第16話 ウチのメンバー強すぎない⁉︎

 会議室での話は進み、議題にある琴音の立場についての話になった。


 会議室のテーブルには、琴音に説明する為の様々な資料が置かれ、司令官になった神楽と琴音が向かい合うように座っている。


 神楽の後ろには真が立っており、反対に座る琴音を見つめる視線は何処か悔恨を孕んでいた。


「さて、色々とトラブルだらけで話が進んでなかったけど……有原琴音さん、貴方は幻葬士になりたいそうですが……。貴方には、己の命を懸けて他人を守る覚悟は、己が命を大切にする覚悟は、己の命を守る覚悟は、己の戦友たる仲間が、己が死ぬ覚悟はありますか?」神楽が琴音に対して死ぬ覚悟を、死ぬより恐ろしいであろう決意を問う。


 そして、その答えは「はい、なります。ならせてください」琴音は迷いのない瞳を神楽と師匠である真へと向け、そう決意を言い切った。


 琴音の瞳と言葉を見て神楽は内心微笑んだ。しかし顔に出さず「分かりました」と一言だけ返し、考え始めた。一方、神楽の後ろに立つ真は苦虫を噛み潰したような渋い顔で琴音を見ると、なんつー弟子だと思った。だが、彼女の決意を邪魔することだけはいけないと考え、そのまま続きを見守っている。


 神楽が黙り、真は無言で立ち、琴音をまるで裁くかのような状況になった。さながら琴音は被告人で、裁判官が被告人に判決を言い渡す。その僅かな時が永劫に等しく感じた。


 そして、神楽の口がゆっくりと開かれる。

 「ようこそ、幻葬士特務部隊十二秘奥へ。私達は有原琴音さん、貴方のことを歓迎します」

 

 「はい‼︎ よろしくお願いします!」望んだ歓迎の言葉を聞いて琴音の顔がパァっと晴れる。その笑顔を見て思わず、真は琴音から視線を逸らす。


 「さて、次ですね琴音さん。貴方は幻葬士特務部隊に所属することになります。既に両親からは確認を取っていますが……もう一度、話し合って貰う必要があります。また、幻葬士として認められ、特務部隊として働き始めた場合、貴方は学校を当分休むことも有り得ます。それでも、いいですね?」今度は特務部隊員である七海が再度、検討をするように促す。


 「構いません。その為に私はここに来て立っているんです」毅然とした様子で琴音は返事を返す。


 「ならば、私からは言うことは有りません。じゃあ、よろしくっす」そう言って七海は琴音に握手をする。


 「さて、終わったな。次は私からだ」


 「内田さん?」琴音が首を傾け、疑問符を浮かべる。


 「真、君には十二秘奥の第三席への打診が来ている」琴音は恥ずかしさに視線を逸らした。

 

 一方、真はやはりかと納得していた。(やっぱりか。そりゃ、そうだ。今までの戦果と今回の一般人を保護しつつ単独の領域破壊、戦果としては充分だろうな。だが……)

 

 「何故、第三席なんですかね?」当然の疑問を浮かべた真は内田に問いかける。


 「現在、十二秘奥の所属者は私を含めて四席しか埋まっていない。そして私を含め二人しか戦闘可能な者がいない。今回の件で所属者の数は君を含めてようやく七席だ。よって、君に打診が来た訳だ」「戦闘用の駒ということだと……」「いや、そうでは無い。第三席は諜報担当だ。今回、第三席に求められるのは斥候としての戦闘能力と諜報能力だ。そして、君はその二つを非常に高いレベルで満たしている上、他の能力も平均と比べ、非常に高い水準だからだ」


 「成る程そういう…ってちょっと待て、つまり琴音も十二秘奥に?」「そうだ。私、月葉、琴音君、君、第零席の神楽、第七席の北条、第六席の桑原。これで七席になる訳だ」


 「でも十二まで人数、足りないですね……」ポツリと琴音が呟いた言葉は真に事実を叩き付けた。


 「嘘ですよね?」


 「事実だ、大人しく認めるんだな」仕事内容を七海から耳打ちされたらしい神楽は、何処か遠くを見ながら、上層部に感謝と、やってくれたなという悔しさ、双方入り混じった複雑な感情を抱いた。


 「なんで俺が昇格なんですか⁉︎」一転して否定の言葉を声を荒げながら発した人間の顔を見れば、どうしても嫌だ。そんな風な心情までありありと表現されていた。


「冗談を言うな、自分がどれ程の功績を挙げてきたか知らない訳ではないだろう?」神楽は涼しげに、どこか遠くを見ながら呟いた。ヒラヒラと片方に手を向けて振っているあたり、真には諦めろ。と伝えたいらしい。


