第31話 真第二章 ようこそオロチの巣へ
「俺の話聞いてくれるよな?」
俺を圧倒した老人は、糸で俺の体を縛って、話を続ける。
「俺はこんななりだが、スパイだ。お前のような才能のある小僧が欲しくてな。試すついでに唆させてもらった。おっと拒否権は無いぞ。俺は
次に真が目を覚ましたときにはガーディの肩の上だった。
「おっ、良いとこで目覚めたな。後は歩け」
肩から降ろされた真の目前には、巨大な洋館があった。貴族が住まう宮殿と呼べるような館だ。ガーディが居なければ、あんぐりと口を開けてしまう。東瀛のどこにこんな場所があったのだろうか。隣接する建物同士は、城壁のように、視界を覆っている。どこの街かは分からないが、この街で暮らす人間は誰1人として、この洋館の存在を知らないだろう。
(なんでこうなるんだ……)
真は唾を飲んだ。
一体、俺はどうなるんだ。けれど、今はこの状況を乗り越えなければ帰れないだろう。そう覚悟を決める。
不安で高鳴る鼓動を抑えて、真は洋館の扉をくぐる。「ベラ〜俺が帰ってきたぞ」スパイにあるまじきガーディが堂々と名乗りを上げる。さぁ、出て来いスパイたち。期待と緊張込めた眼差しで真は前を向く。ん……?とそこで内心、首をかしげることになる。やけに気配が少ない。巨大な洋館に比べて、気配はたったの二つ。もちろん、ガーディを除いてだ。
「ねえ、貴方」
羊羹の玄関先そこにいたのは真と歳の変わらなそうな1人の少女。
彼女は大きな旅行かばんを抱えて、来訪者であるこちらに視線をよこしてきた。どうやら彼女はここに招待された人間らしい。全身を見てみれば、真と同じく、幻葬士のものを身に付けている。
「行政機関での成績を教えなさい」
「は?養成機関?オロチの人か?」
「くだらない嘘をつかないで頂戴」凄みを効かせたに真も自然に口調も強くなる。
「養成機関なんて知らない。今日連れてこられたばか」その答えを遮って、一際大きな不気味な音が玄関に響いた。時計の音だ。正面にかけられた振り子時計が館内に響く音を響かせた、示された時刻を見れば、6時。遠の昔に帰宅している時間だ。
「なんだい、ガーディ。面白いもの拾ってきたね」少女と真、そしてガーディが一斉に顔を上げる。玄関正面の大階段の上には、いつの間にかスーツをまとった人物が現れた。肩近くまで伸びた上とは裏腹に焼けた肌のせいで、一瞬長髪の男性に見えたが、よく見れば、骨格が女性だ。見るからに健康的な女性だ。その肉体は、スーツの上からでも分かるほど無駄が一切感じさせないものだった。一体何歳なのだろうか?
「ようこそ、小童ども。オロチの巣へ。私は『八蛇』のスパイ、ベラだ。」オロチの巣ーーそれがこの建物の名前らしい。
女は階段の上から降りつつ、説明を続ける。
「歓迎するよ。私とガーディを含めたお前達が『八蛇』のメンバー全員だ。このメンバーでこれから先、任務に明け暮れる」
「は?」真が尋ね返す。
「任務は、これから一週間後。それまでお前達を鍛え上げるが……そうだな、今日は急なことで疲れただろう。訓練は明日からにして、親睦を深めるとしよう。ガーディ、私は料理を用意する」
ベラは身を翻して、館の奥に消えていった。唖然とした。彼女は今何と言った?
『八蛇』のメンバーは4人?任務まで一週間?
「急な話ね。近頃は、表の無能ばっかりだし仕方ないか。それで、あんた名前は?」
凛然と、少女は真に指を指す。
「……真だ」
「ルーよ。よろしく」
手を差し出してきたので、握手した。
それを見て、ガーディは嬉しそうに2人の肩を叩いた。
「俺は《虚妄》のガーディだ。ま、とりあえず今日からよろしくな?」そう言ってガーディもベラと同じように館の奥へと消えていった。
余りにも、自然な流れで消えていったものだから、真とルーは顔を見合わせてしまった。
大人の2人が何も説明せず去ったので、2人は勝手に館を探索した。オロチの巣の内装は見るからに豪勢だった。ひょっとするならば、十二秘奥の会議室より、金がかかっている。建物内には青い絨毯が、談話室には、高級品である筈の革張りの椅子とアンティークの机が並んでいる。キッチンには食器棚、調理器具等に高級料亭でのみ使われる品が並べられ最新式の魔導コンロが設置されていた。地下には、サウナを含む大浴場や運動ができそうなほど広い部屋もある。最後に大広間に向かうとメッセージを見つける。壁には大きなコルクボードがあり、たくさんの紙が画鋲とともに貼り付けられていたその中で1つの新しいものがある。丁寧に書かれた美しい字。ガーディが書いたとは思えない。
『オロチの巣・生活のルール』
そこには、ここで暮らすための規則が細く記されていた。
「ここで、暮らしていいのか…」ルーが女男瞬かせた。えぇ、と真はうめいた。
コルクボードには、自由に使用して良い部屋や館がどこにあるのかを示す地図もあった。なるほどなるほど、と2人は読み進めていくがいくつか首をかしげるものがあった。
それらは筆跡がバラバラで、おかしな内容ばかりだ。
ルール57 セーフハウスでパーティーをする
ルール37 死者が出た日はパーティーをする
ルール42 食事に毒薬を混ぜること
2人の頭に?が浮かんだ。
前者は、やけに子供じみているし、特に残り2つの後者は、まるっきり意味がわからない。
2人で頭をひねるか答えは出ない。
その時真はテーブルの上に封筒を見つけた。中には、カードと札束が入っている。
「金もあるのね。せっかくだし、外で何か買ってくる?」
札束に関しては1年はゆうに暮らしていけるほどの資金だ。この分なら少し使う分には構わないだろう。せっかくなので2人は晩御飯の代わりになる食材を用意した。ベラは料理を用意すると言っていたので、2人で1品をつくる。
洋館の調理品はどれも一級品でクセがあるそのくせ、すべて新品ではなく使い込まれた味があった。真はともかく、おそらく女スパイとして鍛えられたルーは一通り家事ができるのだろう。あっという間に1品が完成した。
「お、うまそうだな」
そこにガーディがやってきた。料理ができたらしく、呼びに来たのだろう。ニコニコと笑いながら2人を連れて、ダイニングルームに向かう。途中、ガーディは色々としゃべってくれた。人材が少ないだの、ベラは俺と同世代だの。本人は軽い口調だが、意外と重大な話であったりして戸惑いが隠せない。
「着いたな。いやー助かる。ベラは料理があまり、うまくなくてな。あーそうだ。真、お前帰らなくていいのか?」
とってつけたような言葉に真はおろか、ルーも絶句した。
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