に覆われた…先のような白では無く無機物らしい白に覆われた病室だ。
真が関わった任務の関係で、医務室は使うわけにもいかず、やむなく十二秘奥用の部屋を内田の手によって簡単な病室にしての治療を行なっている。
と言っても、真の傷は殆どが糸で塞がれ、精々するとしても開いた傷をもう一度縫いとめるところくらいだ。
麻酔があるとはいえ、魔力の関係で薬物耐性が高いために真は鈍い痛みにうめく。悠太はそれを聞きながらも真に包帯をキツく巻いていく。
ぎゅっ
「うっ、痛いっ」「おっと、悪い」傷が包帯によってわずかに抑えられた時に引っ張られたらしい。分かりやすく顔を顰めた真に、悠太は今回の件について話を振る。
「たぶん、殺戮人形って呼ばれるやつだと思う」そう言いながら、真はつい先日に戦った黒木を思い出していた。印象は、儚い黒髪の人形のような美人なのに相反する身体能力の持ち主だ。
刀を折らずにコンクリートをいとも簡単にヒビを入れられるのは、化け物というには筋肉の質が異常だ。魔力の気配も殆どなかった。あれで、魔力が極めて高く、身体強化等を使われていたら大惨事だった。
「あれか黒木とかいう美人ゴリラか。俺たちと相性悪いだろ。特に真は近接才能ないし」
「…それは、まあそうだけど…ね」
「このままだと、お前も俺も琴音ちゃんに近接格闘負けるんじゃねえかな?」さらりと内心思っていたことを言われて、端正な顔を真は歪ませられた。というか、実際のところ琴音には正真正銘負けている。
特筆すると、真はあの蠍の尾は近接武器で切れないし、ましてや刀なんて扱えない。精々がナイフ。
とはいえは、糸か鎖を使えば話は別だ。けれど武器の部類として糸と使い方としては鎖も中距離から遠距離が適性だ。
断じて近距離で戦えるわけではない。
となると俺は何故、対応できたのだろうか?ふとした疑問が、やはり彼に対して謎を深める。
「ま、難しい顔は神楽が来るのを待っときな。お前の取った情報が想像の域の遥か上を行っていたんだ」
その言葉に真が振り返って悠太の顔を覗きこむ。そこには、悔しさが滲む顔があった。
「裏切り者がいたんだ」
ーー時は、真が帰還した直後に遡る。
『ちゃお、神楽。早速で悪いがこいつを見てくれたまえ』真が任務から帰ってきて早々、神楽に直通の暗号回線で第七席に就任予定の女からメールが届いていた。
大抵の場合、良くないことの前触れとして彼女のからの連絡を神楽は使っている。
どうせ、今日も徹夜になりそうなのだ。覚悟を決めて添付されていたデータをすぐさま読み込み、内容を漏らさないように精査する。
そこには、過密事項である幻葬士の属性適正から施設内の設計図、はたまたワープ装置のデータが全て敵対組織のPCファイルに入っていた。
「敵対組織のデータ一覧にウチの機密事項の身体データが載っている?そうか、裏切り者がいるということか!!」裏切りそうな人間がいるとは思ったが、まさかここまで情報が漏れているなんて。
流石の神楽も、これには本気で冷や汗を流す。漏れた情報はいずれも重要性が高くも機密としてのランクは低い。とは言え、特に漏れたら不味いワープ装置の情報と建物の設計図だ。あれには、隠しコードの手がかりとなる暗号がある。
『話が早くて助かるよ。そこから先の仕事はもう済んでいる。とりあえず分かっている犯人は2人さ。処分の仕方は君が決めてくれ。あっそうそうMr.スパイことチェインに伝えておいてくれないかい?一つ私の方から頼みたいことがあるんだ。勿論、謝礼もするとね。じゃ、頼んだよー』
どうやら、どこのどいつが裏切ったかは分かるらしい。そいつの情報を送るように頼むと神楽はコーヒーを淹れた。
今日も、完徹だ。
「はあ、取り敢えず……明日には月葉に命令して期限は一月。参ったなぁ、来年からは期待の新人くんが来るのに」
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