「だからといって、十二秘奥はないですよ⁉︎」十二秘奥の一員である内田が語った人数の問題。恐らく内田が言っていないだけで問題点や課題は山積みだろう。そんな状態の部隊の一員。それも、斥候兼戦闘員という複雑多岐に渡る任務が課されるであろう第三席はごめんだった。


「とっとと受け入れて仕事しろ、連れて行け」いよいよ、真が垂れ流す駄々を聞いているのも面倒くさくなったらしい。


 これなら無理矢理どかした方が楽だと考えた神楽は書類に集中して指示を出した。


「は、了解しました」やけに忠実な内田が真の背後に現れ、口を荒げる真を捕まえると何かのスイッチを押した。その後すぐに内田は真を離した。


「ふざけんなぁぁぁ!後で覚えてろ糞上司ィ俺はお前を許さn」内田の拘束が外れた真は一瞬で距離を詰めようと足に力を込め飛び掛かろうとした時だった。


 パカっ


「ハ?」「「あ」」


 バタン


「よろしかったので?」地下に落とされたであろう真はブチ切れるだろうな。と思った七海は指示を出した神楽に、あんな真似して良かったの?と問いかける。


「構わん、あいつなら問題ないだろう」書類に集中している神楽は真が突如として開いた落とし穴に消えたことに気づいていない。至ってドアの向こうにある事務室に入ったのだと思って空返事で返してしまう。


「それもそうですね」だが、かく言う七海も真の能力の高さは理解しており、それもそうかと納得してしまった。総じて真だけが自分の能力の高さ、具体的にはA級5人に匹敵するS級3人分の実力。を理解していなかったりする。


ドゴン


バギャアン

「ふざけんな!内田さん、アンタ俺をどこまで落としたんだよ⁉︎」突然、落とし穴から凄まじい音と共に真が飛び上がって出てきた。


落とし穴から飛び上がってきた真の腕には魔導で生み出された鎖が絡み付いている。どうやらワイヤーの代わりにして落とし穴から這い上がったらしい。


 「早いな!」無傷、かつあまりの速さで戻って来た真の姿を見て、内田が驚きを見せた。


 「軽く地下5階を通り越して存在しない階ファントマ・フロアにまで落としたんだが……」


 「道理で誰もいないし、やけにヤバい防衛施設だったわけだな、クソッタレ‼︎」その言葉を聞いた真が更にキレた様子を見せる。実際、魔力は漏れ出し、真の周囲にミラージュチェインという称号の元になった鎖が待機状態で空中に模様を描いた。


 「悪かったな。だがそれ以上は駄目だ。《魔力霧散ディスペル》」それを見かねた内田は穏便に済ませる為に魔導を使って鎖を砕きに掛かる。


 ビシ 


 鎖にヒビが入る。「はあ⁉︎」「何だと⁉︎」

 二人は互いに驚いた。内田は砕けなかったこと驚きを見せた。オリジナルの魔導である《魔力霧散ディスペル》を使ったのにだ。 

 一方で真はヒビを入れられたことに驚いていた。何も攻撃されていないのにだ。

 

 「一体、どんな規格外の魔力量と操作なんだか」「どんな知識持ってればそんな真似が出来るんだよ」互いに文句を吐く。そして次の行動に移ろうと


 ヒュン


 「師匠、そこら辺で」「内田さん、そろそろ止めた方がいいすっよ」今度は女性陣が真達を止めた。琴音の手には一体何処から出したのか分からない刀が握られ、真の首に突きつけられている。一方で七海の手刀が内田の首に触れている。


 『すみません(すまん)』有無を言わせぬ迫力に謝罪をする真達。


 「落ち着いたみたいだし、話をするよ真君」


 「何だ?」


 「琴音ちゃんの面倒見てあげてね」


 「は?」


 「同棲するってこと」


 「えぇ、嘘ですよねそんなゲームみたいなこ……と」(そういやここ、ゲームの世界やん⁉︎)


 「彼女の両親は了承してるから、安心していいから、ね?」


 「琴音、君も……」うるうると懇願する瞳を向けられ、流石に他の人が助け舟を、反対してくれと周りを見るが、神楽達は全員ないわぁという表情を向けてくる。それを見て仕方がなく、折れる真。


「だが、家はおろか、部屋なんてないぞ」「あ、それなら大丈夫っすよ。十二秘奥には基本的に宿舎代わりに家が支給されるんで万事OKっす」


 「先生にバレるから無理だ」「えぇ、言ったなかったんですか⁉︎ そのさっき、報告されちゃってます。そのウッチーと神楽さんが……ね」申し訳なさそうに告げられた死刑宣告を聞き。


 「嘘だ‼︎‼︎‼︎」絶対に濡れた絶叫が響いた。


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 こうして、俺は孤児院への道を歩くことになったのだ。上司からの命令と仕事を片手に乗せて。


 「これから、よろしくお願いしますね。真さん」


 ……どうしてこうなったんだろうか?

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